4章 自由の街
第34話 元社畜なんでどこでも寝れます!
大平原の端にある、海沿いにのびる道をひたすら歩く。
人が通るために石造りの道になっているので少し歩きやすい。
多くの人がこのルートで街を移動するんだろう。
しかしまわりは誰もいない。
カモメさんで一気に移動するのが当たり前になっているのか、本当に道しかない。
海沿いの道であることが唯一の救いかも。
景色は抜群によくて、風も気持ちいい。
潮の香りがしないから、もしかするとここも巨大な湖の可能性があるけど。
こういう街と街の間って日本だとどうなってるんだっけ?
山とか田んぼなのかな。
まあ、妄想でもしながらのんびりと歩くとしますか。
カモメさんはアミちゃんのところだしね。
別の子が運んでくれたりしないかな。
例えばこの海から人魚が出てきて私を連れて行ってくれたりとか!
それがまたかわいい子で、一緒の時間を過ごすうちにお互い惹かれあって……。
自由の街でゴールイン!
なんてね!
うん、妄想がはかどる。
それにしても本当に何もないな。
道と海と平原と、青い空に白い雲。
こんな景色日本にあったりするのだろうか。
前までならこんな意味のない時間を過ごすなんて考えられなかったなぁ……。
時間が進むのが怖くて怖くて仕方がなかった。
でも自由の身になって、こうしてのんびりしてみるといろんなことが変わって見える。
人の心はよくわからないものの影響を受けているものだ。
大丈夫だと思って無理を続けると、気付いた時には取り戻せないくらいに壊れている。
やさしかった人間も、人を攻撃し続けるような醜い存在に落ちることもある。
それは本人にはわかりづらい変化だ。
頑張るほどにまわりから孤立していく。
本当に報われない世界。
私も休みの日を素直に楽しく過ごしていればよかったのかもしれない。
そうすればあの世界でも私は幸せに生きていけた可能性もある。
実際この世界に来てから、こうやってきれいな景色を見ているだけで少しずつ心が癒されている。
もちろん雫さんたちと過ごす時間も楽しかったけど。
あれがあの時、私に考えることのできた最高の癒しだったから。
今ならもう少しうまくやれるのかな。
でもきっとまた追い込まれたら同じように潰れていくんだろう。
戻りたい気持ちはある。
あのみんなと一緒に同じ時間を過ごしたい。
私にとっての幸せはそれだから。
でも戻ったら同じことを繰り返してしまう。
だから私はこの世界で新しい幸せを見つけていかないといけないと思う。
ヨシノちゃんのおかげでいったん過去に区切りをつけられた気がするし。
もし戻るのだとしても、今のままではいけない。
意固地にならず、自分とまわりの幸せの両方を守れる存在にならないといけない。
与えるだけでもいけない。
ちゃんと好意に甘えられるようにならないといけない。
もしかするとまわりから評価はされないかもしれないけど。
でも自分の身の丈にあった頑張りをするだけ。
頑張りすぎないようにして、みんなと過ごす時間を作っていく。
そうすればきっと幸せになれる。
うん、妄想してたはずなのに、なぜか真面目なことを考えてしまっている。
今一度妄想の世界へ~。
そういえばこの道って海のすぐ隣だけど台風とか来たらどうなるんだろう。
この辺全部沈むのかな。
それとも悪天候にならないとか?
いつもこの天気なら毎日来たくなるよね。
観光名所と言われても納得できる景色だよ。
これでかわいい人魚さんが現れてくれればバッチリなんだけど。
……うん?
今、海の方で何か跳ねたような。
気のせいかな?
さあ、どんどん進むよ~!
早く着かないと野宿になっちゃうからね。
私は気合を入れて歩く速度を上げた。
そのまましばらくペースを維持して歩き続ける。
しかしまったく目的地に近づいてる気配がない。
ずっと目の前の景色が変わらず、ここまで進むと後ろも同じだ。
まるでウォーキングマシンの上を歩いてるかのような気分だよ。
心が折れそうになる。
……いやいや。
楽園にいながらこんなことでどうする。
進むんだ~!
そのあともひたすら歩き続ける。
途中で海を眺めながらお昼ご飯を食べた。
またひたすら歩く。
そしてついに!
……日が暮れ始めた。
まずいまずいまずい!
完全に暗くなる前に、せめて寝れそうなところを探さないと。
……いや、だから何もないんだって。
オオオォォォガアアアァァァ!!
とりあえず走った。
何も考えずに走った。
これで何とかなるとか思っちゃいない。
でも、そんな頑張りをきっと女神様が見ていたのだろう。
少しだけ景色に変化があった。
平原側に公園のようなものが見える。
助かったわけでもないけど、とにかくあそこまで行ってみよう。
ちゃんと前に進んでいたという事実だけでも十分救いだ。
後はもう道の真ん中で寝てもいいや。
まさか楽園で襲われたりなどしないだろう。
辺りがすっかり暗くなったころ、ようやくその公園にたどり着く。
そこに明かりのついた看板があり、『キャンプ場・竜の巣』と書かれていた。
うん、虫も寄ってきてない素晴らしい看板だ。
しかし何がキャンプ場なんだろう。
背の低い木で囲まれているだけで何もないんだけど。
晩御飯もないな!
よし、寝るか!
「おやすみなさ~い」
私は地べたに仰向けに寝転び、祈るように手を組んで目を閉じた。
元社畜なんでどこでも寝れます!
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