簡文3  宴席の竺法深  

竺法深じくほうしんと言う僧侶がいた。


とにかくこのひと、後進の者から

あれこれ言われることが多い。


これに苛ついた竺法深は、

こう言うのだ。


「嘴の黄色いひよっ子供が喧しい!

 拙僧は元帝明帝、王導おうどう庾亮ゆりょうといった

 トップネームとも誼があったのだぞ」



などと言っておきながら、

一方ではこんな振る舞いもしている。


竺法深じくほうしん、簡文さまの主催する宴席に出席。

それに対し、劉惔りゅうたんがツッコむ。


「お坊さんなのに、なんでこんな偉い方の

 宴席にいらっしゃるんですかねえ?」


すると竺法深は答える。


「偉い人とか貧しい人とか

 どうでもいいですよ。

 教えを乞う方がいる、ならば出向く。

 拙僧にできるのはそれだけです」


一説によると、この問いは

卞壼べんこんが発した、とも

言われているらしいが、さて。




後來年少、多有道深公者。深公謂曰:「黃吻年少、勿為評論!宿士昔嘗與元明二帝、王庾二公周旋!」

後來の年少に多く深公を道える者有り。深公は謂いて曰わく「黃吻の年少、評論を為す勿れ! 宿士は昔には嘗て元明二帝や王庾二公と周旋したり!」と。

(方正45)


竺法深在簡文坐、劉尹問道人:「何以游朱門?」荅曰:「君自見其朱門、貧道如游蓬戶。」或云卞令。

竺法深の簡文が坐に在れるに、劉尹は問うらく「道人は何をか以て朱門に游ぜるや?」と。荅えて曰く「君にては自ら其れを朱門に見ゆるも、貧道は蓬戶に游せるが如し」と。或いは卞令の云えらくとす。

(言語48)




竺法深

どうも王敦おうとんさまの弟らしい。清廉の誉れ高いお坊様という事になってるが、誰にでもありがちなこのダブスタ的振る舞いに、更に面白い背景も加わることとなり、ニヤニヤが止まらなくなってきた。


卞壼

蘇峻そしゅんの乱で敗死する人。東晋朝にあっては清廉潔白で多くの人が恐れ敬っていたという。劉惔についてはまだあんまり色付けたくないけど(ここから先でうさうさと出演する)、卞壺の言と仮定すると、思いっきり竺法深を dis る方向のエピソードになる。

ところでこの人の名前、壼(こん)なんですよ。壺(こ)=つぼ、じゃないの。なんの罠なんですかね?

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