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「赦しの木が 急激に増えているのは
この学校の周りだけだった」
周辺を見てきた シェムハザと アコが戻った。
「今は、ラファエルの配下や、ニルマと同じ
パイモンの研究所の者が見ている」ようだが
コーヒーと エクレアを取り寄せてくれなから
シェムハザが「しかし... 」と、首を傾げた。
一つに束ねた小麦色の髪や 明るいグリーンの眼に
朝日が反射する。
影がないと、何もかもが薄っぺらく見えるが
シェムハザに限っては やっぱり美しいぜ。
「透過で 木の内部を見てみたら
“アケパロイに なりかけ” とか
“二人に融合しかけ” みたいなのもいた」
エクレアを食いながら アコが言う。
「木に取り込まれてる人の事?」と 確認する
ヴィシュヌに頷き
「明け方、この辺に 夜国の奴等が集まったことは
間違いないんだ。
アケパロイにしろ 二人一体にしろ、変形が始まったから、反応した赦しの木に取り込まれてる」と
コーヒーカップも取った。
「集まった って、四郎が居るから?」と聞く
朋樹に、ジェイドが
「でも、
ミカエルと交渉も出来ないんじゃないか?」と
言っている。
「拐わせるんなら、
けど、ミカエルや ヴィシュヌも居るし
それでなくても 預言者の四郎を拐うのは
悪魔には難しいのかもしれねーけどー」
ルカが言ったことで
そうか、悪魔が四郎を... ってのは 難しいのかもな
と 気づいた。祓っちまうもんな。
オレらは
“何故、夜国の民が 学校の近くに集まったのか”
ということを考えて話していたが、アコは
「うん。理由も気になるけど、今までのところ
赦しの木は、“変形してしまったもの” に 反応してただろ?」と 聞いた。
集まって来た事とは別の部分 が 気になっているようだ。
「変形が完了したもの という事か?」
ボティスが聞き返すと、アコは頷き
「そう。アケパロイや 二体が融合してしまったり、黒い木や根になっちまったもの。
“影人と重なり切ってから” 変形するだろ?
もし喋っても、“完全なんだ” としか言わない奴」と 説明した。
重なり切ってから ... いや、待てよ
赤い木に取り込まれていた人は、額に眼があった。重なり切ってない。
額の眼のことを言ってみると、ミカエルも
「うん。ファシエルも “額の別の眼” を見た。
重なり切る前に、赦しの木が反応するようになったのかもしれない」と 言ったが
「重なり切らなければ、変形はしないだろ?」と
ボティスが返す。
「そう! そうなんだ」と、アコが ボティスに
目一杯 頷き
「ミカエルたちが言ってる “赤い木” は
校門のすぐ近くのやつだろ?
戻る前に寄って、透過で
そいつの腰から下は、赦しの木と同化しちまってたけど、腕は 黒い木の枝だったぞ」と
力説する。 なんで、腕だけなんだ?
「なんか もう、よくわかんないんだけどー」と
頬杖をつく ルカに、「な」と 同意して
エクレアを食っていると、ロキに
「何が 解らないんだ?」と 不思議がられた。
「いいか? まず、影人が 人間に重なる」
ロキが、オレらに おさらいさせる間に
ミカエルたちは「
グラティアやユーデクスの話しをしている。
「重なり切っていなけりゃ、分離固定して
影人だけを消して、影を戻せる」
「うん」「そうだな」
ルカと 相槌を打つと
「重なり切ると、神殿から夜国へ行く奴もいる。
でも、女は黒い根になっちまうし
男でも、アケパロイや 二人一体になって
根に生気を吸われ、黒い木になる」と
一度 話を止め
「重なり切っているか いないか の 判断は
額に眼があるかどうか だ」と言った。
「額の眼って、オレには見えねーからさぁ」と
ルカが エクレアに手を伸ばしているが
「眼に 光が反射すりゃ分かるだろ?
重なり切ってりゃ 青銀に光るからな」と 返されている。
「シイナやニナの店で、白い木に取り込まれてる
女 二人は、融合型なんだろ?」
「おう... 」
やっぱり よく分からんまま答えると
「なんで、根になってねぇのに
朋樹の 赦しの蔓が反応したんだ?」と 聞く。
それも わからねぇよ。とりあえず
「融合したから じゃねぇの?」と 返すと
「いや。俺の推測では 違う。
“融合した後に、やっぱり根になった” んじゃねぇのか?」だ。
「はあ?」と ルカだ。オレも
「根には なってねぇよ。逆さまには なってたけど
ネイルアートした爪の手を見てるからな」と
返したが、ロキは
「融合した女 二人が、根になりながら沈んだところを、蔓が巻いて取り込んだ。
“女は 根になると完成” だからな」と
推測上の話を続ける。
「でも 女達を取り込んだ木は
地下じゃなく、地上にあったんだろ?
その店のバックルームに。
赦しの木が、女達を 地上に引き戻して
根になりかけた身体も... 」と、オレとルカを見る。
「戻しちまった ってこと?」
ルカが言うと、“それだ” と言う風に
人差し指で指した。
「けど、赦しの木とも同化してるんだろ?」と
言ってみると、「そうなんだよな... 」と
オレらから視線を外して エクレアを取っている。
「でも、いい線 いってねぇか?
お前等が外で見た 赤い木に取り込まれてた男も
“男の完成形の黒い木” に なりかけてた... とする。
で、男の変形に反応した 赦しの赤い木が
黒い木になる男を包み込んで、木から 人間の身体を戻した。だから、腕は まだ黒い木の枝のまま。
額の眼は、その男と重なった影人が 分離してきた... ってことじゃねぇのか?」
「おお!」 すげぇ! ルカも
「えっ? じゃあ、重なり切って変異しても
赦しの木が戻せんの?」と、興奮気味だが
「でも、赦しの木と 同化してんのがな... 」と
ロキが自分で 問題点に戻った。
「完璧に赦しの木と同化しちまうのか どうかは
観察を続けんと解らんが... 」と
トールが話に加わり
「夜国の民が、学校の周りに集まって来て
黒い木に変形したのなら、燃やそうと思ったのかもな」とか言う。マジかよ...
「学校を? 俺等をか?」と、聞く ロキに
「いや、俺等が脱出することは容易い。が
これだけ避難している人間が居て 火災になったら
混乱はするだろう」と 返している。
そうだよな... 学校の周囲が火災になった場合、
グラウンドに 人を避難させることになるのか?
「宗教施設を燃やそうとしてる とか?」
ルカが 嫌なことに気付いた。
「だが、他の施設の周辺は... 」と
トールが言ったが、学校の周辺が 赦しの木に囲まれたのは、ついさっきの事だ。
黒い木が内側から燃えたら、赦しの木は
火ごと 取り込めるのか?
赦しの木も 一緒に燃えちまうんじゃねぇの... ?
「グラティアや ユーデクス、
学校周辺に夜国の民が集まって来た事。
連絡事項が増えたね」と、ヴィシュヌが
空いたコーヒーカップを「おかわり、いい?」と
シェムハザに頼み、朋樹に顔を向けた。
「あっ、そうか。
ジャタが、まとめて伝達 出来るんだった」
水色の葉が付いた白い蔓を伸ばした 朋樹が
「ジャタ、連絡して欲しい事があるんだけど」と
言うと、白蔓の先が纏まっていき、ワニの形を作った。
白蔓ワニの口が開き『うん、何?』と
ジャタの声がする。
「まず、
ミカエルが連絡事項を伝え始めた。
これで、赦しの木の枝がある場所...
オリュンポス、エデンや 奈落、地界、高天原や
根の国、
アフラ=マズターや アンラ=マンユにも伝達 出来るって、便利だよな。助かるぜ。
『ミカエルの声を、そのまま伝えるわね』
今 ミカエルが話している声が、ジャタを介して
赦しの枝がある場所 全部に届くようだ。
六層の支配者
奈落に入った事を話した ミカエルは
「もう 一つは、明け方 学校が 夜国の民たちに囲まれた事だ。木に変形した恐れがあり、火災を起こそうとした... とも考えられる」と 話している。
『... その “学校” とは、宗教施設の事か?』
おっ? 白蔓ワニから、男の声だ。
「オージンだ」と トールが言っているが
眉 しかめなくても いいんじゃねぇか?
「向こうからも話せる って、すげーよなー」と
ルカが、最後のエクレアを皿から取ったが
「そうだな」と答える ロキに
ごく自然に 流れるように奪われた。
「そう。たくさんの人間が避難してる」
ミカエルが、オーディンに答えると
『施設を狙ったのか?』
『いや、ミカエル等狙いじゃないのか?』と
また別の声だ。
「わからないけど、施設周辺の見回りも徹底して欲しい」
『ほんの数時間前に、一斉に飛び降りをさせ
今度は施設を狙ったか... 』
眠気を誘う声... 皇帝じゃねぇか。
ロキが真顔になった。
『飛び降りに関しては
リリーが 気分を害している』
“リリと言った奴は死ぬ”... つってたもんな。
まぁ、気分良くは ねぇだろうな。
特に誰も 何も言わなかったが
『何か ないのかしら?』という
女の静かな声がした。リリトだ。やべぇ...
ボティスが オレらを見回すので
「いや、あれは ないっすよね!」
「まったく失礼だ」
「重なりを防止してくれてるのに」
「そ! 女神サマだよなぁ」と
思い付くままに ヨイショする。
『飛び降りた子達には、アバドンが言わせたの?』
また リリトの声だ。
「だろうな。
アバドンが
ボティスが答えると
『是非、話がしたいわ』と 言い出した。
「リリト。もう出て来るなよ?
ゾフィエルや ウリエルも
アバドンは、天が... 」
ミカエルが念を押しているが
『愛人のひとりである私が、あんな風に言われて
黙っている気なの?』と 誰かに言っている。
トールが ヴィシュヌを見たが
ヴィシュヌは、バチッとした眼を丸くし
“まさか” というように 首を横に振った。
『... リリト』
渋い じいさんの声だ。誰だ?
ボティスと シェムハザが
「もちろん」「ゼウス」と 小声で言う。
会ったこともないのに納得がいった。
浮気も有名だもんな。
『飛び降りの報告には、私も 胸が痛んだ。
“リリと言った、
重なる事はない” と、人間等に 強く啓示を出している』
『
オーディンも じゃねぇか。
『
『呪術師や精霊を使って... 』と
次々に 様々な声が続いた。 リリト すげぇ。
『アバドンを許すつもり?』
『まさか』『万死に値する』
『君の汚名は 必ず
『
『では、諸君の活躍を期待している』と
皇帝が締めかけたが、ミカエルが
「いや、地上の宗教施設周辺の警戒だろ?
あと、赦しの木の内部を観察」と 戻し、
『おお、夜国の者等が集中したと』
『火災など起こされては... 』と、話し合いになっているが、後ろ側のドアがノックされた。
「はい。誰?」と、ヴィシュヌが応えると
遠慮がちにドアが開き、四郎が顔を覗かせる。
後ろから「忙しくあろうか?」と、榊の声。
「あぁ、二人と ミカエルの妻には 話しておかないと。今、ジャタを通して、あっちこっちと話してるんだけど」
ヴィシュヌが 手招きして 二人を呼ぶ。
視聴覚室に入った四郎は
「何かあったのでしょうか... ?
只ならぬ気配は いたしましたが、喚ばれませんでしたので、異教神の御客かと... 」と
話を聞く態勢だが、榊は
「
“化粧と着替えを”... と 言うておってのう。
如何する?」と聞いた。
「あー、風呂は入りてーよなぁ。まだ暑いし」
「けど、状況的にな... 」
「また
「離れておる事に 御両親が心配されており
“一度 帰るよう” と、言われておる者もおります。
御両親も体育館に避難されておる御家庭もあるのですが」
あぁ、それも そうかもな...
飛び降りのニュースもあって、訳わからん植物も
増えてたらな...
うーん... と 迷ったヴィシュヌは
「少し待ってもらえる?」と
話し合い中のミカエルに相談に行く。
「沙耶夏や朱里も、一度 帰りたいようよ。
女子であるしの。いろいろ あろ。
竜胆も、友等と講堂におったが... 」
「まぁ、沙耶ちゃんたちには
ゾイが ついてれば 大丈夫だろうけどよ。
もし帰るなら、竜胆ちゃんたちにも 他の人たちにも 悪魔がつくことになるよな。
ルカは狙われてて、動けねぇし」
榊に答えた 朋樹に、四郎が
「姉様方も起きておられましたが... 」と
さり気なく言っている。
ジェイドの方は 見ねぇんだけどさ。
白蔓ワニと ミカエルたちの方も
『こちらは、まだ深夜だが』という場所もあるが
『... “家族の様子を見に行く” と、施設を出た未成年者等がいる という報が入った』
『“仕事は休みではない” という者も』
『施設の食糧などの補充にも... 』といった風で
『危険なのは 主に夜間だろう? 昼の間は... 』
無理に閉じ込めておくことは出来ない となったようだ。
「よし、決まったな」と、アコが席を立ち
「放送室に行って来る」と 視聴覚室を出た。
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