ステイ・ゴールド


妻と娘と、3人で風呂に入った。

娘は絵に描いたように丸々と太った赤ん坊で、頬がたわわに実って赤い。

腹はずっしりと詰まって重く、その丸い厚みの中に生命に重要なものがたくさん詰まっていることを実感させる。

どうか末永く、このすべての器官が正常に機能しつづけますように。



妻がシャワーを浴びて身体を洗うのを、娘は私とともに浸かっている湯船から興味深そうにじっと見ていた。

じっと見て、じっくり考える。

それが娘のスタイルだ。

私も同じだ。

今でも、この世界はいったいどうなっているのだろうかと、いつも考えている。

違うのは、まだ1歳の娘と違って私は、この世界に対して影響を与えることができる。

改変をほどこすことができる。

自分の意志をこの世界に、具体的に反映できる。

そして娘よ。

私はあなたが、少しでも生きやすくなるようにと、そういう仕事をしようとしている。



娘よ、あなたは徹頭徹尾、「自分のために生きる」ためにここにいる。

私も同じだ。

自分のために生き、自分の望みをかなえようと行動してきた結果、今私はこうして、あなたと共にいる。

自分の望みのためだけに行動してきたはずなのに、いつの間にか、あなたのためにいろいろな働きをしているというのは、不思議な帰結だ。

あなたが生まれたことで、私は自分がいつか死にゆく生き物なのだという実感をいっそう深めた。

その時に、妻と共に老いる権利を得ていることを、とても心強く感じる。

考えれば考えるほど、感謝しか出てこない、こんな夜だ。



娘よ、あなたはいつか、私のことを忘れるだろう。

それでいい。

それでいい。

人生は物語ではない。

人生には「今」しかない。

自分がこれまでに歩んだ道よりも、これから歩みたい道に視線を向けていい。

イマジネーションは自分を縛るためでなく、解き放つために使うんだ。

いつかあなたはあなたの道を行くだろう。

私はあなたの始まりになれたことに、喜びと誇りを感じよう。



願わくば、私がそっと歩み去るとき、妻と共にあるように。

そんな未来が欲しいなら、妻にその気持ちをいつも伝えるしかない。

日々、そのチャンスをもらえていることにもう一度感謝を捧げる。

そんな夜だ。

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