第10話 過去
アラートンが数日かけて戦場へ戻ると、ライン川近くの混戦は、当然のように人間の勝利で終わっていた。
魔物は壊走し、残された死体はほとんどが人間によって焼きはらわれていた。
もちろんキングトードの首無し死体もすでになかった。
そうして次の戦場へ移動していたシュナイをアラートンが探しあてた時、その存在を知ってから半月ほどたっていた。
そこでアラートンは全身全霊をかけて自らを従者として売り込んだ。
「頭を上げよ」
シュナイは不快感をあらわにした口調で、アラートンの頭上から声を投げかけた。
「かように人間がへりくだるさまを、我は好かぬ」
シュナイへつかえていた呪術師ジャニスの口ぞえもあり、アラートンは従者となることができた。
主人となったシュナイと旅の途中で会話をかわし、アラートンは相手が勇者と自認していることを確認した。
それはアラートンの仮説が少なくとも半分は正しいことの証明だった。
自分の思いつきを、いつどのように活用しようか。シュナイ達とともに旅をしながらアラートンは考えつづけた。
うまくいけば運命の印だけでなく、神話の勇者ジークフリートを不死にしたと伝えられる「竜の血」がえられるかもしれない。
それどころか、竜の体で最も価値がある部位、喉元だけ上下さかさまに生えている鱗、いわゆる「逆鱗」を入手することができるかもしれない。
ただしアラトーンの策を実行するためには、どうしても他の人間の協力が必要だった。
しかし敗走した魔物の主力をシュナイ達と追うあいだ、なかなか生きた人間と出会うことができなかった。
先を行く魔物の軍勢が殺していったにしては死体も廃墟も見かけない。どうやら人の多く居住する地域を避けて撤退しているようだった。
そのためアラートンが自分の思いつきをシュナイへ説明する機会がくるまで、出会ってから半月ほど待たなければならなかった。
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