5.男の生き場所
生きるためにすること(つまり食べ物を獲得したり、水を飲んだり、体を洗ったりすること)以外で、男にとってすることといえば、突き詰めれば一つしかない。
それは女との交流だ。およそ男のどんな行動も、女がそれに肯定的な評価を与えない限り、本人にとっても無価値だ。
たとえば事業においてはたいていの場合、「結果」以外の何も意味を持ちはしない。
しかし人生とはその人の過ごした時間以外の何ものでもないから、「経過」以外に何も意味を持ちはしない。
それで俺は、自由な時間とカネ、すなわち余暇と可処分所得を、自分にとってもっともふさわしい「仕事」をするために費やす。
俺にとって意味のある時間とは、物語や歴史としての時間ではなく、現象としての時間だ。
その時間を濃密なものにするために精力を傾ける。
だから俺は何か立派な目的を追いかけることなどせずに、始めからまっすぐ女のもとへと向かう。
女と肉体的な(フィジカルな、現実的な、すなわち数字にして計ることができる)距離を縮めるとき、そこには固有のスキルがある。
最も一般に知られているのは愛を告白することだとか、結婚を申し込むことだが、俺がここで言っているのは恋人でない女との肉体的な距離のことだ。
あらゆるスキルと同じように、このスキルも経験と知識にもとづいて編み出される。
肉体的な距離を縮めるためには、女の心理的な覆いをいくらか脱がしておかなければならないが、距離を縮めることそれ自体がまた、次の心理的な覆いを脱がすことにもつながる。
ほんの指先程度であったとしても、直接の肌の触れ合いは、お互いに対して何がしかの親近感や特別な感情を抱かせるものだからだ。
ほんの少し触れることとまったく触れないことの間には、計り知れない距離がある。
やがて、適切なタイミングで、適切な場所に、適切な仕方で触れば、女の欲望は高まってくる。
女の反応を見ながら次にどこにどのように触れるべきかを考え、そしてそこに触れるための許し(あるいは不許可の進入)を得るためには今何をするべきかを常に考える。
すべての覆いを脱がし、そこに肉体と欲望だけが残ったとき、女は自分の着ていたもののことなど忘れる。それは素晴らしい光景だ。
一人の女が服を脱いだ時にどうなるか、予測することは非常に困難だ。
これがあるから、女選びは一気に複雑になる。
顔が可愛いだとか、服がおしゃれだとかいう以外に、その女が服を脱いだらどうだろうかということを常に考えに入れなければならない。
街中ではほとんど目に入ってこないほど印象の薄い女なのに、服を脱ぐと一気に華やかで甘美という女がいる。
そしてこれは、体だけでなく性格にも当てはまる。
皆で集まって話していた時にはがさつで猥雑と見えた女が、二人きりの親密な空間になるととびきり親切で優しいという事がある。
それとは逆に、服を着ているときには可愛くて男を誘うのに、脱いだ時には思いやりも創造性もないという女もいる。
まだ見ぬ世界は、男を惹き付ける。
服に隠された女の体、社会性や常識に隠された女の素顔、まだ知らぬ女との対話、二人で築き上げる芸術的な性交。
まさにそこにこそ、俺は男の仕事の本拠地を見る。
そこにしか、男が知能と肉体を駆使するフロンティアはないのだと。
そこでの成功だけが、自分は間違っていないと、男に実感させてくれる。
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