殷羨1  不良ポストマン 

殷羨いんせん豫章よしょう郡に配属となった。


さあ出発するぞ、と言うとき、

建康けんこうの人びとが殷羨に、

ぼくも私も、と手紙を託す。

その数数百余り。


アホほどの手紙を抱えた殷羨、

石頭せきとう城から長江を望む。


手紙をぶちまける!

そして叫ぶ!


「沈まば沈め、浮かばば浮かべ!

 誰がプリーズ Mr. ポストマンじゃ!」


なら受け取んなよ。




殷洪喬作豫章郡,臨去,都下人因附百許函書。既至石頭,悉擲水中,因祝曰:「沈者自沈,浮者自浮,殷洪喬不能作致書郵。」


殷洪喬の豫章郡に作さるに、去るに臨み、都下の人は因りて百許りの函書を附す。既に石頭に至らば、悉く水中に擲ち、因りて祝して曰く:「沈む者は自ら沈み、浮く者は自ら浮く、殷洪喬は書郵を致すに作す能わず」と。


(任誕31)




なお豫章は建康けんこうから見て、長江の上流。

手紙が沈もうが浮かぼうが、

絶対に届きません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る