第91話 真実4

「ふむ。では、頂こうかな」


アルフさんは目を瞑りながら思い切ってぱくりと食べた。


「ん……うむ。少し、臭みがあるがなかなか美味しいのだ」


そう言うと、串の肉に齧り付き始める。

その言葉に護衛の二人も食べる。二人して美味しいと言いながら食べていた。


「オーク肉はまだ沢山あるから、どんどん食べてくださいね」


どうせ干し肉にするような時間もないし、準備もないので、この際だから一気に食べてしまった方が良い。

どんどん串に刺していって肉を炙っていった。


気付いたら6人でオーク1頭を食べていた。

というか、一番引いてた護衛が沢山食べていたのが何とも言い難い。

まぁ、私もそうだったんだろうしね。そんな言えないけどさ。


今のうちにもう1頭の解体も行っておく。

解体はジャックの見様見真似だけど、自分なりに上手くできたと思う。

後の肉は今日食べたオーク肉の内臓とかの余りと一緒に森の中に埋める。

ずっと、肉の匂いをさせながら馬車を走らせるとか、魔物に狙ってくださいって言ってるようなものだしね。

そんな危険な事は出来ないさ。


それをしてから日課の鍛錬をする。剣技に魔闘気だ。

一通り汗を流したので、布で汗を拭く。


「お見事だな。流石は幼龍殺しの英雄と言った所か。剣の鍛錬を見ていても剣舞をしているような見応えがあったぞ」


「ははっありがとうございます。まだまだ、未熟者なんですけどね。私より強い人はたくさんいますよ」


そう、だって上には上級とか聖級に神級もある。

まだまだ、私はそこまでの実力はないのだ。


「謙遜するのだな。オークを倒した手並みにお嬢ちゃんの精霊魔法。これから名が売れるのも確実だと、吾輩は思うのだがな」


「名声はそこまで欲しくないんですけどね。なるべく、普通の生活が出来れば私はそれで充分満足なんですけど」


「なんだ。名声に興味はないのか? 冒険者なら誰もがAランクやSランク冒険者に憧れるものだろうに」


そんな事言っても、国に良いように振り回されるだけだろうに。

私はのんびりと一般市民と同じような生活が出来ればそれで満足なのだ。

それ以上を望むのは分不相応というもの。


「良いんですよ。有名になってもこき使われるだけでしょう? だったら、それなりの身分でそれなりの生活が出来れば満足なんです」


「欲のない人なのだなアラン殿は。まぁ、そこが気に入った所ではあるのだがな」


「そうですか。それにしてはアルフさんは古代魔法文明時代の多くの研究と成果を残してきた人だそうじゃないですか」


「吾輩のは単なる趣味だ。それを長年やっていたらいつの間にかこんな身分になってしまった。新しい遺跡の調査や魔道具を見れるという喜びはあるが、それ以外にも面倒事が増えてしまってな。少し、アラン殿が羨ましい限りだ」


古代魔法文明時代の権威でもこんな事を思っているのか。

それだけ名が売れるということは厄介事が増えるって言う事なんだな。


「因みにその面倒事っていうのは主になんです?」


「貴族との面会とかだ。奴らはこちらの都合等、気にせずに現れては自分の思い通りに行かないと癇癪を起こす。まるで子供みたいなやつらだ」


アルフさんは苦虫を嚙み潰したような顔で答える。

まぁ、そこまで悪い貴族は多くはないだろうけどさ。

それでも、そういう貴族はいるってことなんだろうな。

ヘンリー王子とかそうだったし。

あれは他の貴族と比較したらダメか? かなりの暴虐無人だったしな。人を人と思ってない態度だったしな。


「自分のやりたいとおりにやっていたらいつの間にか肩書きがついていた。っていうのは大層面倒くさいものだ」


「私も幼龍殺しの英雄って言われて結構、参ってますよ」


「はははっ! そう言えばそうだな。だが、アラン殿もこれからは気を付けるのだぞ」


「はい? なんですか」


「これからBランクになったら貴族の指名依頼も受けるようになるだろう。その時、断れない依頼も多々ある。というか、貴族の依頼はほぼ断れないと思ってもらって良いぞ」


そうかBランクね。この依頼が終わったらBランクになるんだったか。

そしたら、今度は私も貴族から依頼を受けるようになると……。

はぁ……厄介だなぁ。


「はっきり言って、面倒事に巻き込まれそうで嫌ですね。自分の思う通りに良きられればいいのになぁ」


「仕方ないのだ。それが、名が売れた者の宿命だ。強い力を持つ者にはそれ相応の義務が生じる。私も力はないが知恵がある。それ相応の義務があるということだ」


「いっその事、雲隠れしたい所ですね。いや、本当に」


「はははっ! 吾輩もやりたいな。その時は一緒に頼むぞ」


「ええ、良いですとも」


お互いに笑いあって馬車に戻る。

リリィはまだ起きていたようだ。


「お兄ちゃんお帰り」


「ただいま。まだ眠ってなかったのかい?」


「うん。お兄ちゃん待ってた」


私が席に着くとリリィが外套の中にもぞもぞと入ってくる。

いつの間にか私は抱き枕状態になってしまったようだ。

まぁ、構わないけどね。


「仲が良くて結構だな」


「ええ、本当にそれだけは嬉しい限りです」


「お兄ちゃんはリリィの騎士様だから」


「騎士とな?」


「うん。お兄ちゃんはリリィを守ってくれた騎士様なの」


「ふむ。どういうことなのだ? アラン殿」


えー……恥ずかしいから説明したくないんだけどなぁ。


「奴隷オークションがあったのはご存知ですか?」


「ああ、行ったことはないが聴いたことはある」


「リリィはそこで売られる奴隷だったんですよ。それで、それを護送するために護衛として雇われたのが私なんです」


「ん? それで騎士様って事なのか?」


「いえ、続きがあって、ヘンリー王子にリリィが目を付けられてしまいましてね……」


「まさか、お嬢ちゃんを買う為に、幼龍を倒したというのか!?」


「そのまさかです」


「は、はは、ハッハッハ! アラン殿は生粋の馬鹿だな。お嬢ちゃんの為に幼龍を討伐し、ヘンリー王子とも対決したと」


「まぁ、今思えば馬鹿ですよね」


「ううん。そんな事ない。リリィは今とっても幸せだもん」


「ありがとう。リリィ」


リリィの頭を撫でる。リリィはもっと撫でてと頭を胸に擦り付けてくる。


「お兄ちゃん。好き」


「私もリリィの事は好きだよ」


二人でいちゃいちゃしていたら。

アルフさんが訝し気に見てくる。


「もしや、アラン殿。お嬢ちゃんに手は出してないだろうな」


「っぶ! そんな事するわけないじゃないですか」


「そうかそうか。まさかロリコンだとしたらと思って一瞬引いてしまったぞ」


「失敬ですね。ロリコンではないです。まぁ、リリィの事は本当の家族のように思ってはいますけどね」


「それなら良いのだけどな」


「もう、この話は止めましょう。夜も遅いし寝ましょう」


「そうだな」


「うん」


リリィの肩を抱いて引き寄せて寝る。

リリィの体は子供特有の暖かさがあって心地良い。


言っとくけど、ロリコンじゃないんだ。

妹みたいなモノ。だから、シスコンなだけだ。

それもマズいのかな。

まぁ、良いだろう。リリィが大切な事に変わりはないのだから。

もう、大切な家族だ。大事に守らないとな。


リリィの安心しきった顔を見ながらそう思うのであった。

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