見知らぬ彼女との出会い

 気がついたら、誰もいない世界に僕はいた。

 確かに心地よいと感じていた。

 誰もいない世界、それは人のしがらみがない世界。

 仕事の〆切にも追われなければ、人との関係にいちいち神経を尖がらせなくてもいい。

 誰もいない、ただそれだけ、なんだけど、この世界はすごく解放的だ。

 でもそれは–––––少し寂しくもあった。

 しがらみの中にも、確かに大切なものがあったから。

 悩みを聞いてくれたり、話題を共有したり、慕いあったり・・・誰もいない世界は、それが出来ない。

 この世界は心地いい。

 でも本当に誰もいない世界は寂しい。だから、そんな世界でも、誰か一人くらいは人がいてほしい。そんな、少し身勝手なことを考えていた。

 だから、今目の前にいる彼女を見つけたとき、少し特別に感じたんだ。

「よかったぁ。本当に私以外誰もいないんじゃないかと思ったよ」

 その彼女は安心した表情をしてこちらに向かって歩み寄ってくる。

 そして、ぐいっと顔を近づけてきて僕に問いかけた。

「君も、気がついたらこの世界に?」


「うん。とりあえず現状を把握するためにここまで来たんだけど・・・」


「家、近いの?」


「まあね。ここから8分くらいのところにある」

 そこまで聞くと彼女はふーんと言いつつ顎に手を当てて、首を傾げて何かを考える。

 暫くうんうんと目を閉じて頷いていたが、結論が出たのかぽんと手を叩いて、目を開けた。

「じゃあ君は私にとってパラレルワールドの住民なのかな?」


「いやちょっと待って。なんでそんな考えに?」


「だって私の家もここから5分くらいのところにあるんだよ? それなのに私は、君を知らない。君も多分、私のことを知らない。これっておかしいよね?」


「そう? 地域の人の名前を全部覚えてるなんて、そうそうないと思うけど」

 そんなことができるのはよっぽど関係が密な地域だけだろう。

 生憎ここは都会なので、田舎のようにご近所さんのコミュニティがそこまで密なわけではない。まぁ極端に希薄ではないとは思うけど。

 どのくらいかというと、母親が町会のメンバーをちらほらと知っている程度だ。

 だから同じ地域に住んでいたとしても、彼女が僕を、僕が彼女を知らなくても別におかしくは思わないけど。

「うーん。じゃあ、君今何歳?」


「17だけど・・・」

 それが何の証明になるのだろう?

 口を開いてその疑問を口にしようとする。

 しかし、その前に彼女が口を開いた。


「じゃあやっぱりヘンだよ。私も17だよ? ここ一帯の中学校の学区域は一中だし、君も同じ中学に通ってるハズ。私、自慢じゃないけど中学校の同期は全部覚えてるんだ。それなのに君のことは記憶にない」


 彼女はひとつずつ、大切なことを確かめていくような口調で話す。

 それにしても、中学校の同期の名前を全部覚えてるのか。すごいな。

 僕なんて他クラスの人の名前はちらほらとあやふやなところがあるのに。

 でも、まあ彼女がそこまでいうならそういうことでいいだろう。


「よし、わかった。僕と君は、お互い違う世界から来たんだ。で、それがわかってどうするの?」


「うん。先ずはお昼食べてから、色々と歩き回ってみようよ。この世界についてとか色々話しながらさ。この世界になぜ、私と君は来たのかとか、ね」


 確かに太陽の高さを見てみると、そろそろ昼飯を食べる頃合の時間だった。

 お腹も空いてきたし、ちょうどいいか。


「そうだね、そうしようか」


「よーし、じゃ、行こっか」


 彼女はそう言ってタタッとショッピングモールの方へ駆けたかと思うと、何か思いついたように立ち止まった。


「あ、そうそう。それに、君のことについても、なんか興味があるな。ついでに教えてよ。君がどんな生活してるのかとか、どんなこと考えてるのかとか、さ」

 彼女はこちらを振り返り、少しかがんで笑った。

 –––––ここはどこなんだろう。彼女は誰なんだろう。

起きたら誰もいない世界に来て、いきなり僕のことを自分とは違う世界から来た、と言ったすこし不思議な少女と出会って。

 わからないことだらけのこの世界だけど–––––ひとつだけ、この世界に来てわかったことがあった。

 それはこの世界の特殊性から来てるものかもしれないけれど、

 僕は、この少女に興味をひかれている、ということだった。


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