第14話
炎をあげながら呪術師が痙攣しながら地面を転がった。
少女の頭から生えた老婆のような銀髪がはじけとんで、ジャニスの頭蓋骨が露出する。
果物を剥くように、黒く焦げた皮膚がはがれて、内側からのぞいた骨は凍えるように白かった。
溶け出した眼球の奥からは、新しい眼球が生える。それもまた燃える。
炎で舌を焼かれてろれつがまわらなくなる。すぐに喉まで焼けて悲鳴も出なくなる。
アラートンが聞こえるように、よくとおる声でエイダが宣言した。
「ほら、もう呪術も使えません」
焼け落ちた着物が地面に点々と落ちた。灰となった着物の上を、焦げた肉塊が転がった。
やがてジャニスは少女の形をした炭になった。
つい先ほどまで食らっていた兎の死肉と、何ら変わりのない姿だった。
「何を遊んでいる」
アラートンが叫んだ。
その足もとには、竜の血が流れ出て弱まり、いくばくか体格が縮んだシュナイが倒れている。
「浄化ですよ。死した後に加護術でなく呪術によって蘇り、さまよう死者になりはてた者への、教会の義務たる慈悲です」
自らの詠唱で生んだ炎を前に、涼しい顔のエイダがふりかえりもせず答えた。
エイダが詠唱を止めたことで再生が崩壊を上回り、ジャニスの上半身で肉が芽生えて骨にまとわりつき、人間そっくりの形状を取り戻す。
「……いやだ」
再生した白い歯の奥から声がしぼりだされる。
「いやだ消えたくない私はシュナイ様の仲間だシュナイ様といっしょに人間を皆殺しに」
ジャニスの言葉をさえぎるように、しかし慈悲を込めた優しい口調でエイダがいった。
「今すぐ、楽にしてあげましょう……ただし選択肢は二つだけ、灰となって永遠に世界へとどまり地獄に行くことすらかなわなくなるか、それとも私に浄化されて完全に消えるか。選びなさい」
「人間なんか嫌いだ、醜くて嘘つきで大嫌いだ」
這いずるジャニスの背後で、エイダが微笑んだ。
「わかりました。あなたという存在を、この世に存在しなかったものとして、完全に消してさしあげます」
杖をかかげ、ひときわ大きな声で、聖なる詩篇を詠唱する。
杖にはめこまれた宝石が星のように輝く。濁りのない涼やかな声が静かな森へ響いていく。
「ジャニス……!」
シュナイがうめき声をもらした。
地面に倒れたシュナイは体をふるわせ、細い針のような瞳で、射抜くような視線で、アラートンを見上げた。
「全てが嘘か。偽りだったか……」
アラートンはナイフをかまえたまま、倒れている魔物へ答えた。
「嘘だけで長話を続けることは難しいもんだよ。勇者が人と魔物それぞれの見世物という思いつきも、人を殺したくないから逃亡兵になったことも本心さ。だから俺は人の代わりに獣や魔物を殺している」
やがてシュナイは痙攣をやめ、目を細めたまま動かなくなかった。
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