第4話 秘儀・エナジーダブル!
あっという間の休日が終わり、また地獄のような日々が始まる。
もうすでに体調がよろしくないが、そんなこと言ってる場合ではない。
というか、心理的に日曜日の昼過ぎから休みが終わるのを恐れ初め、その時点で十分に気分が悪い。
平日が地獄だと休日にまで影響が及ぶ、最悪だよ。
しっかりと終わらせておいたはずの仕事も、短納と前倒し依頼で一気にパンク。
一体どんな営業をしてるんだ?
社内状況をよく見ろ。
誰が空いてるというんだ、クソが。
トップがバカだとどうしようもないな。
そんなこんなで今日も夜遅くまで働く。
月曜日から日付が変わってしまった。
火曜日。
ついに恐れていた事態が起こり始める。
夜遅く、もうすぐ23時になるというときだった。
一番壁側に座っていた女の子が突然のろりと立ち上がり、壁にむかって歩いて行く。
そして。
「う、うわ~!!」
叫び声をあげながら壁を殴りつける。
そしてそのまま暴れはじめた。
しばらくして警備員が駆け付け、取り押さえられる。
そして何かの液体を強引に飲まされると、眠りについたようにおとなしくなった。
一人目の脱落者である。
彼女は警備員によって外へ運ばれていく。
あ、一応警備員も女性です。
この光景は何度も見たことがあるが、帰ってきたものはひとりもいない。
いつの間にか退職しているので、再び会う機会がないのだ。
本当に病院に運ばれているのだろうか。
いくらなんでも繰り返し精神に異常をきたした患者が運ばれてくる企業を不自然に思ったりはしないのだろうか。
証拠隠滅を図っていたりなどはしないだろうな……。
ふふ、私の頭も相当やられている。
バカなこと考えてないで仕事だ。
私が作業を再開すると、先ほどの女性の隣の席の女の子が立ち上がる。
まさかあなたも?
と思ったが違ったらしい。
「一人減りましたね、これでまた私たちの仕事が増えてしまいました」
そうだね、人数が減ったからって仕事は減らない。
それはそのまま残されたものの負担になる。
つまり生き残ればつらいことしかない。
クソだ。
彼女はそれだけ言うと部屋を出ていく。
しばらくすると自販機で買ったのであろう冷たそうなエナジードリンクを2本持って帰ってきた。
「秘儀・エナジーダブル!」
なにかアホなことを叫びながら、エナジードリンクを一気飲みし、さらに2本目も一気飲み。
おい、大丈夫か、さすがにまずいだろ……。
「くふふ、さあヤルカ……」
もはや人でなくなっている。
水曜日。
またまた23時ごろ。
昨日に続いてエナジーダブルを使っていた子が、急に頭を掻きむしり、さらに顔を掻きむしり始める。
「ああー!! もういやだー!!」
叫んで、床に転がり、暴れる。
落ち着けよ、うざいな、誰か早く追い出せ。
警備員が駆け付け、昨日の子と同じようにして運ばれていく。
ったく、仕事が遅いんだよ。
静かになったところで作業再開。
と思ったら、私の対面の席の女の子が「あれ?」と小さな声を出した。
「どうかしたの?」
この子とは少し仲が良かったので、心配になり声をかけてみる。
するとその子は両手をぎゅっと握り、おびえたような声で言った。
「手が、手の震えが止まらないの……」
「え?」
これはまずいな、これ以上無理をさせられないぞ。
隣の雫さんも同じように思ったらしい。
「あなた、もう今日は終わりにしましょう? 無理はいけないわ」
「うう、すみません……」
彼女は何度も謝りながら、部屋から出ていく。
その後、何とか目処の付くところまで作業し会社を出た。
帰り道。
「これはまずいですね、人が足りない……」
「苺ちゃん、まだ使いたくはなかったけど……」
まさか、やるんですか雫さん……。
「「秘儀・会社近くのネカフェ泊まり!!」」
最悪である。
もはや帰宅すらできない、社畜状態。
なぜ自腹切ってまで働いてるんだ。
お金のために働いてるはずなのに、仕事のためにお金を使っている。
クソだ。
木曜日。
まぁ予想していたことだが、昨日の手の震えてた子は退職した。
本当に退職であればまだいいけど……。
これで計3人の脱落である。
そして深夜2時。
普段、というか今まで何か月も一緒に仕事をしていて、一度も声を聴いたことのない女の子が突然立ち上がった。
な、何だ……。
またか?
「くふふふふ、はははははっ! 召喚!!」
何をだー!?
4人目の脱落だった……。
これでついにこのプロジェクトのメンバーは私と雫さんの2人になってしまった。
「雫さん……、私は、秘儀・オールナイトを使います……」
「苺ちゃん……、私も付き合うわ」
こうして私たちは会社を出ることなく、休む暇もなく、金曜日に突入。
なんでプロジェクトメンバーの補充がないんだ?
上は無能しかいないのか!
ぶっ通しで作業しているのにもかかわらず、終わりの遠い仕事。
それはそうだ、2人ではいくらなんでも人数の差は埋められない。
それでも0時を回ったころには終わりが見えてきた。
もうやるしかなかった。
「最終奥義・オールナイトエナジーダブルブーストプラス!!」
もはや頭の悪いことばかり浮かんでくる。
ちなみに私、エナジードリンクは好きだが、効果を実感したことはない。
ただの気持ちの切り替えである。
だから2本飲んだのも気持ちのため。
体の方はもうボロボロだろうな。
あれ、視界がかすむ……。
涙が流れているのか、うっとうしいな……。
そうして朝の7時を回ったころ、ようやく仕事が片付いたのだった。
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