第98話 真実11

 「私は女神。この場では戦いはしません。ですが、お兄ちゃん。頑張って」

 

 「ありがとう。リリィ。頑張るさ」

 

 リリィに返事を返す。リリィは私達より下がって見守るようだ。

 さぁ、行こうか!



 開幕はヴェルディの咆哮から始まる。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


「グァッ!」


「グッ!」


「キャッ!」


「くっ!」


「うっ!」


 誰もがその咆哮に、アツに耳を塞ぎ、身体が固まる。

 ――死。

 一瞬、そう思ってしまった。勝てない。こんな強大な相手に勝てるわけがない、と。

 だけど、歯を食いしばって全身に魔闘気を纏った。身体を縛っていたアツが消え去る。

 周りの皆も動き始めていた。


 「我、召喚せし衝裂に恐れ戦慄せよ。敵対する者に逃れる術は無し――」


 エリカから膨大な魔力が迸った。そして、詠唱は完成する。


 「――流星雨メテオスウォーム!!」


 ヴェルディの上空から魔方陣がいくつも展開する。

 圧倒的な量の岩石が、流星の如くヴェルディを襲った。


(グアアアアアアア! 神級魔法だと!?)


 流星の如く降り注ぐ岩石の雨は、ヴェルディを圧殺しようとする。

 ――だが、それでもヴェルディは倒れない。

 両翼は折れ、身体から血を流しつつも耐えていた。


「それなら、私が! 我、願う。相対す者よ。我の封印の中で安らかに眠れ。永遠に――」


 エリナも膨大な魔力で詠唱を開始し、発動する。


「――天上の光雨ヘヴンリースター!!」


 同じく。ヴェルディの上空に魔方陣が何十にも展開され、そこから光が発射される。

 ヴェルディの体に触れた光は、その鱗を焦がしながら浄化しようとする。


(また、神級魔法だとおおおおおおおおおおおお!!)


 二つの神級魔法を受けたヴェルディは倒れた。だが、その目の闘志は未だ燃えている。


(まだだ。まだ終わらんぞ!)


 ヴェルディの体を覆う程の魔方陣が展開される。


 「……ッ! これ以上があるのか!?」


 「なにか来るかもしれない! みんな気を付けて!」


 「ああ、俺に任せろ。大丈夫さ」


 「私にも任せてください」


 ヴェルディの体が光り輝く。その閃光に目が見えなくなる。

 

 そして、光から出てきたのは、翼の生えた百八十センチの男性。血を流しながらもこちらをみている。


 「これじゃあ、大規模な魔法は使えないわね」

 

 「そうですね。出来て、上級が限界でしょう。それも、誰かを巻き込んでしまうかもしれない」


 エリカとエリナがそう、話している。


 「ってことは――」


 「――俺達の出番ってこった!」


 アレンと私がヴェルディに向かっていく。

 5間の距離にて、エンを発動。レンにて足に魔力を込めて、飛び掛かる。

 上段での右袈裟。それを、ヴェルディは左手で受け止める。

 カンで見ると、ヴェルディの左手は魔力で覆われていた。

 

 クソ! 防がれたか!


 「くらえ、――猿廻」


 ヴェルディの体を宙返りしながら飛び越え、右肩の背後を斬り付ける。

 ヴェルディは私の剣を受ける為に、膨大な魔力で防いでいた。

 そこに、このアレンの奇襲技によって、右肩から血を流した。



「――車掛かり」


 ヴェルディの背後に着地したアレンが、連続の上段斬りを右左と斬り付ける。

 ヴェルディはアレンに向き直り、その連続の上段斬りを受け流すのに必死で、こちらには目を向けていない。

 今がチャンスだ!


 「ハッ!」


 瞬動にて背後を右袈裟に斬り付けた。

 

(グアアアッ!)


 無防備な背中に斜めに血が撒き散らされる。

 

 人型だけど、やはり龍か。堅い!


 「ハァッ!」


 膨大な魔力で反転、紫電の太刀を放つ。

 

 ヴェルディがその膨大な魔力に危機を感じて、紫電の太刀を受け止めようとするが、腕ごと吹き飛ばした。


 「まだ、こっちもいるぜ!」


 アレンが同じく、突きで心臓を狙う。

 そして、今まで隠していたとっておきを解放する。

 紫電の太刀で居合で振り抜いた体勢のまま、足を組み替えて二撃目を放つ!


 「――紫電二連!」


 ヴェルディはどちらをも守るために残った右手で、アレンの突きを防ぐ。

 そして、残った左の上腕二頭筋で紫電二連を受け止めようとした。


(ガッハ……ッ!)


 私の渾身の一撃は上腕二頭筋を斬り飛ばして、喉笛を半分まで斬り裂いた。


 ヴェルディの喉笛から血が大量に出る。


(よく……ぞ。試練を……乗り越えた、な。聖戦士よ。……後は頼むぞ)


 ヴェルディの体は発光し、そして霧散していった。


 残ったのは、巨大な八十センチはあるであろう魔石。それと、なにかの宝玉。


「やった。やったぞ!」


「ああ、やったなアラン!」


「お疲れ様です。皆さん」


「お疲れ! アラン!」


 そこで、リリィが前に進み出て、宝玉を手に取った。


「これが、お兄ちゃんを過去に戻す為に、必要な宝玉。そして、魔石」


「じゃあ、ヴェルディは最初から死を覚悟していたのか」


「そう。ヴェルディもまた、星から生み出された守護者。その宝玉と魔石を使えば、過去に戻ることができる」


 リリィは答える。ヴェルディも星が生み出した存在だったのか。

 だから、試練と言っていたんだな。私を見定めるために。

 自らの命を懸けて……。

 私の為だけに命を懸けたのか。

 それだけ期待されているってことなんだろう。

 私は、その期待に答えられるだろうか? 答えは分からない。

 だけど、その気持ちには全力で応えようと思った。

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