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「悪霊達は 光を嫌って、夜 行動することが多い。

今 夜の場所から、重点的に探していくこと」


白蔓ワニに向かって ミカエルが言うと

ワニの口が開き『わかったわ』と アリエルの声。

『承知』『見つけたら使いを寄越す』と

別の声もする。


ヴェッラは、地界から地獄ゲエンナへ戻った。

テレビの番組は、元の情報番組に戻っていたが

『先程の 海底火山 噴火の映像ですが... 』と

地界の黒い鎖が伸び上がり、ヴィシュヌが映った部分が流されているが、画面の中には

鎖や ヴィシュヌの姿がない。

記録に残らねぇんだよな。


ニュースキャスターには、地界の黒い鎖が見えていたが、悪霊や ヴィシュヌの姿は見えていなかったようだ。

視聴者からも 噴火の中継を流したテレビ局に

メールが殺到しているようだが

『“噴煙の中から 黒いものが出てきた”』と

悪霊も見えた人

『“噴煙の上に神様が立った”』と

ヴィシュヌも見えた人

『“噴火したようにしか見えなかった”』と

何も見えなかった人... と、様々だった。


「記憶操作って、いつ やるの?」


ジェイドが シェムハザに聞くと

ミカエルや ヴィシュヌ、白蔓ワニを介して

話し合いが始まり

『混乱は押さえねばならんが... 』

『夜間の用心を促せる』

「もうしばらく このままで」と なった。


ネットでも、“黒い線のようなものが見えた”

“噴煙の上に 十字架に磔られたような人が”... と

持ち切りだ。


四郎のスマホが鳴り

「涼二等が戻ったようです」と 言うので

「おう」「会って来いよ」と 勧めていると

「アラストールや悪霊のことについても

まだ報告がないし、少し休憩にしようか?

俺は ガルダと、ナガ・バンダに送らせた 悪霊だった霊達を見て来るよ」と

ヴィシュヌと師匠が消え、オレらも

四郎と 一緒に ぞろぞろと調理実習室へ下りた。


調理台の上には、でかいボウルが並べられ

出来上がった九龍球が 製氷器から移されていた。

「おっ、準備は出来てきてるな」と

アコが放送室へ向かう。


「フルーツは 一種類ずつ、お花は バラかパンジー

どちらか ひとつでいいと思うわ」

「本当は、グラスの方が きれいなんだけど... 」と

スプーンで ボウルから紙コップに移す作業に移っている。

けど、女子校生達が はりきってスプーンを持っていて、沙耶ちゃんや ゾイも 見ているだけだ。

朱里や シイナ、ニナも、隅のテーブルで

コーヒー休憩を取っていた。


『おやつの 九龍球クーロンきゅうの時間だ。

調理実習室でもらえる。受け取る時に

紙コップの中に注ぐのは、シロップがいいか、

ソーダがいいか、自分で準備したものにするか

指定すること。

残念ながら、スプーンや フォークはない。

ストローで刺して食うか、コップから直接いってくれ。 もう 一度 繰り返す... 』


「ソーダで」「俺も」


いち早く 紙コップを受け取った トールとロキが

女子校生を緊張させているので

四郎が「はい」と、代わりに注いでいる。


「雨宮、このまま手伝ってよ」

「高島たちも」


手が足りねぇ訳じゃ、全然ないんだよな。

四郎たちと 一緒に やりてぇのか。


「手伝ってやれよ」と、オレも紙コップを取って

ソーダを注いでもらう。

朱里の分と 二つ... と 思っていたものは

「悪いな」と、ボティスと榊に流れた。

そのまま出て行っちまうしさ。


また注いでもらっては、ミカエルと ヘルメスに。

次は「ファシエルと 沙耶夏の分も」

で、シェムハザと 放送を終えて顕れたアコ。

シイナ ニナの分まで回して、やっと 朱里と自分の分だ。


ミカエルは

「ファシエルが 何か思われたら良くないから」と

沙耶ちゃんや ヘルメスと 一緒に ここで食う と言う。シェムハザや アコも混じり、仕事の話もするようだ。


「オレらも ここかよ?」

「どうするんだよ、小娘コムスメ


朋樹とルカが、シイナに聞いている。

シイナは「うーん... 」と

ニナとジェイドが 二人になれるよう 気にして

ここにした方がいいのか、出た方がいいのか 迷っているが、朱里が「みんなで外に行こうよー」と

笑顔で言った。

その方が自然にバラけられる... と 踏んだらしい。


「おう、行こうぜ。藤棚んとこは 人 多そうだけど

グラウンドなら少ないんじゃねぇの?」


オレも朱里に乗り、二人で先に 歩き出すと

「行く?」と聞く ジェイドに、ニナが

「うん」と頷いた。


九龍球紙コップ 持って

結局 ソーダやシロップ係になった 四郎たちに

手を振り、グラウンドに出た。


「昼間、影ない ってなぁ... 」


そうなんだよな。日陰がない。忘れてたぜ。


「でも、今日は日差しが強くないし

太陽の下もいいよね」

「うん、普段 出ないもんね」


夜 仕事組だもんな。オレらもだけどさ。


校舎沿いに並んで座る。

オレの左側が ジェイドとニナなので

身体ごと 右側の朱里の方に向いた。


朋樹と ルカは、シイナを間にして

「なんか、火山噴火したの? 海で」と

仕事じみた話になっている。

「あっ、それ ちょっと、スマホのニュースで見たんだけどー... 」と言う朱里と オレも

「おう。それ 実はさ... 」と 似たような話だ。


「バラと パンジー、どっちだった?」


ジェイドの のんびりとした声に

「パンジー」と、ニナが答えている。


「僕はバラだ。おいしいのかな?」

「お花だもんね。でも かわいい。

高校生の子たちが いっぱい写真撮ってて

“あとで送りまーす”って... 」


紙コップの中の九龍球が 日差しに きらめく。

なんでもない話でも、声や空気が ふわふわしてて

背中が くすぐったいぜ。

朱里は、九龍球に 無理矢理ストローを ぶっ刺し

「見て、おだんご」と 言っている。

「フルーツより 花びらの方が刺さんないよね」と

かわいい顔をしているが、行為は これだ。


「それ もう、ストロー 使えなくない?

ゼリーとフルーツ 詰まっちゃって」


シイナが言い、詰まったストローと

オレのストローを交換するハメになった。


「こういう、何でもない時間って いいよな」


空を見上げる 朋樹が、しみじみと言う。

「おう」と、オレも見上げた。うろこ雲だ。

校舎や 外からも 明るい声が聞こえてくる。

秘禁が掛かって、もう 二日。

けど、オベニエルのことや 地獄ゲエンナのこと、キュベレのこと。すべてが 今だけ、少し 遠退く。


「兄さ... ん達」


四郎たちだ。“兄様方”って言おうとしたな。

手に 九龍球のカップを持っている。


「手伝いは いいのか?」と 聞くと

「他の男子と じゃんけんして代わってもらって」と、リョウジが言った。


「妹さんも 戻ってきてましたよ!」と

ルカにも笑顔で言っている。

竜胆ちゃんに会えて嬉しかったのだろう。


高校生のくせに気がつく 四郎たちは

「スマホで ニュース観たんですけど... 」と

横並びで座る オレらの、朋樹たちの方に寄って

しゃがみ込んだ。


「あれって、普通の火山じゃないんですか?」


「うん、まぁ... いろいろ注意は必要になるかな」

「何か買っておきたいものが あるんだったら

明るい時間がいいかも。

夜、急に要るものがあったら、警備員さんたちが

買いに行ってくれると思うけどー」


そうだ、悪霊のことがある。

“夜は なるべく出ないこと” って

敷島に言っとくかな。

オカルトサイトで拡めてもらおう。


「あの子が どこに居るのかは、まだ わからないんですか?」


真田くんだ。“あの子” は、イヴァンだろう。

「わからない って言ったのに」と

四郎が 口を挟んでいるが

「いや、ごめん。気になって」と 謝り

ストローで刺した 桃の九龍球を見せている。

朱里が「あはは」つった。


「うん、まだ なんだよな... 」


朋樹が答えると、高島くんが

「占ってもらいませんか?」と 妙なことを言う。

四郎が、“えっ?!” って顔になったので

高島くんが言っているのは、たぶん 占いをする

同級生か何かなんだろう。


「占いって、沙耶さんも やってたよ。

その “イヴァン” って子を探すために、ゾイちゃんと “神社庁 一覧” って調べて、ひとつひとつ霊視れーし? してたけど、“今のところ 視えないわ” って言ってて、見つかったら報せるつもりみたいだった」


九龍球は食べ終え、ソーダを飲んでいた

シイナが言った。

沙耶ちゃんは、黙って 手伝ってくれるんだよな...


「知らんかったぜ」

「沙耶さん、ありがたいよなぁ」


「沙耶ちゃんに視えねぇんなら

誰が視てもなぁ... 」


朋樹が言うと、高島くんが

「そうっすよね... 」と しゅんとしたので

ルカと「心配してくれたんだよなぁ」

「いろいろ考えてくれて ありがとうな」と

フォローする。気持ちは嬉しいしさ。


「占いは、俺もやるんだよ。

でも今回は、イヴァンと 一緒に居るヤツらの方が上手うわてでさ。

ロキが手品するだろ? 埴輪はにわみたいなやつ出してたらしいけど。あんな風に、普通とは違う やり方で

隠されてるんだ」と、朋樹が話すと

“朋樹が占い” というのも 意外だったようだが

朋樹でもダメなら... と 納得したようだ。

四郎やリョウジを介して、朋樹は 実家が神社、

ジェイドは神父だということも知っている。

けど、ちゃんと説明したのが 良かったのかもな。


「コンビニに行って来るけど

何か要るものある?」


ジェイドが言うので、振り向いてみると

ニナも立ち上がっている。


「二人で?」と、つい 聞いちまった。


まぁ、もし 地獄ゲエンナの悪魔が出たとしても

ジェイドが居れば 何とかなるだろうけど

「や、校内ならいいけどさぁ... 」と

ルカも心配している。


「じゃあ、みんなで行く?」


普通に言った ジェイドに、朋樹が「うん?」と

首を傾げたが

「話の邪魔になるかと思って」と 返してきた。

二人で行きたいと思って言った訳じゃないっぽいな...


「うん。でも、近くのコンビニは

いろいろ品切れしてそうだよね」と

シイナも立った。

あ! そうか、ニナは周りに気を使わせたりしたくねぇんだよな。


「グミ 買っといた方がいいしなー」


ロキは 外に出さねぇ方がいいからな。

ルカや オレが立つと

「あたしも欲しい」と 朱里も立った。


「じゃあ、ミカエルに言っておこうか?」と

朋樹が 沙耶ちゃんに電話して、伝えてもらっている。

「おれも行っていいですか?」と

リョウジは期待顔だ。


そんなに買うもんねぇだろ... と 思いながらも

「おう」と 返すと

「やった!」と真田くんが言い、高島くんが

「雑誌か何か買う? あ、紙コップ まとめて捨ててきますよ!」と 回収を始めた。


「ミカエルが

“何かあったら すぐに喚ぶこと” って」


朋樹も立って スマホをしまっていると

「じゃあ、捨ててきます! 校門に居てもらっていいですか?」と、高島くんが走って行った。

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