司馬倫2 趙王マジ空気  

江南こうなんの名士、顧栄こえいが、

洛陽らくように出てきていた時の話である。


司馬倫しばりんの要請を受けて

宴席に赴いてみれば、

そこではあぶり肉が

実地で振る舞われていた。


顧栄もそのあぶり肉を貰いに行く。

すると、あぶっている人が

もの欲しそうに見ているではないか。


「私はいい。

 これは、君が食べなさい」


そう言って顧栄、

あぶっている人にその肉を与えた。


この振る舞いに、

同席している人は大爆笑。

下人なんぞに何をしているのか、

と言う訳だ。


しかし顧栄は平然と返す。


「かれは、自分がどんな肉を

 あぶっているのか

 理解しているのだろう。


 これだけの上等な肉を、

 日がな一日あぶるのだ。

 かれとて、そのご相伴にあずかっても

 良いのではないかね?」


さて、後日。中原の争乱に伴い、

顧栄も江南に引き返すことにした。


道中、様々な危地に巡り合ったが、

側仕えが決死の体で顧栄を守ったため、

無事、顧栄は故郷に帰ることができた。


そう、あの肉をあぶっていた人。

かれがその側仕えだったのです。




顧榮在洛陽,嘗應人請,覺行炙人有欲炙之色,因輟己施焉。同坐嗤之。榮曰:「豈有終日執之,而不知其味者乎?」後遭亂渡江,每經危急,常有一人左右已,問其所以,乃受炙人也。


顧榮の洛陽に在るに、嘗て人の請うに應ず。炙を行う人に炙を欲せるの色有すを覺り、因りて己は輟め施す。同坐は之を嗤う。榮は曰く:「豈に終日にして之を執りたるに、其の味を知らざる者有らんや?」と。後に亂に遭いて江を渡れるに、危急を經るごと、常に一なる人、左右に有り。已にして其の所以を問わば、乃ち炙を受けたる人なり。


(德行25)




顧栄

陶侃とうかんのところでちらりと言及したひと。顧氏は孫呉そんごの時代にはもう「江南の盛族」として知られた大名家である。司馬炎しばえんの天下統一に伴い、かれや陸機りくき陸雲りくうんと言った江南の名士は、一度洛陽に召集を受けている。中原の動乱にあって、生き延びることができた顧栄、殺された陸兄弟。あまりにも紙一重の明暗である。


しかし趙王さまマジで出番ねえな。

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