6章 海底の街
第60話 そうだよ、スマホって電話だったんだ
朝早くに目を覚ました。
みんなはまだ夢の中。
まあここも夢の世界ではあるんだけど。
隣でかわいい寝顔を見せているユーノさんを眺める。
じっと見ているとつい触りたくなって、ほっぺたを指でツンツンしてみた。
「うん……、イチゴさん……」
え、私の名前?
もうっ、いったいどんな夢を見てるんですかね?
「イチゴさんの胸は……AAカップ……」
もう~、いったいどんな夢を見てるんですかね~?
そういえばユーノさん、ここで一夜明かしてますけど、ヨシノちゃんたちはどうしてるんだろう。
確かユーノさんのところにむかうと言ってたのに。
まさか会うこともなく、行き違いになってたりとか?
今更ながら心配になってきた。
連絡を取る手段があればいいんですけどね~。
電子決済とかいろいろ進んでるのに、なぜか連絡手段はなかったりする。
……うん?
いや、待ってよ。
スマホでアプリとか使ってるんだから、データ通信はできてるんじゃないかな。
それがデータじゃなくて魔法か何かだとしても、連絡手段として使えればいいんだし。
そうだよ、スマホって電話だったんだ。
いや~、盲点だったね。
試しにつながるか試してみますか。
朝も早いし、ここは起きてる可能性の高いヨシノちゃんにかけてみよう。
さてと連絡帳はっと……。
あれ?
私、ヨシノちゃんの番号知らなかったっけ?
うむむ……。
思い出せない。
仕方ない、別の誰かにかけるか。
シズクさんの連絡先ならきっと入ってるだろう。
さてどこかな~。
適当にアプリをいじっていると、急にスマホに着信が入った。
「わわわっ」
なんてタイミングだ。
いままで一回も連絡なかったのにいったい誰だろう。
落としそうになったスマホを持ち直し、画面を改めて確認する。
そこに表示されていた名前はヨシノちゃんだった。
「むこうからかかってくるなんて、なんという偶然……」
偶然だと思いたい。
彼女にはいろいろ怪しい疑惑があるからね。
ヤンデレかもしれない……。
とりあえず出るとしますか。
「はい、イチゴです」
『あ、ヨシノです、やっぱり朝早いね』
「まあ習慣みたいなものですね」
悲しき社畜時代の名残で、よほどのことがない限り自動的に朝目覚めてしまうんだよ。
「それで何か御用ですか?」
『ああ、たまたまボーっとしてたら、スマホが電話だと思い出して』
「ヨシノちゃんもですか? 私もちょうど同じことに気づいたんですよ」
すごいシンクロ率だね。
『私たちすごいシンクロ率だね』
「あ、うん、そうですね」
一瞬、心を読まれたのかと思った。
もちろんたまたまだろうけど。
私はそうであると信じたい。
『そういえば女神様の家みたいなところに行ったんだけど留守だったよ』
「ああ、ユーノさんなら今私の隣で寝てますよ」
『え、ど、どういうこと?』
若干焦ったような感じのするヨシノちゃんの声。
私は淡々と事実を伝えることにした。
「たまたま旅先で出会って、そのまま一緒にいるんですよ」
『ななっ、まさか一緒のお風呂やお布団で、イチャイチャウフフな時間を!?』
「いやいや、そんなことしてませ……」
あ、近いことしてるかも……。
『なんで言い淀むの?』
「え、いや、別に何もないですよ」
『ふ~ん』
なんだろう、電話のむこうでジト目をしているヨシノちゃんの顔が浮かんでくる。
『まあいいけどね、ユーノさんが相手なら』
ユーノさんすごい。
そのやさしさの前ではすべての争いが始まる前に静まっていくんだね。
「あ、そうだ、私スタンプ全部集めたんですよ」
『早かったね、おめでとう』
確かにヨシノちゃんと別れてからあっという間に街を移動したからね。
のんびりしてたらもっと長い旅になってたと思う。
「もう少ししたら、そっちの街に戻りますね」
『うん、やっと生身のイチゴさんに会えるんだ……』
「生身って……」
なにか引っかかる言い方だなぁ。
あの時見つけたヨシノちゃんの日記を思い出して、少し背筋が冷たくなった。
『あ、アミさんが起きてきたみたいだから切るね』
「はい、バイバイです」
『うん、バイバイ』
短い時間だったけど、この世界で初めての通話が終了した。
ちゃんと電話使えたね。
もう旅も終わるし今さらではあるけど。
そういえば電話番号一緒だね。
細かいことは夢だからで通用する都合のいい世界だ。
もしかして他の人にもかけられるかな?
試しに雪ちゃんに電話をしてみる。
あ、こんな早い時間に失礼だったか。
それに気づいて慌てて切ろうとしたら、ユキちゃんのスマホに着信が入った。
あれ?
もしかしてこっちにかかるのか。
それはそうか、世界を越えて電話出来たら怖いよね。
モモちゃんとも話したいけど、まだこんな時間だし今は我慢しておくか。
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