第41話 城

 ジョンフォースは少数の見張りを立てさせ、中庭に持ち出した円卓を十人ほどで囲み、遅い晩餐が始まった。

 せまい尖塔に隠れているより、敵の攻撃に即応しやすいという判断だ。


 多くの者が武具を身につけ、あるいは足もとに置いている。

 中庭をまんべんなく照らすかがり火が、魔物の恐怖をぬぐい去る。


 蕎麦粉ではなく小麦粉を溶いて鉄板で焼いたガレット。

 酢漬けキャベツや干しキャベツ。素揚げしたニンニク。あぶった馬肉。

 さらに新鮮な果実が卓上に並ぶ。


 豪勢な料理は、喪われた仲間をとむらう意図もある。

 ジョンフォース団が持っている葡萄酒から、最も高価な樽が開けられた。果実は先日に市場へ行ったワァフが買ったばかりのもの。

 ガレットにしても、食糧庫に保存しておいた新しい小麦粉の袋を開け、客人のアラートンが手伝って焼いた。香草を練り込んでいるため風味も良い。

 馬肉は戦闘で使いものにならなくなった馬をつぶし、切りわけたものだ。


 どれも、いつも食べている干し芋や、塩味しかしない干し肉、固く酸っぱい黒パンなどとは違う。

 慰めとして充分な宴だった。


 無口なのは上座にいるジョンフォースだけ。

 肉を焼いて溶けた脂と、香り高い酒で、団員の舌がよくまわる。

「今回の功労者は誰だ」

「あの客人だろう」

「よく魔物を退けた」

「旅の途中でなければ、入団してほしいところだ」

「無理だろう、勇者は並び立たぬもの」

「さすがに団長にはかなうまい」

「一人で戦った新入りも立派だった」

「しかし二匹も逃した」

「一匹は捕らえたままだ」

「それは僧侶様の仕事だ」

「おい、それは俺の酒だ」

「さすが僧侶様だ、囮と気づいて地下へ向かうとは」

「そこの肉を切り分けてくれ」

「すぐ見張りを倒したのに、敵が降りてこなかった」

「つまり、敵は上に俺達が行くのを待っていた」

「中庭と尖塔へ俺達を分断した」

「分断した隙をついて地下牢に行く」

「森の戦いと同じ、一人ずつ殺そうとする作戦だろう」

「後で考えれば理解はできる」

「しかし、あの混乱で気づくことは難しい」

「その僧侶様はどこに」

「尖塔の礼拝堂で祈っている」

「追悼か」

「違う、明日の戦いこそが追悼だ」

「ならば勝利の祈願か」

「そうだ」

「きっとそうだ」

「今度は」

「今度こそ」

 敵を退けられた興奮もあって、たがいに聞く相手がいなくとも喋り続けた。


 肉を手づかみし、脂がまとわりついた指を器の水で洗い、臭いを落とす。

 酢漬けのキャベツで肉を巻いて、口いっぱいに頬張る。

 杯を傾けるごとに酔いがまわり、ざわめきが空元気だけではない熱気を帯びていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る