謝玄2  恵施の言葉   

司馬道子しばどうしが、謝玄しゃげんに聞いたことがある。


名家めいか恵施けいしは、その言葉を

 五つの車に満載するほどに

 書き残したという。


 だが、その言葉の内に

 まるで玄妙なるものはない。

 これはどうしたものなのだろうな」


おおっと司馬道子さん、

ここで諱犯しムーヴ。

これは喧嘩売る気まんまんですよ。


が、謝玄はしれっと答える。


「その言葉の含意が、

 まるで伝わらなかったから、

 ではないでしょうか」


あっ、これ

「バカなお前にゃわかんないよ」

ムーヴですね……。




司馬太傅問謝車騎:「惠子其書五車,何以無一言入玄?」謝曰:「故當是其妙處不傳。」


司馬太傅は謝車騎に問うらく:「惠子は其の書を五車すれど、何をか以て一なる言とて玄に入れる無からんや?」と。謝は曰く:「故より當に是れ其の妙なる處が傳わらざるなり」と。


(文學58)




さて、恵施は荘子そうじのライバル。と言ってもだいたいボコされる役回りだが。つまり、荘子の言の「玄」なる所の引き立て役と言った感じである。


んー。これは人間関係からたどるべきかなー。謝安しゃあんが司馬道子によって

中央から遠ざけられている。その影響は甥の謝玄にも及んだだろう。



その一方で、名家の論法と言えば「白馬論」がある。「白馬は馬じゃない」というアレだ。謝安はこの論について、阮裕げんゆうに全力で質問しており、そうすると名家的論法にも通暁していたんだろう、と思われる。


そこから拾うと謝安は名家に対して一定のリスペクトを持っていたかもしれないし、ってことは英才教育を受けていた謝玄も、もしかしたら名家的思考のルートを持ち合わせていたのかもしれない。


人間関係、及び名家に関するある一程度のリスペクトの仮定。以上を積むことで「道子、アンタ愚鈍だな」って婉曲に言っていることになる。


まぁ、ちょっとここまで積むのは結論ありきなのできついですけどねー。



(後日追記)


司馬道子が謝玄の諱犯してるの、

初読時に抜かしてた……。


そこ踏まえれば、

完全に殴り合いじゃんこれ…

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