第47話 自由7

 一刻程進んだところで馬車が止まる。

野営の準備を使用人の人達がし始めていた。


リリィは未だに眠っている。すぅすぅと寝息が聴こえてくる。

起こすのは忍びないが仕方なく起こすことにする。


「リリィ起きて。そろそろ夕食だよ」


「…………ぅん」


目を擦りながら、体を起こした。


「あったかかった」


「そりゃどうもありがとう。リリィが良ければいつでもやるよ」


「……本当?」


「嘘はつかないさ」


「じゃあ、今日の夜からね」


「はいはい、お姫様」


「では、お姫様の為に夕食を貰いに行ってくるよ」


そう言って、馬車の扉を開けて外に出ようとすると、リリィが小さな手で外套を引っ張った。


「リリィ? どうしたんだい?」


「……私も行く」


「外は寒いよ」


「お兄ちゃんが温めくれるし、護衛だから離れちゃダメ」


「そりゃそうですね。お姫様」


リリィは満足したのか、外套を引っ張りながらついてくる。

私は歩幅を縮めて、リリィに合わせた。


私の後ろを普段顔を見せないリリィに使用人の人達もキースさんも二度見どころか三度見、四度見していた。

おいおい、流石に見すぎだろうと思ったけど。これが、彼らとリリィとの普通だったのだろう。驚いても仕方ないかもしれない。


私はキースさんの隣に座る。そして、外套を広げてリリィを外套の中に入れる。

リリィは私の体にぴったりと身を寄せている。

周りからの視線に、少し驚いているようで外套の中に隠れて視線を遮っていた。


「どうもキースさん」


キースさんは驚くで口が塞がらないようだった。


「え、ええ。こんばんわアランさん。それに、リリィもこんばんわ」


「……こんばんわ」


キースさんは挨拶が返ってくるとは思ってなかったみたいで凄く嬉しそうだった。こうしてみるとただの親馬鹿みたいに見えるんだけどな。

まぁ、実際は奴隷商人だけど。


「アランさんはいったいどんな魔法を使ったんですか?」


「別に特別な事はしてませんよ。ただ、境遇と気が合ったってだけですかね」


「境遇……ですか。もしや、アランさんも記憶喪失でしたか? いや、流石にプライベートな質問でしたかね」


「大丈夫ですよ。その通り、私も記憶喪失でしてね。まだ、一年と四ヶ月くらいしか記憶がないんです。たまに、昔の記憶を思い出すときもありますけどね」


「なるほど。そうでしたか。……失礼ですが、アランさんが冒険者になった目的と言うのは一体?」


「そうですね。私が覚えていた記憶は妻のことだけでした。それ以外、自分の記憶もなにも覚えていませんでした。なので、冒険者になったのは記憶の中の妻を探すために旅をしているということです」


「そうですか。妻帯者でしたか。それは、何と言ってよいやら……」


「ははは、気にしないでください。早く探したい気持ちもありますが、それで危険に突っ込む訳にもいきませんからね。ゆっくり、気長に探そうと思ってます。その為に強くなろうと思ったわけですからね」


「……なにか力になれることがあったら言ってください。これでも、少しは耳が良い商売をしていますからね。有益な情報は手に入るかもしれません」


「ありがとうございます。でも、妻の名前も思い出せないので、まずは妻の名前を思い出してからですね」


と、リリィが私に問いかけてきた。


「お兄ちゃん。結婚してたの?」


「そうだね。一応、結婚してたよ」


「……そっか」


リリィは少し落ち込んでしまった。はて、いったいどうしたんだろうか。


とりあえず、使用人の人達から食事を貰って三人で食べた。


そして、食べ終わった後、日課の訓練をした後、リリィと共に馬車に戻る。

リリィは、直ぐに私に身を寄せて来る。


「お兄ちゃんは今は独りなんだよね」


リリィの呟きに頷きで返す。

そう、私は今独りだ。頼る人もなにもない。自分自身しか頼れない。ただの冒険者だ。


「じゃあ、今だけはリリィの騎士様でいてね」


「ああ、約束するよ。リリィだけの騎士になるよ」


リリィは私の言葉に安心したのか笑顔になってそのまま胸に頭を埋めて眠ってしまった。

私は起きないように魔闘気の訓練をしながら夜の見張りを行うのだった。


 


 馬車の道程は、順調だ。一回、魔狼4匹に襲われたこと以外に危険は未だない。

あれから三週間経っていた。


リリィとはお昼頃から夕方まで今まであったことを面白可笑しく話していく。


アレンの事を言えば、


「優しい人」


と言い。


カラエドのギルド長ノックスさんの事を言えば、


「怖い人」


と言う。


エリカの事を言うと、


「……」


無言で頬を膨らませる。


「そういえばさ。リリィは光の乙女の事は知ってるかい?」


「光の乙女? なんか聴いた覚えがある気がする。英雄だとかなんとか」


「そうそう。エリカ。カラエドの領主様の娘さんが光の乙女なんだ」


「へぇ……」


そして、エリカについて話す。

覚醒についても話した。


「覚醒すると、ご先祖様の記憶や経験が全て頭の中に入ってくるんだってさ。でも、それをするには特殊なアイテムが必要で、アレンにギルド長と私に他の冒険者で採取に行ったんだ」


「その時に、変異種のオーガと戦うことになっちゃってさ。いやーあの時は死ぬかと思ったね。アレンが駆けつけて来てくれなかったらエリカも私も死んでたよ」


「アレンは良い人」


「そう。良い人なんだ。凄いお世話になった。ギルド長もエリカも皆さ。でも、領主様の指名依頼を失敗しちゃって、カラエドの町から追放されちゃったんだけどね」


「それはおかしい。お兄ちゃんは頑張ったのに」


「うん。確かに頑張った。けど、失敗しちゃったから仕方ないんだ。それに領主様の気持ちもわかるしね」


「……」


「あと、カラエドの町から追放されたけど、ジャックとかにも会えたし、それにキースさんにもリリィにも会えた。悪い事ばかりじゃないさ」


リリィは複雑な顔をしていた。カラエドの町から追放された事に怒っていたけど、結果的にそのおかげでリリィにも会えたしね。


「今は、お兄ちゃんに会えて、リリィは嬉しいよ」


「うん。私も嬉しいよ。リリィは可愛いしね」


猫のようにリリィが頭を擦り付けてくる。

私はその頭を撫でた。


「お兄ちゃんは優しいね」


「そうかな? 自分ではそういうつもりはないんだけどね」


「ううん。優しいよ。奴隷の私にも変な目をしないし」


「変な目ね……。まぁ、リリィが可愛いから最初会った時はびっくりしたけどね」


「そうなの?」


「うん。そうだよ。まるで、お人形さんみたいに綺麗で可愛かった」

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