第66話 じゃじゃん、ここでルートが分岐する重要な選択肢を与えます

 初めから無理のある変装だったけど、こんなにもあっさりと終わりをむかえるとは。


「で、ユーノさん、正体を隠す必要って何だったんですか?」

「女神マスクです」


「え、まだやるんですか?」

「うう~」


 そんな恨めしそうに睨まれても。

 私にとってはただのご褒美ですよ!


「はぁ、もう諦めます」

「はい」


 ユーノさんはその場で仮面を外し、机の上に置く。

 そして棚を開いて、中から何かを取り出す。

 それはちょっと不思議な形の銃だった。


「きゃ~!? 正体がばれたからって私を殺すつもりですか!?」

「へ? いえ、これはイチゴさんが持っていてください」


 それは自分で撃てって意味ですか?


「なぜこんな物騒なものを私に?」

「またさっきみたいに襲われたとき、自分の身を守るためです」


 あ、そういうことか。

 でも私、銃なんて一度も使ったことがないよ。


「とりあえず地上に戻るまでは持っていてください」

「私に扱えますかね」

「魔力を込めて撃つだけですよ、魔力が強い人にはおすすめです」


 それじゃあ旅先のいろんなところでやってきたことと一緒かな。

 これで私も自分の身くらいは守れるだろうか。


「では、お借りします」

「私の友人が使っていたものです、大事にしてくださいね」

「おお、それは大切にしないとですね」


 ユーノさんが少しだけ話してくれた過去のこと。

 そこからだけでも何か悲しいことがあったんだろうってわかる。

 私に教えてくれたのはそのほんの一部だろう。


 お友達がどうなったのかとか、そもそもいつの話なのかもわからない。

 でも私は大好きなユーノさんを悲しませたくないんだ。


 そしていつも笑顔でいて欲しい。

 だから私、頑張るよ。


「ん……」

「あっ」


 その時、黒ユキちゃんが目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。


「私、気を失っていたのね……」

「おはよう、ヨミ」

「ユーノ……」


 ヨミ?

 それが黒ユキちゃんの本当の名前なのかな。


 私の苗字と一緒だ。

 いろいろ偶然が重なるものだな。


「助けられたみたいね、ありがとう」

「あら、昔と違って素直なんですね」

「あなたはずいぶん丸くなったのね」


 私を置いてふたりの世界に入らないでほしいな……。

 黒ユキちゃんもユーノさんも私のものなのに~!

 そのふたりが秘密の関係だったら私泣いちゃうよ!


「ひゃ!? イチゴさん、何してるんですか?」

「さみしいからユーノさんに抱きついて顔をこすりつけています」


「もう、そういうのはふたりきりの時にしてくださいね」

「ふたりきりならいいの!?」


 ユーノさんの発言に黒ユキちゃんが驚いている。

 どうやら昔はこんな性格じゃなかったみたいだ。


「そういえば黒ユキちゃんってヨミっていうんですか?」

「ええ、一応ね、イチゴの苗字と同じ名前でしょ」

「あれ、知ってたんですね」


 今思えば、私一度も名前を言ってないぞ。

 現実世界の雪ちゃんと一緒にいた時に知ったのかもしれないな。


「さあ、いつまでも寝てられないわね」


 そういって起き上がろうとするヨミちゃん。

 しかし立ちくらみしたようにくらっと倒れそうになる。


 そこをすかさず支えに入り、どさくさにまぎれ一瞬だけ胸をおさわり。

 完璧だ。


「ねえユーノ、イチゴがさっきから私の胸を執拗に責めてくるんだけど……」


 バレてたー!?


「イチゴさんはヨミのことが好きなんですよ」

「そう……、なら仕方ないわね」


 仕方ないんだ!?

 やっほーい!

 頬を染めたヨミちゃん、かぁい~よ~!


「でもイチゴはユーノのことが好きなんじゃ……」

「はい、ユーノさんのことも好きです」

「イチゴさんはかわいい女の子ならだいたい好きなんですよ」


「えへへ」

「……」


 や~ん、そんな目で見ないでってば~。

 好きが止まらなくなっちゃうよ~!


「じゃじゃん、ここでルートが分岐する重要な選択肢を与えます」

「どうしたんですかユーノさん、そんないきなり……」


 ルートが分岐するって、まるでゲームじゃないですか。


「セーブできますか?」

「できません」

「そんなぁ」


 選択肢前にセーブ不可なんてどこのクソゲーですか。

 はい、それは人生です。

 人生とはやり直しのできないクソゲーなのです。


「さあイチゴさん、あなたは私の過去か雪さんとヨミの過去、どちらの話を聞きたいですか」


 なんでそんな話になったんだろう……。


「話くらい両方聞いたってよくありませんか?」

「ダメです」

「ええ~」


 これは人生で最大級の選択肢かもしれませんね。

 ここで「ミュウちゃんの過去が知りたい」なんて第3の選択肢を選んだら人生終わる気がする。


 やはり真面目に事を進めるべきだろう。

 私の選択は……。

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