第12話 のどかだな~

 着いた~。

 5分で着いた~。

 着いたはいいけど、さてどうしたらいい?


 とりあえずこの大通りを進んでみるかな。

 なんだかのんびりした空気がしていいなぁ。


 街はぐるっと川に囲まれているみたいだ。

 ゲームの街みたいな雰囲気で、変な形の建物もちらほら見かける。

 あのキノコ型の家とかちょっとかわいいな。


 珍しい町並みを見ながら歩いていると、噴水のある広場に到着した。

 そしてそこでとんでもないものを見つけた。

 その噴水の真中に、私がこどもの頃に亡くなった、母そっくりの像があったのだ。


「なんで……」


 もしかして私は夢でも見ているのだろうか。

 ああ、なるほど、それならいろいろ納得できる。


 夢にしてはやけに鮮明だとは思うけども。

 まぁいいか、夢ならせいぜい楽しませてもらうとしようか。


 さて、ちょうど広場にいることだし少し休憩しよう。

 お腹も空いたし。

 この広場には屋台もでてるから適当に何か買おう。


 あ、お金はどうなっているんだろう?

 私はさっきもらったカードを見る。


 現在の所持金は400ユーロあるみたいだ。

 1ユーロ130円として約5万円、私の財布の中とほぼ同じか。

 おい、私の他の資産はどこにいった……。


 あ、そういえばどこからこのお金引き出すんだろ?

 ATMとかあるのかな。

 そうだ、ヘルプを見ればいいのか。


 ふ~ん、ほ~う……。

 なるほど、電子マネーみたいなものかな。

 便利な世界だね~。


 まずはあそこであんまんとピザまんを買ってみよう。

 屋台のお姉さんに注文してカードでピピっと決済する。


 私は無事食べ物を手に入れ、ベンチに腰掛けそれを口にした。

 ピザまんうま~。


 なんか久しぶりに食事をおいしいと感じた気がする。

 そっか……、元気になってきたな私。


 のどかだな~。

 風が気持ちいい。


 日本の都会と違って、高い建物の圧迫感もないし、人の動きものんびりしてる。

 常にスピードと正確さを求められ、競争にさらされるあの世界でのストレスとは無縁に思えた。


 ここでなら私は幸せになれるんじゃないだろうか。

 まぁ、私の夢っぽいし、それはそうかもしれないけどね。


 もしこれが夢ならば、ずっと覚めないでほしいな。


 ピザまんを食べ終え、あんまんに手をのばす。

 そこに突然強い風が吹いた。

 おむすびコロコロみたいにするつもりか、そうはさせないぞ!


 私はあんまんを大事な抱きかかえ、風がおさまるのを待つ。

 なんだこの風は……。


 その時、私の顔に何かがかぶさってきた。

 何だ? 女の子の香りがする……。

 風がやみ、それを顔から掴み取る。


「あ、パンツだ……」


 それは女の子のパンツ。

 しかもなぜか桃ちゃんの香りがする。


 都合のいい夢である。

 私の欲望の塊か?

 とりあえずバレないうちにもらっておこう。


 そう思い、なぜか着ている魔道士のローブのポケットにパンツを隠そうとする。

 そのタイミングでこっちにむかって走ってくる女の子が見えた。


「すみませ~ん、それ私のです~!」


 残念……、持ち主が現れてしまったか。

 仕方ない、返すか。

 というか、今の声は……。


「はい、どうぞ」

「すみません、ありがとうございますっ!」


 目の前までやってきた女の子の顔を確認すると、やっぱり。

 その子は数年前の桃ちゃんにそっくりだった。

 ちょっと赤くなってるのがすっごくかわいいね!


「あの~、パンツを……」

「あ、ごめんなさい」


 赤くなってたのはこれのせいか。

 私はパンツを差し出したものの、無意識に手放すのを拒んでいたらしい。

 女の子とふたり、パンツを握りしめるという姿だった。


 今度こそパンツを渡すと、ホッとしたように息を吐いていた。

 それと同時に女の子のお腹が鳴る。


「あ……」


 ちょっと恥ずかしそうにして、また顔が赤くなる女の子。


「これ食べます?」


 私は手に持っていたあんまんを彼女に差し出した。


「あ、ありがとうございます」


 私は追加でカレーまんとピザまんを一個ずつ買ってきて、ピザまんを女の子に渡した。


 ベンチでふたり並んでそれをいただく。

 んまい。


「そういえばあなたのお名前は? あ、私は苺っていうんですけど」

「苺? イチゴさん?」


 なんだろう、今カタカナに変わった気がする。

 そういえばカードもカタカナで名前が書いてあったなぁ。


「私の名前はモモっていいます」

「え!?」

「?」


 私の驚きように、女の子……モモちゃんは不思議そうにしていた。

 いやだって、見た目そっくりで名前同じですよ?

 これはもう私の夢である説が濃厚になる。


「イチゴさんは旅の人ですか?」

「う~ん、どうですかね、今日から旅をしているという感じかもしれませんね」

「……家出?」

「ち、違いますぅ!」


 この歳で家出とかないでしょう……。

 まぁ、私は見た目があれなので、よく高校生に間違われるけど。

 まれに「君、中学生?」って聞かれることもあるくらいだし。


「でも帰る家がないのには変わりないんですよね……」

「?」


 ここが夢でも楽園でも、寝泊まりするところがないことにはただの地獄。

 でもここ田舎っぽいし、宿とかあるのかな……。


「モモちゃん、どこかいい宿とか知りませんか?」

「え~と、う~ん……、じゃあ私の家に来ますか?」

「え? いいの?」


 桃ちゃんそっくりのモモちゃんと一つ屋根の下……。

 く~っ、間違えないようにしないといけないね!


「はい、お姉ちゃんにも紹介したいし、ぜひ今日は家に泊まってください」


 お姉ちゃんがいるのか。

 二人きりだと思ったのに……。

 これではハーレム狙いするしかないじゃないですか!


「じゃあ今日はお世話になりますね、モモちゃん」

「やったー!」


 モモちゃんは両手をあげて喜んだ後、私に抱きついてきた。

 こんなに喜ばれるなんて、やっぱり夢なのかな。

 いくらなんでもいきなり好感度高すぎだよね……。


 夢なら覚めないでおくれよ。

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