第54話 自由14

 四日目の昼頃に大きな城壁が見えた。堀の中には水が流れている。

これが、古龍国の首都キョウトか。カラエドの町と比べても3倍、いや5倍は大きい。

城壁の高さも2倍くらいあるだろう。何から何まで大きい。

流石首都だなと思った。


東西南北の城門があるらしいのだが、私達は西側の城門で検問を待っている。

首都なだけあって、商人や冒険者、行商の人が多く並んでいるのが見えた。


「流石、首都っていうだけあるなぁ。城壁も街の大きさも桁違いだ」


「そうだね。通ってきた町とか村に比べたら大きさが違う」


リリィも窓に顔を寄せて目に映る光景を見ている。


しばらくして、私達の番が来たので、キースさんが衛兵に対応している。

こちらの馬車の中を覗きに衛兵が来るが、二人だけだとわかると直ぐに下がった。


かくして、馬車は動き出して、首都に入ったのだった。


街並みは煉瓦作りの家や日本の古式ゆかしい木造の日本家屋に瓦の屋根の建物が並んでいる。

まるで、西洋と和風が合体したような、あべこべなようなどことなく不思議な感じだ。

大通りがあり、それが遠くの道でクロスしている。東西南北で大通りが十字路になっているのだろう。

その、北(今、西側なので左側)にはこれまた古式ゆかしいお城が建っている。日本の昔のお城。

石垣を積み上げて出来た城壁に、天守閣も見える。


まったくこの世界は何時代だって話だ。

リリィはその全てが珍しいのか窓に釘付けだ。


通りには団子屋、お汁粉等。実に日本らしいものが並んでいる横で、西洋のドーナツ等のお菓子が売られている。

茶屋があれば喫茶店やコーヒー専門の店等があって見ているだけで面白い。


大通りの十字路を左に曲がって北に向かう。

そうして、10分程で大き目の商店で馬車が止まる。

これが、キースさんの商店なのだろうか。


奴隷商人なので、もう少し大通りに面していない所にあるのかなと思ったのだが、普通に大通りに店を構えている。

その大きさも2階建ての大きな豪邸と言った所だ。

高級奴隷商人っていうのは凄く儲かるもんなんだなぁ。


扉を開けてリリィと共に外に出る。


「着きましたよ。ここが、私達の商店です。名前はバンド商会です」


「バンド商会ですか。それにしても、大きなお店ですねぇ」


「まぁ、自慢になってしまいますが、一台で築き上げた新参者なんですけどね。今回のオークションが成功すれば名も売れる、と万々歳ですね。まぁ、それだけのリスクを負って来た旅でしたが」


確かに、間違いなくオークションの目玉はハイエルフのリリィだろう。

それをキースさんが売るとなれば富も名声も手に入る。

エルフに付け狙われる可能性もあるにはあるが、それにしてもそれをするだけの価値があるのだろう。


中に入って客間に通される。

ソファーに座るように言われたので座って、対面にキースさんが座る。

私の隣には当然のようにリリィが座った。


外では使用人の人達が慌ただしく、片づけをしているようだ。


「さて、アランさんには今回は大分助けられました」


「大袈裟ですよ。魔物に襲われたのも一回だけです。特に大したことはしてませんよ」


キースさんはいやいやと言って否定する。


「護衛をしっかりと務めてくれたというのもありますが、まず、リリィと仲良くなってくれました。これは誰にでも出来る事ではありません。彼女にはこれから寂しい思いをさせてしまいますが、アランさんと出会えた事は恵まれていました」


「私もリリィと仲良くなれたので良かったですよ。楽しい旅でした。当然、キースさんに出会えたのも幸運だと思います。私も首都を目指していましたからね。あなたたちがあの村で依頼を出してくれたのには運命を感じざる負えませんね」


「ははは、そうでしたか。とりあえず、依頼達成の金額910コルに依頼達成の羊皮紙です。これを冒険者ギルドに提出してください」


羊皮紙を受け取る。これで、依頼達成か。これで、キースさんともお別れかと思うとなんか寂しいな。

そうだ。リリィの事について聴いておかなくては。


「キースさん。折り入ってご相談がありまして……」


「承りましょう。なんでしょうか」


「リリィに毎日、数時間でも良いので会えるようにして頂きたいのです」


キースさんはその言葉を聴いて顎を撫でる。


「ふむ。それについてですが、私どもにとっては大歓迎と言った所です。……ですが、私が言うのもなんですが別れは辛いですよ」


リリィが裾を引っ張ってくる。その蒼い瞳は震えていた。


「ええ、分かっているつもりです。でも、このままリリィを一人にはしたくないのです」


「そうですか! では、いつでもいらっしゃってください。寧ろ、泊まっていってもらっても大丈夫ですよ」


「本当ですか? そうですと大変ありがたいです」


「お兄ちゃん。まだ、一緒に居てくれる?」


「うん。まだ、一緒に居るよ」


リリィの瞳を見つめ返す。そうするとリリィは安心したかのように微笑んだ。


「そうしていると、本当に兄妹みたいに見えますね。いや、実に良い」


「私もリリィの事をそう思っていますので、嬉しいですね」


「リリィも嬉しいよ?」


「ありがとう。リリィ」


頭を撫でると顔を胸に擦り付けてくる。

リリィは可愛いなぁ! これが、親馬鹿? いや、兄馬鹿? シスコンとかいうものかな。悪くないね!



キースさんと世間話をしていると、商会の入り口でなにか揉めている声が聴こえてきた。


「困ります! 勝手に入られては!」


「うるさい! 俺の邪魔をするのか!」


「ぐあぁっ!」


片手半剣に手を掛けていつでも抜刀出来る状態にしておく。


「騒がしくなってきましたね」


「ええ、大方予想が付きますがね」


キースさんも相手の予想は付いているようだ。

まぁ、私でも予想は付く。どうせ、あのイケメン王子だろう。


「キース! 首都に戻ったと聴いて駆けつけたぞ! 俺の奴隷はいるか!?」


扉を開けて入ってきたのはやはりイケメン王子だった。

いつも通りの豪華で眩しい装飾品をたくさんつけている。

傍らには、トロールが控えている。


「これはこれはヘンリー王子。お久しゅうございます。奴隷ですが、今そちらにいます」


「おお! いるではないか! やはり美しく愛らしい。俺に相応しい奴隷だ」


ヘンリー王子がリリィに向かって歩いてくる。


「ッ!」


リリィは向けられる視線に恐怖を感じている。

ヘンリー王子の前に立ちふさがる。

冷静になると自分でも何しているんだと思ったが、この時ばかりは頭が沸騰していた。

リリィが怯えている事で頭が冷静に働いてなかったのだ。


「……なんだその薄汚い下民は」


邪魔されたことに頭に来たのか苛立たし気に口を出す。


「この子の護衛依頼を受けたただの冒険者ですよ」


なんでもないように言う。でも、頭の中ではヘンリー王子に怒っていた。

キースさんは私の行動に驚いて声を出せないようだった。


「冒険者という下民風情が俺の道を塞ぐか! 不敬だぞ!」


鞭を振りかざして、何度も打つ。

打たれる度に乾いた音が鳴って体に赤い線を作る。


「ぐっうっ」


何度も打たれる度に腫れは酷くなっていく。

服は裂け、地肌に蚯蚓腫れがいくつも出来る。


「もう止めて!」


気付くとリリィが私をかばっていた。


「ほう。そこの下民を庇うか」


ヘンリー王子は鞭打つ手を止める。


「これ以上、お兄ちゃんをいじめないで!」


「良いぞ。実に良い。姿だけでなく心まで美しいとはな。まるで、穢れを知らぬ一輪の花だ」


嫌らしい笑みでリリィを見つめる。


「良かろう。その小娘に免じて下民の命は助けてやろう。感謝するが良い」


「あ、ありがとう……ございます」


リリィが頭を下げる。私は護衛なのに、その護衛対象に守られている。なんて情けないんだ。

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