第五幕
立夏が帰ってから、練習は普通に再開された。
あんな事あったのに先輩方すごいなぁ。そんなことを考えていると、不意に名前を呼ばれた。
「小野さん!出番!」
「え?あ!すみません!」
しまった、ぼーっとして集中してなかった。案の定、私は先輩から怒られてしまった。
「ちょっと小野さん?劇に集中して。」
「すみません…。」
「もー小野ちゃん、ちゃんとしてよー。」
「すみません…。あの、もう一回、やらせてもらってもいいですか?」
私のミスで劇を止めてしまい、申し訳なさしかない。なんとか取り返そうと、仕切り直しをお願いした。しかし、私のお願いは受理されることはなかった。
「いや、時間も時間だし、今日はこの辺で終わりにしましょう。」
そう言って、堀部先輩は片付けにかかった。私はどうしても、申し訳なさを拭い切ることは出来なかった。
「「「お疲れ様でしたー。」」」
最後の挨拶を終え、帰り支度をしている時、ふと携帯で時間を確認するとまだ五時にもなっていなかった。普段より断然早い時間に終わったことに驚きながら、やっぱり私のミスが原因なのではと落ち込んだ。その時、後ろから金山先輩が声をかけてきた。
「おーのちゃん!この後って時間ある?」
立夏は馬が合わないようだが、私はどこか憎めない、お姉ちゃん的ないい先輩だと思う。いや、私にお姉ちゃんはいないけど。
そのためか、堀部先輩も含め三人で休日に遊ぶことも少なくない。今日は二人なのだろうか。
「え、この後ですか?まぁありますけど…。」
「なら、ちょっとそこで甘いものでも食べてかない?奢るからさ。」
「え、ほんとですか?」
「もち!」
笑顔で返す先輩を見て、私は頭の中に以前遊んだ時にお金の使い方で堀部先輩に注意されている光景がよぎった。
「でも、お金とか大丈夫なんですか…?」
「気にしないでよ、ちゃんとあるから。」
「あら、奢ってくれるなら私も行きたいな。」
そんな私達を隣で見ていた堀部先輩が、会話に入ってきた。奢りと聞いたからか、少し嬉しそうだ。
「お前は私を金欠に追い込みたいのか…。」
「あら、奢ってくれないの?」
「え、そんな金欠になるなら私いいですよ。」
「あーもうわかった、二人共来い!」
私は申し訳なく思っただけなのだが、金山先輩は面倒くさくなったのか、承諾してくれた。いや、面倒くさいからって金欠我慢しなくてもいいんじゃ…。
「ほ、ほんとに大丈夫ですか?」
「えぇーい!気にするな!」
「沙耶加もこう言ってるし、お言葉に甘えよ。」
「は、はい。」
金山先輩の金欠の原因はこの人なのではと疑念が浮かんできた。そんな私の背中を嬉しそうな顔で堀部先輩が押すので、私は流されるようについて行くことになった。
我らが舞台! チェシャ猫 @vulpes6969
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