元帝3  後継者問題1  

元帝、皇后てい氏が可愛いので、

元々皇太子に指名していた司馬紹しばしょうを廃し、

鄭氏の子である司馬昱しばいく(後の簡文帝かんぶんてい)を

皇太子に立てたいと思った。


臣下総ツッコミである。


「いやいや待ってくださいよ、

 長幼の序乱す意味がわかんないです、

 つーか司馬紹さま

 めっちゃ英明じゃないですか、

 どう考えても後継として最適でしょう」


特に周顗しゅうぎ王導おうどうと言った辺りは、

ほんと勘弁してください、と粘りまくる。


そんな中、刁協ちょうきょうと言うひとだけは

元帝におもねりたいがために

元帝の意向を支持。


と言う訳で元帝さま、

この意向を強行するための策を考える。


皇太子交代の詔勅を発してみたところで、

どう考えても周顗や王導は受け取らない。

なので、まずは二人を呼び出し、

別箇の詔勅を飛ばして、

別室に追いやろうと考えた。


その隙に刁協に

皇太子交代の詔勅を渡そう、と目論む。


さあ、周顗と王導を呼び出し、

更に詔勅を飛ばす。

この企ての意図に気付かない周顗、

特に疑いもせず別室へ。


しかし王導は違った。

詔勅をはねのけ、ずかずかと元帝の元に。


そして言う。

「陛下、ずいぶんと不思議な詔勅を

 お下しになるようですな?」


ば れ て る。


元帝さま、懐から

本命の詔勅を取り出し、王導の前で

びりびりに破り捨てざるを得なかった。

もう何もいえねー。


こうして明帝の後継が確定した。


のだが、この事態を受けて

愕然とするのは周顗である。


「わしは常々王導より上だと

 思っておったのに、

 実態はどうだ、

 全く叶わぬではないか!」




元皇帝既登阼,以鄭后之寵,欲舍明帝而立簡文。時議者咸謂:「舍長立少,既於理非倫,且明帝以聰亮英斷,益宜為儲副。」周、王諸公,並苦爭懇切。唯刁玄亮獨欲奉少主,以阿帝旨。元帝便欲施行,慮諸公不奉詔。於是先喚周侯、丞相入,然後欲出詔付刁。周、王既入,始至階頭,帝逆遣傳詔,遏使就東廂。周侯未悟,即卻略下階。丞相披撥傳詔,徑至御床前曰:「不審陛下何以見臣。」帝默然無言,乃探懷中黃紙詔裂擲之。由此皇儲始定。周侯方慨然愧嘆曰:「我常自言勝茂弘,今始知不如也!」


元皇帝は既に阼に登らば、鄭后の寵せるを以て、明帝を舍て簡文を立てんと欲す。時の議者は咸な謂えらく:「長を舍て少を立つるは、既にして倫に非ざるの理なれば、且しく明帝の聰亮英斷なるを以て、益ます宜しく儲副と為すべし」と。周や王ら諸公は、並べて苦はだ爭うに懇切たり。唯だ刁玄亮は獨り少主を奉らんと欲し、以て帝の旨に阿る。元帝は便ち施行せんと欲せるも、諸公の詔を奉ぜざるを慮る。是に於いて先に周侯と丞相を喚びて入れ、然る後に詔を出して刁に付せんと欲す。周と王は既に入る。始めに階の頭に至れるに、帝は逆め傳詔せしめ、遏めて東廂に就かしむ。周侯は未だ悟らず、即ち卻略して階を下る。丞相は傳詔を披撥し、徑ちに御床の前に至りて曰く:「陛下の何をか以て臣を見えしむを審ぜず」と。帝は默然として言無く、乃ち懷中の黃紙の詔を探り之を裂きて擲つ。此の由にて皇儲は始めて定む。周侯は方に慨然と愧じて嘆じて曰く:「我は常に自ら茂弘に勝てりと言えるも、今始めて如かざるを知るなり!」と。


(方正23)




司馬昱(「崔浩先生」より)

桓温かんおんの禅譲工作、及び謝安しゃあんの妨害工作に巻き込まれた、と言った印象がある。長らく東晋王朝を眺めてきた存在であり、そういった人が皇帝位についた時にはどんな気持ちだったのだろうか、とは思う。何せ即位した翌年には死んでいる。いちど桓温に禅譲しますよ、と遺言状を残しかけたが配下に破り捨てられた。うーんなんか色々振り回されてるなこの人。


鄭皇后

元々は渤海ぼっかいでん氏、もう名前からして戦国斉王の家系と言うド名門に嫁いでいたのだが、夫を亡くし、元帝の元へ。元々はこの人の一世代下の親族が側妾として嫁ぐはずだったのだが、ところがどっこい、となった。もうどう考えてもアウトもアウトなお話で、こう言う話を見ると、あー世説新語さん元帝さまも sage 方向で見ていらっしゃるんですね、と実感する。


周顗

東晋の建国にも大きくかかわっている感じだが、あまり詳しい足跡は残っていない。王敦おうとんの乱鎮圧のための指揮官として戦ったが敗北、王敦に殺されている。なので後世的にはどうしても格の落ちる人物として書かれざるを得ない。というか後でもうちょい出てくるんですけど、このひとめっちゃ面白いです。


刁協

王敦に、「君側の奸」として名指しされている。言ってみればアンチ琅邪ろうや王氏の急先鋒の一人。そう言うひとなので、当然のように悪し様には書かれている。つーか王敦と言うド級の反逆者出しながらトップ権門として君臨してる琅邪王氏本当に何なの……君側の奸なの……。

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