2 ゾイ


********




ミカエルは、本当に月曜日に戻ってきたのだけど

榊も戻って来たから、私が お泊り会になってしまった。


夕方には、祓いの方の仕事も入ってしまって

沙耶夏が、リラと居るルカや、ニナと居るジェイドに『連絡しづらいわね... 』と 困っていて。

私が その仕事へ行こうかと思ったのだけど

『依頼人の方が、“前に 氷咲さんに お世話になって” って言われてて。ルカくんに来て欲しいようなの』って事だった。

それで沙耶夏は、頑張ってルカに連絡してた。


でも ルカは

『あ、マジで? うん、行って来るしー。

リラ頼める? 朱里ちゃんの店に送っとく』って風で、後でリラに聞いたのだけど、お泊り会の事を

話してたみたい。


夜、お店に来てくれた ミカエルに

『おかえりなさい』って、ご飯を出していると

沙耶夏が『榊ちゃんも戻ったみたいなの... 』って

様子を見てて。


大きな仕事で忙しかったし、私が ミカエルと

ゆっくり過ごせていなかった事を知ってるから

心苦しそうだったのだけど、榊やリラと会う時に

私を呼ばないのも... って、気を使ってる。


そうしたら、ミカエルの方が

『榊、リラとも会う?』って 聞いてて

『そうなの。お泊り会をしようって事になってるの』と 沙耶夏が言った。


『うん』って微笑った ミカエルは

『ファシエルも行って来る?』って 言ってくれて

『ニナ達は?』って 聞いてて。


『ニナ達には まだ、ちゃんとリラを紹介 出来てなくて... 』って 答えたのだけど

『でも、ニナは ジェイドとバリへ行ったようで

アコに お弁当を渡してもらいました』って事も

付け加えたら、ミカエルは

『じゃあ、今日はジェイド達に、プラモデルを作らせて来る』って、食後にエッグタルトも食べると、私に『明日また来る』って 微笑ってくれた。

エステルにもキスをして、ルカ達が仕事をしてる場所へ向かったみたい。


『彼、少し落ち着いたわね。

きっと、イエスさまが あなた達の事を祝福してくれて、あなたと 一緒になったからよ』


笑顔で言う 沙耶夏に『うん... 』って頷いて

一緒に お店の閉店作業をすると、二人で三の山に

榊を迎えに行った。




********




「四郎の弁当?」


「はい。あの、こっちは ミカエルの... 」


水曜日。

昨日は また、ミカエルは第六天ゼブルの会議に出席していたのだけど

今日の朝、沙耶夏を駅まで送って、お弁当を作るために お店に行くと、お店の前に ミカエルが居た。


驚いて『戻ってたんですか?』って 聞いたら

『うん、さっき。沙耶夏とファシエルの家に行ったけど、居なかったから、朱里に聞いてみたら

“四郎くんの お弁当作りかもー” って聞いて。

それで、待ってたら驚くかな? って思ったんだ』って 教えてくれて、本当に私が驚いたから笑ってて。


『はい... おかえりなさい』


嬉しくて、楽しい気分にもなって、微笑いながら

挨拶をしたら、私の頭の上から エステルを手に移した ミカエルは、先に 私の額にキスをしてくれたから、ファシエルの私に戻ってしまってた。


一度、一緒に沙耶夏の部屋へ戻って

女性用の衣類に着替えると、ゾイに戻った時用の衣類と靴を持って、お店に顕れて

今はキッチンで、ミカエルの朝食を作った後に

四郎の お弁当を作っているところ。


朝食をカウンターへ運ぼうとしてたら

ミカエルは『ここで食べる』と 言って、お料理の

見学をしてる。


四郎の お弁当と 一緒に、ミカエルと私の分の作って、どこかで食べるのは どうかな... ?と 思って、

そう言おうとしたら、ミカエルの方から

「紅葉を見ながら食べる?」って 言ってくれた。

「はい」と 返事をしながら、すごく嬉しくなってしまう。


お弁当を冷ましている間に、おやつのカスタードケーキも作って、冷ました おかずを お弁当箱に詰めていると、もうカスタードケーキを食べてる

ミカエルに「でも、ファシエル、戻れる?」と 聞かれて、あっ... って、姿の事を思い出した。


「わからないです... 」


今日 一日、ミカエルと居られる と思うと嬉しくて

なかなか ゾイに戻れなさそう。


「じゃあ、四郎には 俺が届ける」って言った ミカエルは

「前に、“ラファエルなら 姿を戻せるかもしれないから、戻りたくなったら言えよ” って言ったけど」と、今は 私がどう思っているのかを聞いた。


私は 全く、普段は男性形悪魔の ゾイでいる事に

不満はなくて、逆に男性形でいる方が、沙耶夏や

朱里達が異性に近寄られて困ってる時に護れるから、良かった... って 思っているくらい。


ミカエルが 私の事を考えてくれたのは嬉しいけど

正直に「ずっと今のままでいたいです」って

その理由も話すと、「うん」って微笑って

「俺も、今のままで居てくれた方が安心する。

仕事で離れてる事も多いし、ニナやシイナの店に行って、裸じゃなくても、やっぱり他のイシュに見られたくないって思ったんだ」って 言ってくれて...


顔が熱くなってしまったけど「はい」って頷いて

ああ、今日は本当に ずっとゾイに戻れないかも... って、甘くて小さな ため息が出た。




********




ミカエルが、四郎に お弁当を届けてくれて

放課後は また、おやつを届けるのだけど

私達も お弁当とレジャーシートを持って、紅葉が多い 四の山へ移動した。

「キャンプ場の川の近くにある紅葉のところなら

あんまり人が来ないと思う」って。

四の山の白尾の結界の近くみたい。


澄んだ川の近くには、大きな紅葉の木があって

すすきも たくさん生えてる。

かわいくて赤い紅葉の絨毯の上に、レジャーシートを敷いて、エステルの ご飯に、野菊や女郎花おみなえしを摘むと、お弁当を広げた。

「おいしい」って、笑顔で食べてくれて嬉しいし

とっても楽しい。


「今日は、地上で遊んでもいいかな... 」


ミカエルが、紅葉を見上げて言ってる。

いつもなら 二人でエデンへ行くのだけど...


エデンで治療を受けていた ヴァン神族の子供達は

すっかりと治って、ヴァナヘイムに戻ったようなのだけど、ソゾンの血を引く神人の子供達は、まだエデンに居る。


ラファエルや他の天使達が ずっと 一緒に居るから

大丈夫なのだけど、つらい思いをしたイヴァンや

他の子供達の事も心配で、顔が見たいと思ってたから、ミカエルの言葉が少し意外。

それに、少し あの場所にも行きたくて。


おにぎりを食べながら、ミカエルの言葉を待ってみると「星絵側へ行くと... 」って ため息をついて

あぁ、そうか... って、理由が分かった。

創世記は終わったけど、次は “しゅつエジプト記”。

ミカエルは、また飛ばされるんじゃないか? って

警戒してるみたい。


でも もし飛ばされたとしても、聖書の中に居る間は、現実時間の経過はないから、時間を取られる事にはならないのだけど...


「俺、ファシエルと遊ぶだけがしたい」


卵焼きを食べて言った ミカエルに、少し笑ってしまう。

「いつも忙しくて、こうやって 一日居られる事が少ないのに」って、本当に拗ねてる。

嬉しいし、かわいくも思ってしまう。


「そういう日があったっていいと思う」


海老フライを取って言う ミカエルに

「死海へ、行きませんか?」って 言ってみる。

春、アコに夢魔の術を掛けられて 河川敷で眠ってしまった時に、ミカエルやエステルと 一緒に、死海に居た記憶が 薄っすらとあって、気になっていて。


「うん! 四郎に おやつを渡したら行こう」って

すごく笑顔。


「はい」と 返事をして、降ってくる紅葉の葉を見ながら 残りの お弁当を食べ終えると、ミカエルが

お花を食べ終えて、お昼寝を始めたエステルを

自分の頭に載せてる。


お店に戻って、二人で珈琲を飲んで

ミカエルが おやつを届けてくれている間に

お弁当箱を洗って、自分のブロンドの髪を抓んで

見てみた。


元の姿になったのは久しぶり。

前に ボティスにもらった水色のワンピースに

ベージュのトレンチコートを羽織って

ワイン色のブーツを履いてみたけど、おかしくないかな? トイレの鏡で見てみようかな...


時々 アコが「沙耶夏と お前に」って 衣類を買って来てくれるから、着れないままにクローゼットが

いっぱいになってきちゃってて...

でも、やっと着れた。

鏡に映る私は、人間の女の子みたいに見える。

うん... おかしくは ないと思う。たぶん...


「ファシエル」って声がして

「はい」って トイレから出ると

“何で そこに?” って顔をされてしまって

あ... っと、恥ずかしくなった。

天使や悪魔には、トイレに行く必要がないから

トイレに入っていたのが不思議なんだと思う。


「鏡を、見ていて... 」と、打ち明けると

エステルを載せて近づいた ミカエルが微笑って

「かわいい」って、ハグしてくれた。

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