第67話 どこのヤンデレですか!
「私はできるなら雪ちゃんを助けたい、声を取り戻してあげたいです」
現実世界の雪ちゃんの声。
もし本人が望んでいて、私にできることがあるのならやりたい。
それが私の選択。
雪ちゃんの過去になにがあったのか、そこに秘密があるはずなんだ。
「あ~あ、振られちゃいましたね~」
「いやいや、そういう話ではないですよ、私はユーノさんのこと大好きですから」
ユーノさんがわざとらしい落ち込んだ演技をする。
そういうところもかわいいのですぐにフォローを入れた。
これは私の本心だから。
「まあいいです、イチゴさんを殺して私も死にますから」
「どこのヤンデレですか!」
ユーノさんはどこからか包丁を取り出してきて、さらに目からは光が失われている。
でもそんなヤンデレユーノさんもかわいい。
「ちなみにユーノさんを選んだ場合はどうなるんですか?」
教えてもらえるかわからないけどダメもとで聞いてみる。
私が選ばなかった世界はどんな未来をむかえるのだろうか。
「イチゴとユーノを殺して私も死ぬわ」
「どっちも一緒だった~!」
もう一つの世界ではヨミちゃんがヤンデレ化するらしい。
つまりどっちを選んでも私はここでお亡くなりになるようだ。
そうか……。
私は人をこんなにしてしまうほど魅力的な人間だったのか。
知らなんだ。
「さあ、冗談はこれくらいにしておきましょうか」
「そうね、雪の過去について話をするわ」
ユーノさんが場を仕切り直し、ついにヨミちゃんの口から雪ちゃんの過去が語られる。
正直に言うと、結構長い付き合いだったはずの私より、いきなり現れたヨミちゃんの方が詳しいというのはちょっと嫉妬してしまう話だ。
でも今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
知れる情報はできる限り集めておきたいからね。
「雪は、世界が2000年問題に揺れる中、魔白家の長女として誕生した」
「え、そこから語るの!?」
しかも2000年問題って、古いの出てきたなぁ……。
私全然覚えてないけど、家にペットボトルの水とかがいっぱい置いてあった気がするような。
ここまで昔のことを思い出していても、なぜ家族の思い出がでてこないのか。
私はいったいどこで生まれてどこで育ったのだろう。
なんか雫さんと出会った頃くらいからの記憶しかないような……。
「こほん、ではイチゴが知りたい、雪が声を失った理由について話すわ」
「そうですね、とりあえずそのあたりをお願いします」
そもそもヨミちゃんだってそんな小さいころから雪ちゃんと一緒にいないでしょ。
「簡単に言うと、雪の声は夢魔が持って行っちゃったのよ」
「声を持っていく?」
物じゃあるまいし、声なんて持っていけるものなのか?
そもそもなんで夢魔がそんなことをするんだろう。
奴らは人の夢に出て、生気を奪っていくような存在じゃなかったっけ?
「あれ、そういえばヨシノちゃんが雪ちゃんの声は戻ってるって言ってましたけど」
「それは私だと思うわ」
「え、ヨミちゃん、歌ってたの?」
「……別にいいでしょ、満月の夜はそういう気分になったりするのよ」
それでも、雪ちゃんの体を使って歌うことができるってことは、身体的にはやっぱり問題がないってことか。
「じゃあ、その夢魔を見つけ出して声を返してもらえばいいってこと?」
「そうね、でも探す必要はないわ」
「はい?」
探す必要がないってことは、もしかして居場所の見当がついてるのかな。
でも、そうだとしたらもうとっくに取り戻してるよね。
私が不思議に思いながらヨミちゃんを見ると、少し目を逸らしながらこう返してきた。
「雪の声を持って行ったのは、私だから……」
「……え?」
ヨミちゃんが雪ちゃんの声を持って行った?
「でも、ヨミちゃんの声は雪ちゃんのじゃないですよね」
「別に使ってるわけじゃないからね」
「返してあげられないんですか?」
何か事情があるんだろうけど、でも雪ちゃんの声を取り戻すためならできる限りのことはやってみせる。
「私が消えれば自然に声は戻るわ、それが契約したときの条件だから」
「それって雪ちゃんを助けた時の?」
「そうよ」
じゃあ、雪ちゃんの声が戻ればヨミちゃんが消えてしまうってこと?
「そんな……」
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
「私のことを気にしてくれてるの? やさしいのね、出会ったばかりで襲ってきた相手に」
「まあ、確かに襲われはしましたけど……」
話をしてても悪い子だとは思えないし、私のことも雪ちゃんのことも助けてくれたわけで。
いくら雪ちゃんの声のためだとしても、ヨミちゃんを見捨てるようなことはできないよ。
「別にもういいの、私はもう長く生きすぎてやりたいこともないし」
「そんなのダメですよ、私と一緒にやりたいこと見つけましょう」
「ふふふ、あなたそんな何でも助けようとする生き方してると社畜みたいになるわよ」
「ぐあ~!」
元社畜ですけど、何か?
くそ~、やっぱり私の生き方にも問題があるのか?
でもでも、目の前でかわいい女の子が苦しんでいたら助けてあげなきゃって思うじゃない。
「本当に気にしなくてもいいわ、どうせ私はもう長くは存在できないから」
「そんなのって……」
「……」
私もユーノさんもその言葉に黙り込むしかなかった。
同じ人ですら助けられないのに、夢魔をどうやったら救えるのかなんてわかるはずがない。
でも嫌だな、せっかく仲良くなった気がするのにそんなお別れしたくないよ。
「とにかく、まずは地上に戻りましょう、ユーノなら方法は知ってるんでしょう?」
「それが……、私ひとりなら簡単に戻れるんですけど、おふたりは特殊な方法でここに来てしまっているので……」
「戻れないの!?」
予想外の答えだったのか、ずっと冷静だったヨミちゃんがちょっとだけ慌てた表情を見せる。
それを見てユーノさんは、両手を軽く振りながら訂正をした。
「いえ、戻り方がわからないわけではないんです、ちゃんと扉がありますので」
それを聞いてヨミちゃんはほっと息を吐いた。
さっきのちょっとかわいかったかも。
「ただ、しばらく使ってないので、もしかしたらさっきの化け物みたいなのが溜まってる可能性が……」
「もうユーノ! あなた掃除をさぼっていたのね!」
「だって忙しいんですよ! ブラック並みなんです!」
なんだって!
それはいけない、そこまで忙しかったら確かに掃除なんてしてられないよね。
「ユーノが何に忙しいのかしら、今やほぼニートみたいなものでしょう?」
んなアホな。
女神様ともあろう人がそんなはず……。
「失礼ですね、これでも温泉巡りとかかわいい女の子巡りとかで忙しいんですから」
「え……」
ユーノさんそれって、いや、あえて言わないでおこう……。
どうやらなかなかに日々をエンジョイしていらっしゃるようだ。
これはヨミちゃんも呆れてるだろうな。
「そ、それは忙しくて当然ね、ごめんなさい、生意気言ってしまったわ」
え、ヨミちゃん、それでいいの!?
「わかってくださればいいんですよ、すべて水に流します」
そしてユーノさんはなぜ上から目線!?
どうやら私の常識はこの方たちには通用しないようだ。
いや、もしかしたら、これをおかしいと思う私の心が幸せを遠ざけているのかもしれない。
まずは日々をエンジョイして、隙間時間で仕事をする。
そんな生き方をすれば、私も幸せな毎日を送ることができるだろう。
さすがですねユーノさん。
参考になります!
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