6 ニナ


それから、ココのことで 教会に行ったりして

あんまり見ちゃダメかな... って思ったんだけど

ジェイドくんばっかり 見ちゃったり。

朝の河川敷のカフェでも 隣に座れて、身体の中身が ふわっと浮いた。


ジェイドくんが目立つからかな? って思ってた。

だって、シェムちゃんが居る時は、シェムちゃんにも目を奪われたし。

それとも、神父さんだからかな? とか

私からは、すごく遠い存在だって気がするから。



“最近、また かわいくなったね” って言ってくれた

カフェの お兄さんと、デート出来ることになったんだけど、私、この人が好きだったのかな? って

不思議だった。


お兄さんは カッコいいんだけど、何か違う。

ジェイドくんとは。

ジェイドくんは、栗原とも 祐介とも違う。


夏に シイナと海に行って、ジェイドくんたちに

会えちゃって、一緒に お祭りを回れたりして。


“あー、私も浴衣 着たかったなぁ” って言ったら

“まだ お祭りはあるよ” って返してくれて

えっ? もしかしてまた 一緒に?... でも、そういう期待しちゃったらダメだよね? とか

金魚掬いしてる時も、緊張しちゃって ひどかったんだけど、私、実は普段は得意。なのに

“うん、わかったよ” って信じてくれなかったけど

もう、楽しかったー。


バリにまで行けたのに、私、呪術かけられちゃったみたいなんだよね...  ぬけてない?


庭園を お散歩して、一緒にシャツを買ったり

プルメリアの髪飾りを付けてくれたりして

きゃあ カレみたい!... って嬉しかったのに。

ぬけてるよね。やんなっちゃう。


その時のことは、全然 覚えてなくて。

あー、なんか 鍛えてるふうの 夜もサングラスの人居たなぁ って感じ。

あとは、プルメリアを見た気がしてる。


その後が問題。

私、中身だけ 異次元にいたんじゃないかな?

お店でも どこでも、何か話したりしてるんだけど

自分で話してて、何 話してるのか よくわかんないの。

会話をしてる相手と なんとなく辻褄だけ合わせて

心では、何も考えてない って感じ。


あの時にも似てる。お花とピアスの前。

声を掛けてきた人と寝てみたり、楽しくないのに

楽しい気がしてたり。

それを...  教会で ジェイドくんに 話したり...


ダメ。 今 思い出しても、強烈すぎ。

このことで、何度 落ちたか わかんない。

はじまってないのに、自分で潰しちゃって。


それでも、ジェイドくんは、私に好きだって言ってくれた。

喜びが大きすぎて、訳わかんなくなっちゃってた。本当に鼻血が出そうな感覚がしたけど

でも、ちゃんと言わなきゃ!って、頑張って。


なのに、木になっちゃって。

... ある? こんなこと。ないよね なかなか。


上手くいかないようになってるのかな?

もし、どんなに頑張っても。

ジェイドくんは神父さんで、私は こんなふうだから。


... あっ。やめよ。こうやって考えるの。

高校生の時のこととか、遠いこと思い出すと

ほんと良くないー。


グラス 洗って寝よ。

明日は会えるんだし、私 まだ、何も頑張ってないし。


換気に開けた窓を閉めて、灯りを消して、ベッドに入る。

毛布をかける時に、腕が 自分の胸に当たった。


女のコの身体になったこと、本当に嬉しい。

やっと 私だって実感する。


でも ほんの少しだけ。


パパとママがくれた身体のままで生きれなかった。 不安げな パパの顔を思い出す。

神さまも きっと、私に 同じ顔をする。





********





「ニナ。乗れよ」


ジェイドくん じゃなくて、朋ちゃん。


「うん」


“今から 行ってもいい?” って 連絡したら

教会の お仕事が少し長引いてるみたいだから

“朋樹に迎えに行かせるよ” だって。


朋ちゃんには 一度、送ってもらったことがあるから、お部屋の下まで来てくれちゃった。


朋ちゃんの車で来てくれてて、中から開けられた

ドアの 助手席に乗り込むと

「心配すんなよ。教会に おまえ送ったら

そのまま空港に行くからよ」って。

後部座席にはトランクが載ってる。


「なに、心配 って」って 返したら

「邪魔の に 決まってんだろ。

ジェイドにも散々 言われてるからな」だって!


「ジェイドくんの妹さんに会いに行くの?」


からかったつもりだったのに

「おう。でかい仕事 入ると、なかなか行けねぇからな」って普通。

「ヒスイが こっちに来たら、紹介するからよ。

シイナにも」みたい。嬉しい。


しばらく、ヒスイちゃんの話とか お店のこととか話してたんだけど、教会が近くなると

「ニナ」って、朋ちゃんの声色が変わった。


「うん? なに?」


やだ ドキドキする。ちょっと怖い。


「ルカも心配してたんだけど、おまえさ

いきなり、ワザ 出すなよ」


ワザ? なんのこと?

私、超能力も魔法も使えないし。ほんとに謎。


「寝る時」


寝っ... 「やっ!! 何言ってんのぉっ?!」


ワザ って、そういうの?!

ダメ... 顔 熱くって、ファンデーション浮きそう...

ルカちゃんも それ心配って、何なのー?


「いや、聞けって。

お互い遊ぶ とか、そういう相手 ならいいんだよ。

その場合むしろ だけどよ。

本気の子に、いきなり すげぇの出されてみろ」


ファンデのチェックしながら、つい鏡越しに

「... どうなるの?」って 聞いちゃったら

「クソ萎え」って 返ってきちゃった。 わぁ...


「マジで、最初は いろいろ出すなよ?

そういうのは もう、慣れた頃 徐々に でいいからよ。張り切るから好きにさせてくれ」


そうなんだ...

もし、そういう時がきたって、絶対 何も出来ないと思うけど...  お店のコたちにも言っとこ。


「返事!」

「... ぅ うん!」


「よし、行け」って、車を降ろされて

「朋ちゃん、ありがとう」って 手を振る。


石畳の先の教会に向くと、ドキドキしてきたけど

教会の扉は 広く開いてて、ジェイドくんが歩いて来てる。これだけでカッコいい...


近寄ってたら「ニナ」って 声を掛けられたから

「うん!」って 返しちゃって、笑われちゃって。


今日は、神父さんの格好じゃなかったけど

「告解を受けてて。終わったから着替えたんだ」って、私のバッグを持ってくれた。

背、高いなぁ。私も 170センチくらいあるのに。


「手は?」って、手も取られて

一緒に教会に入って、通路を どんどん歩いてく。


神さまの 十字架を見上げると、お祈りをして

「彼女を愛します」って 言った。


なにか わからないけど、胸の中が熱くなってる。

今も、じわじわ って。


「家に寄る?」

「えっ?」


じわじわしてる内に、またすごく嬉しい...

頷いたら

「じゃあ、本山さん。お願いします」って

助祭の神父さんに挨拶して

「四郎も 一緒に住んでるし、普段は あいつらも

ごろごろいるから、なかなか呼べないんだけど」って、教会の裏に入っていってる。


裏の扉が開いたら、ガムみたいな匂いがして

「ミントだらけになってるけど、ルカの仕業」

なんだって。


玄関を開けて「入って」って通されたから

「お邪魔します」って ブーツを脱ぐ。

ここが お家だって知ってたけど、絶対に近寄れないんだろうなぁって思ってた。


「二階が... 」って 私の手を引いて、階段を昇って

「奥が寝室」って 開けて見せてくれるんだけど

長い腕とか、がっしりとした肩にも見惚れる。


寝室は、紺と古い木が基調の落ち着いた部屋だけど「だいたい ボティスが使ってる」みたい。


「四郎の部屋と」って、ドアだけ指して

「これは物置」って 隣のお部屋。

「向かいが客間。僕らが寝る。暑苦しく」って

畳敷きの何もない部屋を見せてくれた。

ここで みんなで寝てるんだ。

でも、体格を考えると ちょっと狭そう。


一階に戻ると、リビングのソファーに案内されて

キッチンで 珈琲を淹れてくれた。

リビングも、調度品が古いものが多くて すてき。

「焼いといた。食べる?」って、ビスコッティも! 私も何か作っといたら良かった...


向かいに座ったジェイドくんに

「美味しい?」って聞かれて 頷くと

「今度 教えてあげるよ。ルカの母さんに習ったんだ」だって... いちいち嬉しい。

私の爪に目を止めて

「きれいだ。色も好み。よく似合ってる」だし

イタリアの男の人って すごい。


「会いたかった」


そうなの?! いきなり そんなふうにくるの?!


「そっちに行ってもいい?」って

ソファーの隣を眼で示してる。


見ちゃってたけど「ニナ?」って呼ばれて

声も出せずに頷いたら、嬉しそうに微笑った。


沈むソファーが、隣に ジェイドくんが来たことを伝えてくる。

長い脚の 向こう側の膝についた片肘に 頬杖をつくと、身体ごと私に向いて、「可愛い」って 微笑ってる。 やだー もう ダメかもー...

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