第51話 自由11

 2着目に着替えたのは水色と白のエプロンドレスだ。

白のフリルが可愛らしい。

こちらは童話の不思議の国のアリスと言った所だろうか。


「どう? お兄ちゃん」


「フリルが可愛いね。似合っているよ」


蒼い瞳に金髪の髪が良く水色と白のエプロンドレスに似合っている。

これもとても可愛らしい。


 3着目は赤と青のパフスリーブに黄色いロングスカートをした格好だ。

頭には赤いカチューシャも付けていて、小さなお姫様だ。


「次はどうかな? お兄ちゃん」


「カチューシャにスカートも可愛いよ!」


あえて言うなら白雪姫と言った所か。

リリィの可愛らしさなら悪い魔女に毒リンゴを食べさせられてしまうかもしれないな!

って、何を考えているんだ私は。


 最後の4着目は淡い白色のパフスリーブに背中に大きな赤いリボン。スカートはブラウンと白のセーラー服のような格好だ。


「お兄ちゃん。どう?」


「うん。とっても可愛いよ!」


これは何と言った所か。難しいがヘンゼルとグレーテルの妹。グレーテルと言った所だろう。

魔女に騙されて食べられてしまいそうな可愛さだ。


「いやぁ、やっぱ元が可愛いとなんでも合うね」


「本当にそうですね。おばちゃんの選んだ服もとても似合っていましたよ。良い仕事をありがとうございます」


「なぁに、久々にやる気が出てこっちも楽しかったよ」


「んで、買っていくのかい?」


おばちゃんが問いただしてくる。うーん買いたい所なんだけど、迷ってしまうなぁ。


「リリィはさっきの4着でこれが良いなってのはあった?」


リリィは首を捻って顎に指を当てて悩んでいる。


「うーん。やっぱ、お兄ちゃんが選んだのが良いな」


そうきたか。これは難しい問題だ。4つともとても可愛らしい恰好だった。すべて買ってしまっても良いが、流石に買いすぎか?


「ちなみに、4着でいくらですか?」


「そうだね。全部で150コルだよ」


150コルか。それなら買ってしまってもいい気がする。でも、流石に甘やかしすぎか?

どうする私! 


結局、悩んだ挙句に2つ買うことにした。


「じゃあ、1着目と2着目を買います。それにこの子用のブーツと手袋をお願いします」


「お兄ちゃん。本当に買ってくれるの?」


リリィは本当に買ってくれるとは思ってなかったみたいでちょっとおどおどとしている。


「ああ、大丈夫だよ。これは私からのプレゼントさ」


「あ、ありがとう。お兄ちゃん」


「じゃあ、お会計をお願いします」


「はいよ。二つとブーツに手袋で90コルさね」


「はい。じゃあ、100コルで」


小袋から銅貨1枚を渡す。


「お釣りの10コルだよ。あと、おまけにこれも付けてあげな」


鉄貨1枚を受け取り、赤のポンチョを受け取る。


「良いんですか? 貰っちゃって」


「良いのさ。久しぶりに楽しませてもらったし。それに、この時期は寒いし、お嬢ちゃんに似合うと思ってね」


おばちゃんの優しさに感動する。ありがとうおばちゃん!


「ありがとうございます」



そうして、リリィに1着目の白と赤を基調にしたエプロンドレスに赤いフードを着た赤ずきんちゃんになって貰って、赤のポンチョも着てもらう。ブーツと手袋も付けてバッチリだ。


「うん。買って正解だったね」


お店を出て、手を繋いで町を歩く。他に買った服は私の背嚢の中に入れている。


「お兄ちゃんありがとう」


「良いんだ。可愛いリリィが見れて私も得したからね」


リリィは上機嫌に飛び跳ねたり腕を振ったりして歩いている。

その度に、頭巾から出ている二つのツインテールが上下左右に揺れる。



道を歩くと、露天商が見えた。装飾品や武器など雑多な物が並んでいる。

すると、隣のリリィが止まった。リリィはその中の一点を見つめている。

リリィが見つめるその先には指輪が2つ。

赤色の石に白く磨かれた鉄の輪。明らかに子供騙しの指輪だ。

だけど、リリィはそれを真剣に見ている。


私はその二つを手に取って、露天商のおじさんに値段を聴く。


「おじさん。これ二つで何コル?」


「二つで20コルだよ」


高いな。でも、良いか。これもまた旅の良い土産だ。


「はい。20コル」


鉄貨2枚を渡して指輪を手に入れる。

リリィは私が買った事にソワソワしている。

私はリリィの左手を取って、薬指におもちゃの指輪を入れる。


「……あっ」


そして、自分の左手の薬指にも着ける。


「これで、お揃いだね。お姫様」


「お兄ちゃん。大好き!」


リリィが飛び込んでくる。それを受け止める。

リリィは頭を腹部に猫のように押し当てて喜んでいる。


喜んでくれてよかった。まさかこんなに喜んでくれるとは思ってなかったけどね。


「ははは、喜んでくれて良かったよ」


「お兄ちゃんは私の事なんでもわかっちゃうの?」


「うーん。少しだけね」


「お兄ちゃんは凄いね」


「そんなことないさ」


「ううん。お兄ちゃんは凄い。……私の騎士様だよ」




 そんなやり取りをした後、昼になり、適当な所で昼食を取った。目的もなく歩いていると、そろそろ空に茜色が差し掛かっていた。もう夕方になるところか。

リリィに次に行きたい所を聴いてみる。


「リリィは次にどこか行きたい所はある?」


「……うーん。冒険者ギルドかな」


冒険者ギルド? そんな所行っても楽しいとは思えないけど。


「わかった。じゃあ、行ってみようか」


「うん!」


手を振ってスキップしながらリリィと冒険者ギルドに向かう。

直ぐに剣とペンをモチーフにした看板が見えてくる。

扉を開けて中に入る。中に入ると男達の喧騒と少しの酒精が入ってくる。


ちらりと依頼のボードを見る。恒常依頼にあの幼龍討伐の依頼がある程度だ。

それに、少しの採取依頼等か。

盗賊も討伐されたので、目立った依頼はない。幼龍討伐はあるが、あれを受ける輩はいるのだろうか。もう何ヶ月も放置されているぞ。


リリィは私の手を引っ張って、ギルドの受付嬢の下に向かう。


「こんにちは。可愛いお嬢ちゃん」


「こんにちは」


「今日はどういった御用かな?」


「私、冒険者になりたいの」


その言葉に私は凍り付いた。

リリィは奴隷だ。冒険者になんてなれるわけがない。

そもそも自由なんてないのだ。

彼女に冒険者は自由だと言ってしまったのは自分だ。これは私がしてしまった罰だ。

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