第54話 アニマルサポーター
次の日。
「櫻井、うちはゴマちゃん引き取れそうだぞ」
「マジか!?」
「うちもとし子さん、引き取れそう」
「ホントに!?」
俺が学校に行くとすぐに、二人は親OKの報告をしてくれた。
正直、二人ともOKを貰えるなんて、思ってもみなかった。
「ありがとう……でも。二人共、楓によく相談して、きちんと納得してくれ。特に藤崎、お前が引き取ろうとしてるのは持病持ちの老犬だ、普通の犬じゃない」
「ああ」
「うん、そうする」
「それにしても良かった……ありがとな、二人共」
「いや、礼を言うのは俺の方だ。出会わせてくれて、ありがとな」
「うん。ありがとう、出会わせてくれて」
「おう」
俺は初めてベラ・レンコントの、楓が作った団体名の意味を、噛み締めていた。
「え、部活?」
「うん、最初は同好会みたいなものでいいと思うの、むしろそのほうが良いと思う。学校の活動だと、レンコンさんに迷惑がかかるかも」
俺の感動が一段落すると、藤崎は俺たち三人で、動物愛護部を作りたいと言い出した。
「藤崎もレンコンさんって言うのか……」
「ああ、なんかレンコントさんって言いづらいし、レンコンさんだと蓮根みたいで可愛いし……」
いや、蓮根って可愛いんですかね……。
「そっか……。でも、俺は毎日学校が終わったら、すぐに行かないとならないし……藤崎も文芸部があるだろ?」
「ああ、俺もバイトが有るな……」
「うん。だから、部活じゃないほうが良いよね。あくまでも個人的な活動でさ」
「じゃ、チーム……みたいなものか?」
田辺が言った。
「あ、そう言う感じだな。どちらかと言うと、グループか?」
「そうだね。個人活動みたいなもので」
「それで……目的はなんだ?」
俺は藤崎を見た。
「捨て犬と捨て猫をなくそう。だよ」
「な、なんか……
俺は少し引いた。
「でも、楓さんがやろうとしていることって、そういう事なんじゃないの?」
「ああ。楓はそう言ってた……でも、それを学生レベルでやるのか?」
「そこまで大きなことは考えてないよ。あくまでも犬や猫を飼いたいっていう人を探して、私達がレンコンさんを紹介するの。あれ……? でもこれって良いのかな?」
「あ、楓の迷惑にならないかって意味か?」
「うん……」
「今夜、聞いてみる」
「うん。そうして」
「よし! じゃ、名前を決めようぜ!」
田辺は俺を見た。
「そうだな……藤崎、何かあるか?」
「じゃぁ……動物保護クラブ」
「むむ……なんか硬くないか?」
田辺は怪訝そうな顔をした。
「うーん、そうだな。なんかこう……高校生が会話の中で使いやすいほうが、浸透しやすくないか?」
「ああ、そうかもな……」
俺が言うと、田辺が同意した。
その後、動物紹介の会、動物保護部「それはさっき出た」、動物保護の会「いや、それだとNPOみたいだ」、犬猫クラブ「普通に飼い主の会じゃない」、犬猫大好き寄っといで「いや、なんか番組名みたいだ」という経緯を経て……。
「じゃさ、英語にしてみたらどうだ?」
田辺が言った。
「英語?」
「ああ」
「アニマルサポーター」
「あ、良いな……なんか良い」
「うん、良いと思う!」
「よし、決定!」
こうして俺達の活動名は「アニマルサポーター」となった。
──
学校を終え、レンコントへ行くと最初に楓のところへ行き、二人の両親がゴマちゃんととし子さんの引き取りを了承したという話をした。
「ホントに!? 二匹とも!?」
楓はカウンターの中から、俺に聞いた。
「ああ、OKが出たそうだ。それで、この後どうしたら良いのかって」
「蒼汰……ありがとう」
楓がカウンターの中から出てきて、俺を抱きしめた。
「お、おう……。それで、この後はどうしたら……」
「あ、そっか。二人の連絡先を教えてくれる? 先ずは私から連絡をして、ちゃんとご両親のご意向を確かめるから」
「わかった。あ、それからな」
「ん?」
「学校で、藤崎が『動物保護活動を手伝いたい』って言い出してな」
「え? 藤崎さんがボラさんに?」
楓は俺からパッと離れた。何故今離れた?
「いや、そうじゃない。微力ながら応援したいって感じだ。それで、俺と田辺と藤崎で、『アニマルサポーター』って言う活動を始めようということになったんだ」
「アニマルサポーター?」
俺は楓にアニマルサポーターの話をした。
「ああ、それって犬や猫を飼いたがっている人が居たら、うちを紹介してくれるってこと?」
「ああ。それで、そう言うやり方って、楓に迷惑がかからないかって、藤崎が」
「…………」
楓はぽかんと口を開けていた。
「楓?」
「……同じすぎる……」
「同じ……すぎる? ダメなのか?」
「ううん。営利活動を伴わなければ大歓迎だよ」
「営利活動……あ、金をもらうってことか?」
「うん。うちは一般社団法人。寄付によって運営される団体でね、お金儲けを目的をしてはいけない……ていうと
「なるほど……じゃ、勝手に探して、勝手に紹介するのはかまわないのか?」
「うん。大歓迎! しかもうちからもらってくれた飼い主さんたちが活動してくれるなんて……思ってもみなかった……」
「わかった。って、言われてみれば……俺はまだ誰も引き取っていないな……」
「ああ、そう言う人もいる。動物は結婚と同じで相性だよ。無理する必要なんかないし、恥ずかしがる必要もないよ。人間だって『結婚してー、はいどうぞー』なんて、ならないでしょ?」
「そういやそうだな……」
「だから、無理して引き取る必要もないし、引き取りたくなったら我慢できなくなっちゃうよ」
「そうか?」
「うん。私達みたいにね」
楓は笑った。
「お……おう」
それって、俺が引き取ってるんだか、俺が引き取られてるんだか……。まぁ、今は完全に後者だな……。
──
次の日。
「え、いいの!?」
俺は学校へ行き、田辺と藤崎に楓からアニマルサポーターの活動にOKが出たと伝えると、藤崎が驚いた。
「ああ、営利活動を伴わなければ大歓迎だと。それからな、お前達の連絡先を教えてほしいと。楓が直接電話して、親御さんのご意向を確かめる必要があるんだとさ」
「うん。じゃ……メアドとか、電話番号を交換しよう」
「おう。田辺、お前のは変わってないか?」
「ああ、前に教えたので変わってない」
「これだよ」
藤崎は自分のメールアドレスと電話番号を表示させた。
俺と田辺は交代で藤崎のメールアドレスと電話番号を登録すると、SNSのIDも交換して、SNS上で三人のグループ「アニマルサポーター」を設定した。
「これで三人で同時に会話できるね」
「おう」
「だな」
「じゃ、二人の……自宅の電話番号だけでいいかな……を教えてくれ」
「わかった」
「おう」
キンコン。キンコン。
「うん、届いた。じゃ、これを楓に伝えるけど良いよな?」
「うん、いいよ」
「ああ、頼む」
俺はそのまま楓に連絡をした。
▽蒼汰『これが二人の自宅の電話番号だ。 藤崎:○○○ー○○○○ー○○○○
田辺:×××ー××××ー××××』
▽楓 『わかった。それぞれ指定の時間とかないの?』
あ、そうか……。
「なぁ、二人の自宅って、何時に連絡した方がいいとかあるか?」
「ああ、私はお母さんがずっと家にいるからいつでも大丈夫」
「うちは共働きだから……二十時くらいが良いかな……」
「わかった」
▽蒼汰『藤崎はお母さんが常に家にいるからいつでもいいそうだ。田辺は共働きだから、二十時くらいが良いとさ』
▽楓 『わかったー。連絡しとくー』
「これで良し。希望通りに連絡するってさ」
「うん。決まると良いね……」
「ああ、そうだな……」
藤崎と田辺は顔を見合わせた。お互いの健闘を祈る、という感じだったが、実際には両親次第だ。楓の説明「やっぱり辞めておいたほうが良くないですか?」という説得に臆せず、それを突っぱねてまでも飼いたいと言い続けられるか? そこが最初で最大の関門だった。
そして驚いたことに、二人の両親は楓の試験を無事にパスした。楓はその後、ご両親の決意は一過性のものじゃなかったと言った。
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