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校門へ歩きながら、リョウジたちに

「こうやって避難するの、家の人は 心配してなかった?」

「泊りだしな」と 聞いてみると

「“家にいるより安全だから” って、ぼんやり言ってて... 」

「半分、学校行事みたいに思ってるし

高島ん家も うちも、“リリ班” で

近所には警備員の人たちもいたから」ってことだ。リリ班か...

警備員... 悪魔たちが、“学校は安全” と

催眠も掛けているようだ。


けど

「先生は、“うちの生徒は 半分くらいだ” って

言ってました」らしく

あの学校の生徒は、全校生徒の内の半分くらいで

あとの半分の生徒は、家族と家に居るようだ。

まだ小さい弟妹や ペットがいる場合、くっついてれば、影人の重なり防止にもなるもんな。


「うち、どうなんだろ? リリ班かな?」


ルカが今更、「あ、母さん?」と

実家に連絡してみている。


「え? リン? 講堂に居るんじゃね?

うん、ジェイドも居る。

あのさぁ、父さんって、“リリ” つった? あっ」


通話は切られたようだが

「言ったかぁ」と 安心している。

「僕も、母さんに聞いたら 切られて

後で ヒスイに怒られた」と ジェイドも言う。

うちにはサムが居るので、心配はないだろう。


校門には、オレらより先に 高島くんが着いていた。

「おれら、自転車の方がいいですか?」と

聞いているが

シイナが「私、車 出すけど」と 言うので

シイナの車に、ニナとジェイド、朋樹。

残りは バス として、ジェイドから鍵を預かる。


「学校の裏側に、スーパーみたいの あったよね?」

「じゃあ、そこで」と、バスに乗り込んだが

オレが運転、朱里が助手席。

ルカは自ら「あ、オレ 定位置だし」と

後部座席のテーブルに収まった。


「このバス、かっこいいですよね」

「乗っていいんですか?」と

高島くんや 真田くんが浮かれていて

「おう、もちろん。ジェイドのだけど」と

答えると、リョウジが

「おれ、乗せてもらったことある」と

自慢している。

車内ミラーで見た四郎も、ちょっと得意そうだ。

なんか まだ、何かと かわいいよな。


「すごい景色になりましたよね... 」


窓の外を見る リョウジが言った。

一戸建ての家の塀の内外、街路樹やビル、歩道橋や横断歩道にも、カラフルな赦しの木が 枝や根を広げている。異星みたいだ。

通行止めになっている道も多く、休みの店も多い。歩いている人も いつもより少なかった。


ただ、黒スーツの悪魔は あちこちに居るんだよな。

営業している店の人や客も、アマイモンの配下憑きかもしれねぇし。


「きれいだけど... 」と、真田くんが 言葉を止める。影人と重なって 融合した人や、変形した人を

取り込んだ木だ。


ルカも「うん、そうだな」くらいしか 返せず

「私服で学校って、新鮮なんじゃねーの?

他校生もいるんだよな?」と、話を変えている。


「はい。制服じゃないから 分かりづらいですけど。“親が体育館にいる” ってやつも いました」

「なんか、悪そうなやつもいるけど

警備員さんたちが見回ってくれてるんで

トラブルもないです」


話を聞いている間に スーパーに着き、屋上駐車場に バスを停めた。

スーパー っていうか、ちょっとした複合施設なんだよな。二階建てで、食料品売り場の他には

食事が出来る店や 小さいゲームコーナー、ドラッグストアなども入っている。

駐車場には車が多く、混んでいるようだが

シイナも停めることが出来、合流して 店内に入った。


「あっ、カート!」

「おれ やりますよ!」


リョウジたちが はりきって、カートにカゴを載せているが、そんなに買うか... ?

まぁ、いいけどさ。

四郎は ぼんやり、クレーンゲームを見ていたので

「あとで やるか?」と聞いてみると

「はい」と 喜んでいる。


「カップ麺とか レトルトの棚、ガラガラだね」

「飲料もな」

「急に 休みになった人も多いだろうし、しばらく

外食に 外へ出る気にもならないだろうからね」


“でかい台風が来る” って時とかも、こんな風になったりするよな。

子供の頃は不謹慎にも、少し わくわくした。


ロキのグミや ミカエルのマシュマロ、

「榊ちゃんと、ゾイさんと 沙耶さんにも」と

朱里が選ぶ ロリポップ、四郎たちが選んだ スナック菓子などを 三台のカートのカゴに入れ

「纏めて払っとくから、他に見るもんあるなら

見て来いよ」と言う朋樹に 会計を任せる。


「いや、お金... 」「自分の分は... 」と

財布を出し始めた リョウジたちに

「いやいや、勘弁しろよ」「高校生にさぁ... 」と

しまわせ

「クレーンゲームやろう!」と 笑顔の朱里のあとについて、ゲームコーナーに移動する。


「私、こういうの得意」と言う シイナは

小さい クマのぬいぐるみを 二個いっぺんに取って

「沙耶さんと ゾイちゃんに お土産」と

取り出し口から取り出した。

四郎たちに「なんと... 」「わ、すげー!」と

感心されている。これは、オレより上手いな。

ジェイドが「運転も上手かったからね」と

わかるような わからないような褒め方をした。


「あたし、これにしよー」


朱里は、狐か犬かの ぬいぐるみ なので

榊の土産にするようだ。... が、壊滅的に下手だった。

「あれ? 違うとこに行っちゃった」と 首を傾げているが、おまえが やったんじゃねぇか。


「朱里ちゃん、今 どれ狙ったの? 下の?」

「深いとこ行きましたね」と

シイナや リョウジに言われ

「えっ、一番上にあるの 狙ったんだよ?」と

再チャレンジしているが、惜しくも何ともねぇし

四回目くらいで オレとルカが 笑い死にかけた。


高島くんと 真田くんは

「あっ。朋樹くん、会計 終わったみたいです」

「袋詰め 手伝ってきます」と

笑っちまうことから逃げ、リョウジは

「四郎、どれにする?」と 笑いを堪えて逃げたが

「失礼くないー?」と、朱里も笑っている。


ジェイドとニナは... と 探すと

小さい子用の 動く車型の遊具に

「収まれる?」と、ニナを乗せてみていた。

恥ずかしそうな ニナは かわいいが、ぬいぐるみとか 取ってやれよ... とか思う。自分は差し置いてな。

「立ったりすると あぶないかも」と、料金を入れて 動かしてもいる。あいつ、よく わからんよな...

軽い変態なんだろうけどさ。


「もー、手伝ってあげるからさぁ」と

笑い疲れた シイナが、朱里に言い

「“ストップ” って言ったら、指 離してね」と

クレーンゲームの横についた。


朱里は、「うん! あ、ルカくん ありがとう!」と

ルカが両替してきた 小銭を投入し

シイナの「これ、横にだけ動かせば 取れそう」という アドバイスも聞き

「じゃあ、いくね」と、横に動くボタンを押した。

「はい、ストップ!... えっ? なんで?!」と

シイナが 偽睫毛の眼を丸くする。


「言ったから離したのにー!」と抗議する 朱里に

「違うし! 言った “後に” 離したよね?」と

シイナも言い返す。

「けど、ちょっとズレただけだし

縦ボタンは、ピ って 押すだけにしたら いけるんじゃね?」と ルカが言うと

気を取り直した 朱里は「うん!」と、ボタンを

二秒くらい押した。

「なんで?!」と ルカがビビる。

カートに ビニール袋を積んだ朋樹が登場し

「うわ、朱里ちゃん、ひでぇな」だ。

笑い死ぬぜ。


「やばいっすよ、朱里さん」

「おれ、代わりましょうか?」と

高島くんたちにまで申し出されているが

朱里は「ううん、絶対 取る!」と 意地になって

何かを燃やしている。


結果、また両替に行った ルカの手の中の小銭を

使い果たし、「あー! 倒れちゃった!」と

店員さんに ぬいぐるみを取りやすく起こして 置いてもらい、オレや朋樹も 小銭を投入し続け

「きゃあ! 取れたぁ!」となった時は、何故か

「おお、やったな!」「おめでとう!」と

シイナや オレらも感動し、拍手を送っていた。


「お疲れさま」と、ジェイドが 朱里に

缶のアイスラテを渡し、オレらにも配り始めた。

ラテを受け取りながら「健闘されましたね」と

朱里に言った 四郎の左手のビニール袋には

小さい ぬいぐるみが 三つ入っている。

シェムハザの城に居る 菜々たちにだろう。


「本当に嬉しいー!

でも 泰河くん、ずっと笑って見てたんだけどー」

と、犬か狐の ぬいぐるみを片腕に抱く 朱里が言うので

「いや、悪い。おもしろかったからさ。

何か取ってやるよ」と 謝り

「じゃあ、あたしも これー」と 指を差す

犬狐のゲーム機に 小銭を入れる。


高島くんや 真田くんに、リョウジが

「雑誌のコーナー 見に行く?」と 聞き

四郎も「行こうか」と、ラテを飲み干した。

友達と居る時は、オレらと居る時と 少し顔つきが違う。本当に楽しいんだろうな。


朱里が漁りまくったので、取りやすいように ぬいぐるみを動かすことに 三回かかり

「泰河、ダセェ」「朱里ちゃんと変わらねーじゃん」と 散々に言われたが、四回目で 犬狐を取り、

「そろそろ戻るか」と

買った雑誌を持って戻った 四郎たちも連れて

屋上の駐車場へ向かう。


一台しかないエレベーターは 使用中だ。

三階の屋上まで 階段を昇る。

女子以外の オレらや高校生班は、どっちにしろ

階段だけどさ。

前にいるジェイドが ニナのバッグを持ってやっているので、隣にいる朱里と 目を合わせ、よし... と

頷いた。着々と いい雰囲気だ。


「買ったもの、トランクに積めるだけ積むけど」と シイナが言うので

「おう、頼むわ」と、朋樹と 一緒に ルカが

自主的に買い物のビニール袋を持っていた高校生班から 袋を受け取り、シイナが停めた車へ運ぶ。


「先に、バスに乗っとくか」と、鍵を開け

朱里と高校生を乗せていると

こっちに戻ってくる ルカが、何かに囲まれた。

水色の蝙蝠翼にシルバー角、顔には黒い血管が浮く。地獄ゲエンナの悪魔たちだ...


「ミカエル!」と喚ぶ 朋樹の声。


「四郎、頼む」と 朱里や リョウジたちを任せると

ドアを閉めたが、バスからも あんまり離れねぇ方がいいよな...  ピストルを取り出す。


「父と子と聖霊の名のもとに、汝らに告ぐ... 」


ジェイドの声。

ミカエルが立ち、地獄ゲエンナの悪魔 二人を斬首すると

駐車場中に 悪魔が顕れた。


「... 今すぐ 地の底へ戻れ!」


ミカエルが 剣の先を地面につけて 光で炙ると

悪魔たちは 水色の蝙蝠翼を広げて 空に逃れるが、

一人が ルカを抱えて翔んだ。ミカエルが追う。


「... “神よ、立ちあがって、その敵を散らし、

神を憎む者を み前から逃げ去らせてください”... 」


朋樹が飛ばす炎の式鬼鳥が 悪魔を弾き飛ばすが

数が数だ。

シイナや ニナは、まだ車に乗れていない。

ミカエルは 空中で、ルカを抱える 悪魔と睨み合い

他の悪魔たちも 三人を囲む。


「... “煙の追いやられるように 彼らを追いやり、

ろうの火の前に溶けるように 悪しき者を神の前に

滅ぼしてください”... 」


悪魔の 一人が、バスの上に降りた。

銃口を向け「死神ユダ」と喚ぶと

温度のない闇が背後に立ち、右腕を螺旋に巻く。

額を撃たれた悪魔はバスから落ち、真珠色の光に炙られ、灰になって崩れていく。


また降りる悪魔を撃ち、空中にいる悪魔も

立て続けに撃ち落とす。


朋樹が「ミカエル!」と、式鬼札を飛ばす。

目の前に止まった式鬼札を ミカエルが吹くと

式鬼札は 光を発して無数に弾け、真珠色の蝶となった。

周囲を囲む悪魔に追突すると、蝶は聖火となり

肩や胸、燃えた部分が灰になる。


「... “しかし正しい者を喜ばせ、神の前に喜び踊らせ、喜び楽しませてください”... 」


「祈りを!」という 四郎の声。

リョウジたちも 主の祈りを始めた。


突然、カッ と 青白い光が幾筋も落ち

その衝撃が 足の裏からビリビリと昇る。

たれ落ちた悪魔が 地面で炙られ 灰に崩れていく。

バスの前に 山のような人影。トールだ。


「様子を見に来た」


身体に雷を纏い、眼を青白に光らせ

また 一斉に雷を落とした。

残っている悪魔は、もう 両手で数えられる程度になっている。


ミカエルが消え、ルカを抱える悪魔の真後ろに顕れると、背に手を当てて炙る。

悪魔は、眼や 開いた口から光を発した。


「... “神にむかって歌え、そのみ名を ほめうたえ。

雲に乗られる者にむかって歌声をあげよ”... 」


トールが投げたミョルニルに突き飛ばされた 悪魔が

胸骨や背骨を砕かれ、他の悪魔に激突して落ちる。

朋樹の式鬼鳥とは別の方向へ 銃口を向けると

見えない弾が 悪魔を撃ち落とす。


「... “その名は 主、その み前に喜び踊れ”... 」


光を発する悪魔の胸に ミカエルの手が突き出て

ルカを掴む。

灰になって崩れた悪魔は、地面に着く前に解け消えた。

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