4-13「陸の宙船②」
着替え終わった博士は椅子に腰掛けて俺に向き直った。
例の制限のせいで五メートルの距離があるからどうにも妙な具合だが、俺も椅子を借りて座った。
「昨夜のうちに、片桐くんのメールは読ませて頂きました」
「すんません、忙しいのに。それで……どうっすかね?」
実現可能かは考えずに色々ぶち込んだ要望が、どの程度通るか。通るとして改良にどれくらい掛かんのか。妖怪が活発化する雪解けまでには終われば良いんだけどな。
「ええ。今日預けて頂ければ、火曜までには」
「え?」
今なんて言った?
「博士、それはズバンと無茶です」
ガイアは横に首を振った。
そりゃそうだ。流石にそんな早く出来るわきゃねぇよ。
「どれだけ働いたと思っているんですか……せめて今日はフワッと休憩して下さい」
「ええー?」
「博士」
「はい。……という訳ですので片桐くん、すみませんが、水曜の夕方で如何でしょうか?」
「え!?……いやその……ありがてぇけどさ、そんなに早くできんの!?」
いくらなんでも天才すぎるだろ!いや、一日で宇宙ステーションを設計しちまう人なら余裕なのか?
「ええ。前に僚勇会の開発班で君の剣、セレクターズジックルの設計図を拝見しまして、その時に僕の方でも改良プランを考えてはいたんですよ。昨日頂いた要望にある程度は沿えるかと思いますよ」
「へぇ。ちなみにそれ、いつ頃の話?」
「ええと、恵里さんにミクスカリバーをプレゼントした時ですね」
「それって……博士が来てすぐだから、去年の十一月とかだったか?」
「でしたかね」
「そんだったら、早く言っといてくれよ……」
俺はがっくりと項垂れた。早い所改良してもらっとけば、先週ももっとマシに戦えた筈だぜ。いや、武器のせいにしちゃいけねぇけどよ。
「すみません。部外者がしゃしゃり出るのは良くないかと思いまして」
「しゃしゃり出てくれよ……」
そりゃ新参の部外者が「コレもっとよく出来ますよ?」と言い出したら良い顔をしねぇ奴もいるだろう。日本の組織ってのは特にそうだ。
ただ僚勇会は縦も横も風通しが良いし、そういう意見は歓迎だと思うんだがな。
俺がそう言うと博士は苦笑した。
「それは分かっていたんですけどね。ただでさえアレコレ口出しし過ぎていたので、急ぎでない案件くらいは後で良いかと思いまして」
「急ぎでないって……まあ言われてみりゃ試作品を使い始めてまだ半年だしな」
使い始めた頃から不満点はあったが、困るほどじゃなかったし、慌ただしい時期だったから言い出せなかったのは俺も同じだ。
「にしても二日半くらいで出来ちまうものなんすか?」
「はい。改良プランはいくつかありますが、今回は作戦に間に合うマイナーチェンジだけにしますからね。外見は殆どそのままですよ」
「そうなんすか」
「そもそも刃の在庫がまだ沢山あるんですよね?刃の形を変えるような大幅な改良はそれを使い切ってからがいいでしょう」
「確かに……」
俺の刃は安く仕上げる為に大量生産したんで、まだ何百枚も在庫がある。
毎回豪快に五十枚づつ消費しても十数回分は余裕で保つくらいだ。流石に無駄には出来ねぇ。
「取り敢えず、今回は防御面と刃の保ちを数割向上させて、それから必殺技をつけるだけにしようかと」
「必殺技!?」
「ハルカ!」
「あ……悪ぃ」
思わず椅子から背を浮かしかけてガイアに制止されちまった。危ねぇ、自動迎撃されるところだった。
「取り敢えず、設計図を見て貰いましょうか。ガイア」
「はい」
ガイアが博士の横に立ち、机の上の十インチ画面のタブレットを持ち上げると、俺に見えるように両手で支え、その裏面を……自分の胸の上に乗せた。
「くそっ……よく見えねぇ」
「おや?貴方の視力ならキランと見えていると思ったのですが?」
「あ、ああ。大丈夫だ。画面は見えてる」
「はぁ……?」
二人の怪訝な目線を適当に誤魔化す。俺はこれでも魔術師だから、体に魔力を通すことで常人より五感は強いし、そもそも素の視力も良いほうだ。画面に写った設計図は充分見える。あと五メートル離れてもギリ見える筈だ。
ただし流石に透視能力はねぇから、タブレットの裏で潰れているものは見えねぇ。
何がとは言わねぇが。
博士は椅子に座ったまま指示棒でタブレットを差して説明を始めた。
用意が良いなと思ったら、講師の仕事で使ってるのをガイアが部屋に持ってきてくれていたらしい。
今回、大きく変更されるのは二つ。
まず刃から薄いシールドを出せるようにする。
つっても一ミリちょっとの極薄のもので、博士がコツンと叩いた程度で割れる程度だそうだ。とても妖怪の打撃は受けられねぇが、先週食らったような毒液や糸なんかを防ぐには充分だ。これだけでも結構、刃の損耗を抑えられそうだな。
そしてもう一つの目玉の『必殺技』だが、これはナックルガード部分に仕込みをするらしい。刃の威力は殆ど変わらねぇが、代わりに強い打撃を打てるようになる。
「細かい調整は、改良が済んだら実際に君に使ってもらいながらその場でやりましょう」
「頼むぜ」
「ええ。……それで最後に無線通信と分離可能時間の改善ですが」
「……やっぱ難しいんすか?」
「通信距離は一割くらいは改善できると思いますが、それ以上はすぐには難しいですね」
「一割も改善してくれりゃ結構助かるけど……」
剣本体と、剣から分離させた刃の間での通信は、森の瘴気に邪魔をされる。
中継ドローンとかを使えば改善出来なくもねぇんだが、それこそ荷物が増えちまうしコストも掛かる。
流石の博士も難しい顔をしていた。瘴気の中での通信は僚勇会が長年取り組んできた課題だ。他の改善点のようには簡単に行かねぇらしい。
「分離時間は、刃の上にシールド用の魔力を上乗せするので少しは保ちが良くなりますが……」
「そのシールドに魔力を割かれるから、差し引きでプラマイ……ゼロってことか?」
「むしろ、若干マイナスかも知れません……すみません」
「いや、それは俺の魔力が少ねぇせいだろ」
機能が増える分だけ、消費魔力が増えるのは想定済みだ。使いながら慣れてくしかねぇ。俺の魔力も少ねぇとはいえ、俺もまだ成長中だから少しは伸び代もある……筈だ。今度の作戦は大勢で行動するから、先週みてぇに一人で無理をしねぇでいいから、実戦訓練にはちょうど良いのかも知れねぇな。
「中継ドローンから通信波と魔力を送れれば、どっちもまとめて解決できるんですけどね。実戦で使う以上小型化を先にしないといけないでしょうね」
妖怪はドローンを食いはしねぇが、脅威か障害として普通に攻撃する。妖怪に近づくほど、そして大型のものほど狙われやすい。俺の側で使う以上、ある程度小さくしねぇと駄目だろうな。
今使われてる無線通信の中継ドローンには結構デカいのが多いが、あれは妖怪から出来るだけ離して使うから、事情が違ぇんだよな。
「一応、小型化の手段には心当たりがあるんですが」
「本当か?」
俺は思わず身を乗り出しかけ、自動迎撃のことを思い出して今度は自分で身を引いた。
「はい。ただ……もう少し気温が上がらないと厳しいですね」
「気温?」
意外な言葉に俺は首を傾げた。ドローンなんてむしろ熱にこそ弱そうなもんだがな。いや、冬だと寒すぎて小型ドローンじゃ凍っちまうのかな。
「ええ、それから刃の改良も今の重量や製造コストを維持したままで性能を上げるには、課題が幾つもありましてね。……でも!今の在庫が尽きる前には開発班の皆さんとも相談して解決してみせます」
「頼もしいぜ博士!ありがとな!」
「いえいえ」
「でも俺の武器のことばっかりで良いのか?」
ありがてぇけど、担当分野の広い博士に俺のことばかりやらせてたら、かえって僚勇会全体の足を引っ張っちまいそうだ。
「そんなことはないですよ。ドローンは君の剣以外にも使えますし、今回のコーティングもミクスカリバーに使った技術の簡易版のようなものです。一つの技術が他にも応用できるんですよ。君が気にする必要はありません」
「そういうものなんすか」
「はい。それで、今日は肝心の武器は持ってきて貰ってますよね?」
「ああ」
まさかすぐに改良して貰えるとまでは思ってなかったが、当然持ってきてはいた。
俺が背中から剣を取り出そうとすると博士が血相を変えた。
「待って下さい!僕の前で武器を出すと、自動迎撃の範囲が広がります!後で隣の部屋に置いておいて下さい」」
「あ!そうだった」
『要注意人物』の俺を近づけないための自動迎撃だ。当然そうなる。
だいたい妖怪を斬るための武器だ。禊と手入れはしてあるとはいえ、寝室で出すものじゃねぇよな。
「すんません、じゃあ色々忙しい中悪いけど、宜しくお願いします」
「こちらこそ、前からやってみたかったので僕こそお礼を言いたいところですよ」
博士のワクワクとした表情は、人の玩具を貸してもらう子供のようだった。失礼な表現だが他に言いようが思いつかねぇ。
「でも……本当に大丈夫なのか?ガイア?博士、過労死しねぇか?」
「私に聞きますか。まあ今回の作戦における博士の担当も、既にシュパッと終えていましたからね。むしろ適度に依頼を受けることで、かえって余計なオーバーワークをヒョイッと避けられて助かります。こちらこそピカッとお礼を申し上げます」
ガイアはタブレットを机に置くと、立ち上がって頭を下げてきた。
よく分からねぇ理屈だが、小さい仕事をたくさん入れることで、デカいのを入れづらくするようなもんか?いやコレはなんか違うか?
「そ、そういうもんなのか?いや俺こそ宜しく……」
俺も困惑しながらも立ち上がって、二人の中間位置に頭を下げる。
「いえ、お構いなく……片桐くん!」
「避けて!」
二人が突然叫んだ。その意味を考えるよりも早く俺は無意識に飛び退いた!
後ろに着地しながら頭を上げた俺の視界に、俺に銃を向けたガイアが映った。カタカタと震える手で、ゆっくりとホルスターに銃を戻していく。
……数秒考えて理解した。
お互いに同じタイミングで頭を下げたせいで、互いの距離が五メートルを切っちまったんだ。本当に面倒クセェな、この制約!
「申し訳ありません!」
「うおっ!」
ガイアが勢い良く頭を深く下げた。俺は咄嗟にバック転で距離を取る。危うく壁にぶつかりかけた。
「あっ……すみません!」
「いやお前のせいじゃねぇ。俺も迂闊だった。頭を上げてくれ。なるだけ勢いよくな」
「はい」
ガイアは風が起きる速度で体を起こした。二つの凶器がもう揺れるは揺れる。
「ハルカ。今回は私に非があるのでピシッと従いましたが、あまり胸ばかりジロジロ見るのは良くないですよ」
バレてた!
「しょ……しょうがねぇだろ!文句は博士に言えよ」
「え?何で僕なんですか?」
「何故博士なんですか?」
二人は何故か不思議そうな顔だ。
「そんなデカく作ったのは博士だろ」
俺は目を逸らしながらガイアの胸を指す。一メートルは余裕で越えているアレは残念ながら天然じゃあねぇ。だからエロくも何ともねぇ。何ともねぇんだ……!
「ひ、酷い誤解ですよ!僕は最初もっと控え目に作ったんですよ!」
「嘘だぁ」
「本当ですよ!」
博士は心外そうに否定する。
「ガイアがもっと盛れって言うから……」
「何を言うのです。
ガイアは腰の上辺りをドンと手で叩いた。いっそ男らしい動作だったが、女らしい部分が揺れまくった。
「限度がありますよ……」
博士は揺れに目もくれずに俯く。くっ!この程度は見慣れてるってことかよ……!
気付けば俺は歯ぎしりしていた。
「自分の胸のサイズを自由に調整出来るのは人造物の特権です。利用しない手はありませんよ」
ガイアは……なんと自慢げに両乳を手で持ちあげやがった! 落ち着け!エロくねぇ!アレは人工物……!
「貴方は良いかもしれませんけど、おかけで僕がどれだけ苦労したと思うんですか?聞いてくださいよ片桐くん……!」
「エロくねぇ……えっあ、ああ聞くぜ聞くぜ」
俺は頭をブンブンと振った。
「サイズを一回り増やすだけでも調整が大変なんですよ」
「そんな大変なのか?……まあ『英国の爆乳紳士』とか呼ばれてるもんな……」
「まず、必要な素材を用意するだけでも……え、何ですかそのアダ名」
博士は目を丸くした。
「『新開発の戦闘用インナーで女子隊員の乳揺れを封印しておきながら、自分だけ間近で爆乳の揺れを堪能する変態紳士』って思われてるぜ」
「ま、待って下さいよ……!予想以上に誤解が酷過ぎます!」
博士は思わず立ち上がっていた。俺に近付こうとしてガイアに服を引っ張られて止まった。念の為、もう一歩下がってから俺は恨み節をぶつけた。
「正直、恵里や桐葉さんの揺れを封じられた時は俺も博士を随分恨んだもんだぜ」
「何の話ですか!?」
「おそらく無重力対応インナーのことでしょう。女性用のブラジャーは無重力下での胸の型崩れを防ぎますから」
「あれも宇宙用だったのか……」
博士は数か月前に僚勇会に来た直後から色々と新アイテムを提供してくれた。下着もその一つだ。
男女用どちらも着心地が良く動きやすい優れものだったが、女用では乳揺れを防ぐ効果があった。女性陣にはめっちゃ喜ばれたようだが、俺たち男にとっては快適さが軽く吹っ飛ぶ程度には残念な出来事だった。勿論大きな声では言えねぇが……。
「はっきり言って男連中からは密かに恨まれてるぜ……」
「そんな理不尽な……」
「全くです」
ガイアは両手を腰に勢い良く付けた。
「男性には分からないでしょうが、胸が揺れるのは女性にとって痛みを伴うばかりか、男性の視線を集めて不愉快でもあり、良いことがないのですよ」
ほら、と言わんばかりに胸を揺らす。
「見るなってんならそういうのやるなよ……!」
俺は一応真横を向いたが、目の端が勝手に揺れる物を追いかけちまう。
「確かにズバーンと見せ付けたくはありますが、だからと言って露骨に見られては困ります」
「どうしろってんだよ……お前こそ理不尽な」
「横や後ろからチラッと見れば良いでしょう」
「横はともかく後ろから見える訳が……」
俺はそこまで言い掛けて思い直した。
「……あるか」
コイツの場合、両腕を胴体にピッタリつけてねぇ限りは、背中側からでも少しはみ出て見えるんだった。ガイアの勝ち誇った表情がちょっとムカついた。揉ませろ畜生め。
「あの……続き良いですか?」
博士が恐る恐る聞いてきた。少し不満そうにも見える。盛大に話が逸れたが、ガイアの豊胸改良のせいで博士が苦労した話の途中だった。俺は武器の改良っつう頼み事をしに来たんだから愚痴くらいは付き合わねぇとな。
「悪ぃ、続けてくれ」
「ありがとうございます。それで……胸を大きくする作業自体も大変な訳ですが、それに合わせて体のバランス調整を行うのも厄介なんですよ……」
「バランス……?ああ。人間と違っていきなり大きくなるからか」
俺は胸の前で、両手で二つの球を描いた。
博士は俺の言葉に頷いた。
「セクハラですよ」
逆セクハラロボ娘を無視して続きを待つ。故意に揺らしといてどの口が言いやがる。
「調整と言っても、ガイア本体は人間と同様に慣れで何とかなるので、あまり大きな問題ではないんですけどね」
「そうなのか」
「ズバッと違います!大変でしたよ!」
二人の主張が食い違う。俺はどうせならガイアの乳を揉み……じゃねぇ、博士の肩を持ちてぇ所だが、博士の表情が微妙に悪戯っぽいのが気になる。
「いきなり今のサイズにズッドーン!……と増量されたので、最初の一週間はステンと転んだりバシンと胸で物を弾き飛ばしたりと大変でした……!」
そういや瑠梨も、歩く時は前をよく注意して見てるな。慣れもあんだろうけど神社の階段を夕方に平気で下れるくらいだが、あれも実は結構怖かったりすんのかな。
ガイアの話はそういう巨乳にありがちな苦労話のようにも聞こえるが、普通はいきなりデカくなったりしねぇから慣れる暇が無かったってことだよな。
「もっとこう……例えば一カップづつユサッと段階的に増量して頂きたかったものです」
ガイアはまたも両乳を持ち上げやがった。階段を登るようにリズミカルに揺らす。また逆セクハラだと……俺は怒りで両目をカッと見開いた。……怒りでだぞ?
「馬鹿なことを言わないで下さい……手間が十倍以上増えますよ」
博士が言うには、胸の素材はある程度再利用できるとはいえ粘土みてぇに気安く継ぎ足せる訳じゃ無ぇらしい。ガイアの言う方式だと一カップ分ごとに毎回面倒な作業が必要になる訳だ。確かにやってられねぇな。
「でもよ、半年おきくらいで二・三カップづつ増量とかでも良かったんじゃねぇんすか?」
「僕もそれくらいならやっても良かったんですけどね。ガイアが『早く大きくして下さい、一気にズドンと!』って言ったんですよ……面倒だし、自分で言ってるし、もう良いかなってなりまして……」
「おいガイア」
ガイアは目を逸らすでもなく、無表情で俺を見つめ返してきやがる。
「何でしょう」
「お前の自業自得じゃねぇかよ」
「何のことやら……それより先程も申し上げましたが、あまりジロッと凝視しないほうが良いですよハルカ」
ガイアは今更腕をクロスさせて胸を庇う……が腕に押されてかえってエロいことになってるのはワザとか?ワザとなのか?
「それで博士」
「ハルカ」
「さっきガイア本体の件は余り問題じゃねぇみてぇに言ってたよな」
「ええ」
「ショボーン……」
「つまり服とか装備も変えるのが大変だったってことか?」
単純に服は買い直すか縫い直しだろうし、外部装甲も打ち直さねぇと……。
「それなんですよ!!」
博士がガバッと立ち上がった。
「うわ!」
俺へ近付こうとして背中をガイアに引っ張られ、慌ててベッドの上に戻った。
「すみません……それで君の言う通りなんですよ」
「やっぱ全部作り直しか」
「だけなら良かったんですが……」
「だけなら?」
「服や装備の改修自体はそこまでの手間ではありません。何度も胸を改良するよりはずっと楽です。問題は装備を付けた際のバランス調整です。元のサイズで上手くいくように調整してあったのに、全部再調整する羽目になったんですよ……」
ガイアの装備品は全身にまとめて装備する場合もあれば、頭だけとか、背中と腕だけにとか色んな装備パターンがある。その何十パターン全てを一つ一つ再設定……って訳じゃあ流石にねぇそうだ、フル装備と単体装備の時のデータを取り直すだけでも相当な手間だったらしい。
「元々、ダメージや残弾の減少による重量の変化にもミリグラム単位まで対応する冗長性を自動調整プログラムに持たせてはいたんですが、流石に本体の基本重量と体型が大幅に変わりますと、このプログラムもパラメータ変更だけでは対応し切れずに一から」
「ま、待った待った!」
話が専門的過ぎる!
「大変だったのは分かったけどよ……流石に俺じゃあちょっと意味が……」
「すみません。要するに完成した建物を基礎から増築するような話ってことですよ……」
「ああ、そりゃあヒデェな……」
「ええ……」
俺たちはガイアに視線を送るが、このロボ女は無関係かのように澄ましていやがる。
「そういや、博士……元々の胸のサイズはどれくらいだったんだ?」
「だからセクハラですよ」
ガイアは色々アレだが基本は主人に忠実な奴だ。それが不満を抱く程となると……よっぽど真っ平らだったのか?
「そうですね……」
博士は考える素振りを見せた。確か海外じゃカップの基準とかが違うんだったか?
「あのぅ……」
「ガイア(Gaia)だけに……という訳でもないんですが日本で言うならGカップくらいですね」
「やっぱり爆乳紳士じゃねぇか」
「ええ?そんなぁ!?」
海外基準でも十分デケェだろ……。
「あの……ピカッと色々謝りますので無視しないでください……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
雑談を終えた俺は席を立った。
昼飯を勧められたが断った。予定もあったし、何より俺一人だけ五メートルも離れてなきゃらねぇ食卓とかいたたまれねぇからな。それを言うと二人とも苦い表情で頷いた。
「じゃあ改めて宜しくお願いするぜ、博士」
「ええ、他にも気づいたことがあったらどんどん頼ってください!忙しいのは大歓迎です」
「ピタッと適度な忙しさなら、ですが」
「ああ。でも博士からも必要なら言ってくれよ……こっちも頼らせてもらう分、色々手伝えることは手伝うからさ」
「ええ」
俺と博士はどちらからともなく握手しようと距離を……。
「ズッバーン!」
「「うわぁっ!」」
ガイアの大声に俺たちは驚き、同時に自動迎撃のことを思い出した。慌てて伸ばしかけた手と踏み出した脚を引っ込める。
「本当に面倒だな畜生……!」
「先にこっちを何とかしたいですよね……」
「ドヨ~ン、と厄介な話ですよね、全く」
三人で力なく苦笑したあと、俺は武器を隣の部屋に預け、地上の宇宙船を後にした。
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