第24話 羨望2

「……そうね。まぁ、ここらへんの魔物ならオーガも出ないし問題ないでしょう。わかったわ。ただ、狩猟の護衛と手伝いについては依頼人と相談して許可を取ってからね」


「わかりました。その人の名前と家の場所を教えてもらっても構わないですかね」


「名前はジャック。冒険者ギルドを出て直ぐ左隣りの家よ」


「ありがとうございます。それと、魔石の換金もお願いしたいんですけど……」


「悪いけど、換金所はないのよ。村の道具屋が換金所を兼ねてるからそこで魔石等の売買を行ってちょうだい」


「そうですか。では、直ぐに向かいたいと思います」


「ええ、頑張ってね」


受付のおばさんはカウンターに肘を付きながら手を振る。私はそれを背に冒険者ギルドを後にするのだった。


さて、道具屋で魔石の換金をするかそれともジャックさんのとこに行ってみるかどっちにしようかな。ふうむ。まずは、ジャックさんに依頼を聴いてみるか。それから道具屋に行こう。なにか必要になるかもしれないしね。


ジャックさんの家に向かうと直ぐに着いた。家は普通の木造で出来た一軒家だ。だが、家の庭に動物の毛皮が2枚。大き目の木の板に釘で打ち付けられて干されている。他にも血肉が付いた木の板が何枚もあった。私は扉の前までいくと軽く扉をノックする。


「おはようございます。ジャックさんはいらっしゃいますか?」


そう声を掛けると中からゴソゴソと音が聴こえて、少し経ってから扉が開かれた。中から現れたのはまだ、若く温和な顔をした青年だ。歳はまだ10代後半か20代前半くらいか。


「……はい。私がジャックですが、どちらさまでしょうか」


「冒険者ギルドからの依頼で来ました。報酬については要相談とのことだったので、こちらに来たんです」


「ああ、なるほど。でしたら、お上がりください。ささっ」


ジャックさんは私を中に案内して、家の中の机の椅子に座るように言う。ジャックさんは対面に座った。私も座ると、台所らしきとこから美しく若い女性が現れる。目元は垂れ目で、茶髪は肩口まで伸ばしている。どことなく、温かみを感じる女性だった。


「どうぞ。お飲みください」


そう言って、女性はコップを渡してくる。私は「どうもありがとうございます」と言って、それを受け取る。一口飲むと何かのハーブなのか爽やかな味を感じた。


「こちらは妻のエリシャです」


「エリシャです。宜しくお願いします」


エリシャさんは私に一礼する。私も「ああ、どうもこちらこそ」と首を垂れる。エリシャさんもジャックさんの隣に腰を下ろした。どうやら話に参加するようだ。


「私は冒険者のアランです。して、冒険者依頼の報酬と要相談についてなんですが……」


「ええ、それについてなんですが、詳しく説明させてください。まず――」


今回の依頼については、ジャックさんが鹿や猪、熊等の狩猟を行うにあたっての用心棒兼お手伝いだ。詳しく言うと、魔物と遭遇した時の戦闘要員。得物を仕留めた時の解体や運搬の補助。というのが主な仕事らしい。ジャックさんは森に2,3日潜り、取れるか取れないかに関わらず、3日目には戻る。そして、1日休んでまた2,3日潜るというローテーションで狩りを行うらしい。まぁ、週休1,2日の仕事ってとこか。報酬については1日の護衛量として10コル。得物が取れた場合はそれの売り上げの2割が追加で報酬で、魔物の魔石や収集物に関しても倒した分は自分の懐に収めて良いとのことらしい。


ついでに聴いてみたのだが、鹿は一頭で肉と毛皮込みで60コル。猪は同じ内容で80コル。

熊に至っては250コルらしい。それの2割ということなので、なかなかの金額になるのかな?


とりあえず、一ヶ月なので実質10日から15日の護衛ということか。それだけでも100~150コル。得物が取れたらこれに+αってことだ。

うん。案外良いのかもしれないな。それに、冒険者ランクの貢献にもなるし。


「わかりました。私としても異存はありません。宜しければ受けたいと思うのですが」


「本当ですか! ありがとうございます」


エリシャさんは席から立ちあがって喜んでいる。そんなに喜ばれるとは……ちょっと大げさな気がするなぁ。


「その前に、冒険者証を見せてもらっても宜しいでしょうか?」


ジャックさんは冷静に私を見つめて尋ねてくる。そりゃ、命を預ける相手なんだから冒険者ランクを確認したいってのは当たり前だろうな。でも、私はEランクで、この依頼はDランク。ちょっと不味いかな?


「はい。どうぞ」


大人しく渡す。ジャックさんは冒険者証を見ると、顔をしかめた。だが、ここでとっておきの物を見せる。


「ジャックさん。これも見てください」


そう、オーガの角だ。


「これは?」


「オーガの角です。当然、私が倒した得物です。ランクは低いですが、実力はその程度あると認識して頂ければと思いまして」


効果は劇的だった。オーガの角を見せると二人は驚いて、こちらを二度見する。


「これは、本物ですか? 偽物じゃなく?」


「ええ、今から道具屋にでも行って鑑定してもらいますか?」


「いやいやいや、結構です。……コホン。わかりました。アランさんはオーガを倒せる実力があるとの事ですからDランクと考えても問題ないですね」


「はい、その認識で問題ありません」


「では、こちらこそ宜しくお願いします」


かくして、ジャックさんの依頼を受ける事に決まった。エリシャさんは「旦那のことをお願いします」と頭を下げて懇願して来る。それに、「わかりました」と答える。


「じゃあ、アランさん。明日から2,3日森に入ろうかと思います。早朝に宿屋に向かいますので待機していてください。……宿屋で大丈夫ですよね?」


「ええ、大丈夫ですよ。なにか準備とか用意する物とかあれば言ってください」


「そうですね。出来ればロープを2束と解体用ナイフ程度ですかね。あとは、アランさんに任せます。それと、敬語は結構ですよ」


「……そっか。わかった。じゃあ、こっちも敬語は無しでお願いするよ」


「わかった。じゃあ、明日またお願いするよ」


私は二人に礼をして家を出た。




さて、次は道具屋か。


道具屋では、受付に黒い如何にもな魔法使い風のとんがり帽子とローブを着ていた。少し驚きつつも、今まで倒してきた魔石の売買を行う。全部で150コル程度になった。

そして、ロープを2束と一応、ポーションを2つに保存食も2日分買って、道具屋を後にする。

解体用ナイフは自前のでいいだろう。



 宿屋に戻って、おばさんに明日から2,3日依頼でいない有無を伝えると、その分の差額を後でまとめて返してくれるとの事。本当にありがたい。なにせ、何日森に籠るかは未定だからね。


さぁ、明日から忙しくなるぞ。

私は魔闘気と剣の鍛錬を夜。宿屋の外で行ってから心地よい疲労感と共に意識を失った。



 朝、宿屋のおばちゃんの朝食を頂いてから、部屋に戻り、荷物の準備をする。

腰に剣と解体用の厚手のナイフを帯び、ホルスターにダガーを8本。胸ポケットに短剣装備し、後ろに薬品用のホルスターにポーションを3本用意して、外套を羽織る。

背嚢にはロープ2束に寝袋と火打石、保存食2日分に貨幣を入れた小袋。布袋を5枚に着替えも2日分用意した。


よし、これで完璧かな。階段を下りると宿屋の扉からカランカランと鈴の音が鳴ってジャックが現れた。


「おはよう。ジャック」


「うん。おはよう。アラン。準備は良い?」


「もう大丈夫だよ。ジャックが良いなら直ぐに行こうか」


「よし、じゃあ行こう!」


「気を付けていくんだよー!」


おばちゃんの声を後に宿屋を出る。



森に入ると、早朝の寒さと日が余り入ってこないせいで結構冷える。

ジャック曰く、ここから4時間のとこに川があるのでそこで寝床の準備をしてから2日目に狩りのポイントへ向かうそうだ。

ジャックの背には木の板が2枚程背嚢に括り付けられている。これはいったい何に使うのだろうか。


「ジャック。その木の板は何に使うんだい?」


「これはね。得物の解体とかに使うんだ。森の中だと平らなとこは少ないし、地面の上でやると汚れちゃうからね」


なるほどね。ちょっと、血の染みている木の板に少しおっかなびっくりだったけど、そういうのに使うのか。納得しました。



 何時間か歩くと、魔力で強化した視界に魔力を帯びた二足歩行の生物を4体捉える。


「ジャック。前方に二足歩行の生物を4体捕捉した」


ジャックは目を細めて前方を注視する。


「あれは、緑色の……ゴブリンだね。どうする?」

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