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河川敷のカフェに着くと、ギッチギチの車内から

「閉所地獄」「半分 女のコなら まだしも... 」と

ぼやきながら出た。


「文句ばっかり言うなって」


グミの袋を開けながら、ロキも出て来たが

「それ持ってたら、カフェに入れねぇぜ」と

朋樹に言われて、コンビニビニール袋にしまっている。


あれから、深夜

『月夜見と ハサエルに話して来た』と

教会に 師匠が戻ると

『ブラフマーや シヴァ、インドラと

話し合って来るよ。何かあったら喚んで。

地上の様子も見て回って

たぶん また夜、勝手に来るけど』と

ヴィシュヌと師匠が 天界へ帰った。

アスラは まだ、蛇人ナーガを片付けているようだ。


四郎の部屋を覗くと、四郎は ベッドの端に追いやられ、ロキが 真ん中に寝た上に、四郎の腹に脚を載せていた。ドアを そっと閉じる。


ヘルメスや トール、シェムハザも

『じゃ、また明日ぁ!』『昼だな?』と

それぞれ、オリュンポス山や アースガルズ、城へ戻り、ミカエルは ゾイを誘って ヴァナヘイムへ

癒やしに向かった。


ボティスが寝室で寝るので、ジェイドはオレらと

二階の客間だ。いつも通り。


『ロキさぁ... 』

『まぁ、不安だろうな』とか

『影人、かなりヤバいよな』

『重なった人に、印があるといいけどね』と

話しながら寝て、朝は 何とか起き

ジェイドが、ベーコンエッグや ソーセージを焼き

ルカが バイクで、サンドイッチを買いに走る。

『四郎!』『頑張って来いよ!』と

久々に制服姿の四郎を見送った。


ここから、ロキも客間に来て

『まだ 全然食える』と 言ったが

『うん、後でな』と 二度寝すると

すぐに シャワーの時間だ。


オレらが 一階に降りると、もうシャワーを済ませていた ボティスと、ミカエルも居て

ゾイが 朝飯に、おにぎりと味噌汁、出汁巻き卵や

鶏と根菜の煮物を持って来てくれていた。


『カフェに行く って聞いたから、控え目に作って来たんだけど... 』


『おお... 』『ありがとうなぁ... 』と 礼を言って

順にシャワーの間に食う。しみじみ美味い。

鮭のおにぎりを 独り占めしようとする ロキには

『キウイのヨーグルトケーキも作ったよ』と

ゾイが、ホールのケーキを渡した。

ボティスや オレらは、小さいカップのやつ。

『良かったな』と言う ミカエルは、ひとり

エッグタルト食ってたけどさ。


玄関のドアが開き、普通に トールが入って来た。

ウートガルズの ロキの洞窟から ジャタの島、

バニヤンツリーのゲートを通って、地下教会 だもんな。ルカが『ご近所さん』つってるし。


『あっ、ご飯は?』と 聞くゾイに

『食って来た』と 答えているが

『四郎には、また作るから... 』と

キウイのカップを渡す。トールは 一口だったが

『美味い』と 微笑った。

ゾイ、女らしい男になったよな... と 思う。


コーヒーまで淹れてくれると

『じゃあ、お店に戻るね』と言う ゾイに

『うん、また夜 行く』と、ミカエルが笑顔だ。


『そろそろ行くか』


コーヒーをのんで、ボティスが ソファーを立つ。


バス、どう乗る?』


朋樹が聞くと、ミカエルが

『俺とロキとトールは、移動術で... 』と 言ったが

『イヤだ』と ロキが言う。

『俺は、ジェイドと バスに乗る』


『俺とミカエルが 移動術で... 』と 言ったトールを

睨んでるしさ。

『バイク?』と、オレを見る ルカには

『みんなで行けばいいだろ?』だ。

バラけるのも イヤなようだ。ワガママだよな...


『トールが 助手席、ルカが 後部のコーナー。

それで、後ろのテーブルに 一人座れば

乗れないこともないけど... 』


無茶を言った ジェイドに

『なんで、オレの席 決まってんだよ?』と

ルカが 正当な抗議をするが、

『帰りは、四郎も増えるだろ?』

『四郎は 自転車がある。持って移動術 も

出来るようになったけど』と 無茶で行くらしい。


『なら、帰りは 四郎と自転車に乗る。

行きは 俺が露になる。俺も前』


『お前、ジェイドか四郎が居れば

いいんじゃないのか?』

『帰り、バラけてるじゃねぇか』


『うるさい。もう決まったんだ。

あのバスに、トールとも乗りたいから。

グミを買ってから行く』


ボティスやオレに 威張って言うと

靴の棚から出した スニーカーを、さっさと履き

『ジェイド、待たせるなよ!』と また威張る。

けど、何故か まかり通るんだよな。

昨日より 調子が戻って、良かったしさ。


コンビニに寄ると、グミ三袋と マシュマロを買って、河川敷に着いたところだ。


「シェムハザ、ヘルメス」と、ボティスが喚ぶと

二人が、バスの近くに立った。


「あれ? 家で喚ぶと思ったのに」


ヘルメスが言うが

「いや、グミの子がさ... 」と、説明していると

ロキが唸る。


「四郎は?」と 聞くシェムハザに、ルカが

「もう来るんじゃねーの?」と 答えながら

竜胆ちゃんに、スマホでメッセージを入れようとしていると、ちょうど電話が かかってきた。


「... おう、わかったー」と通話を終えた ルカが

「近くのバス停で降りたから、もう着く ってー」と 言っていると、四郎が

「只今 戻りました」と、手ぶらで顕れた。


「おう、四郎」

「自転車は?」


「竜胆等とは、河川敷で待ち合わせることになりましたので、家に置いて参ったのです」


帰り、どうするんだよ... の 視線が

ロキに集中したが

「うん。どうせ、そのまま仕事になるかもしれないしな」と、知らん顔だ。


「あっ、あれじゃないのか?」


ジェイドが指す 歩道に、四郎と同じ制服の子が

三人。男の子ひとりに、竜胆ちゃんと 友達のミサキちゃん。


夏用の制服は、半袖のワイシャツに

ベージュのサマーベスト。

男子は、チャコールグレーのスラックスで

女子は、チャコールグレーにチェックのスカート。紺のソックスに スリッポンのような黒い靴。

黒の通学用カバンが、今日は軽そうに見える。


「あー、かなり 引いてんな... 」


朋樹とルカが 迎えに行く。

この人数だし、半分 外国人だし

ボティスやトールやロキが居るしな...


けど 近くまで来ると、シェムハザに やられる。

「よく来てくれた。昨日の話を聞きたい」と

輝かれ、「はい... 」「何でも... 」と

竜胆ちゃんや ミサキちゃんの方が答えた。


「席は 座れるのか?」


十四人だもんな...

ルカが 店に聞きに行ったが、平日とはいえ

昼時だったので、さすがに 二つのテーブルに分かれる。

奥のテーブルに、高校生班と、朋樹とルカ。

シェムハザ、ミカエル、ボティス。

残りが、その手前にあるテーブルだ。


ピザやら チキンのグリルやら、ぼこぼこ注文して

オレは、単に飯を食うだけだが

シェムハザが 指を鳴らし、向こうのテーブルの

会話が聞こえるように してくれた。


「ケイタだな?」と、シェムハザに聞かれた男の子が、「はい」と 答えると

「緊張するな。昨日 お前が見たもの... 影人の調査をしている。対処にも最善を尽くす」と 微笑み、

ミカエルやボティスも 頷いているので

「あっ、ありがとうございます... 」と

固まっちまってる。


テーブルにサラダが届くと、オレとジェイドが

取り分ける。

「誰だよ? サラダ頼んだの」

「向こうのテーブルだったかな?」と なったが

向こうにも届いているので、シェムハザ辺りの

注文だろう。

向こうでは、朋樹とルカが 取り分けているので

竜胆ちゃんが “えー... ” って顔で 驚いていた。


「ワイン欲しい」

「ニガヨモギ入ったやつ ある?」


ジェイドが、店の人に聞いて 持ってきてもらう。

グリルチキンがくると、一口 食ったトールが

「あと三つ 同じやつ」と 追加し

ロキが「いや、あと六つ」と 言い直す。


「昨日さ、影人のことで キリキリしてんのに

ゼウスが 人間の娘と浮気して、ヘラにバレちゃってさぁ... 」


「相変わらずなんだな」

「娘は 大丈夫だったのか?」


「アレス達が、必死にヘラを宥めてた。

俺、知らない兄弟も いっぱい居るんだろーねー」


オレらのテーブルが うるさい間にも

「ケイタの恋人に、影人が重なった時の状況だが... 」と 質問が続き、朋樹も霊視している。


「はい。一瞬、彼女が 消えてしまったように

見えました。錯覚だと思うんですけど...

それで、彼女なのに、知らない子に見えたんです」


シェムハザの背中越し、優しそうな顔立ちの

ケイタくんは、心細そうだが

こうして 大人に話を聞いてもらっていることで

ホッとしたようにも見える。


「お前は、その黒い奴が見えたんだな?」


ボティスが確認すると

「あっ、はい!」と、シャキっと答えた。

見える人も居る ってことだ。


ケイタくんが名前を喚んでも、最初 彼女は

振り返らず、後は 聞いた通り。


「周囲に居た者の中で、他にも

恋人に重なった影人が見えていた者 は いたか?」


ケイタくんは、思い出そうと考えているが

周囲を見るどころではなかったようで

「分からないです... すみません」と 答えた。


「今日、恋人に連絡した?」と ミカエルが聞くと

「いえ、まだ... 」と、俯いちまった。

「昨日の夜も、ずっと考えてしまってて...

彼女とは学校も違うし、少し時間を置いて

落ち着こうかと... 」


今日は朝から学校だったし、相手は別人みたいになっちまってるし、取りづらかったんだろうな。


「恋人の方を見てみたいのだが、連絡出来るか?」


シェムハザに聞かれて、ケイタくんは

「はい、メッセージを入れてみます」と

制服の ケツポケットから、スマホを取り出した。


テーブルには ピザとグリルチキンがきて

チキンは もう、取皿に置かずに

皿ごと トールやロキの前に並べる。


「そういえば 昨日、都市伝説サイトに

投稿したんだろ?」


ジェイドに言われ

「おう、影人のことな」と 返すと

「他にも 投稿されてるんじゃないか?」と

スマホを出している。

オレも出して、サイトを開いてみた。


「夢の女リリは、もう有名だな... 」


ヘルメスが ジェイドのスマホを覗き

「“黒い人”」

「この、“闇人間” もじゃないのか?」と

トールと ロキが、両側から オレのスマホを覗く。

闇人間か... 惜しいな。

いやいや。結構、見た人が居る ってことだ。


投稿記事は、種類ごとに まとめて掲載され

投稿記事のコメント欄では、考察もされている。

“ドッペルゲンガーとか?” “宇宙人だ!”

“悪霊” “異次元人?”...


「ん?」


“影、無いですよね?”


気付いた人がいる。

「ジェイド。“黒い人” のコメント、5つ目」と

見てもらうと、先に ヘルメスが

「あっ、気付いてるね」と 言ったが

「なんで他の人は、このコメントに 反応してないんだ?」と、ジェイドが 眉をしかめた。


「自分で気付くまで、“影” っていう概念も

忘れてるからじゃないのか?」

「気付いた者が増えれば、話題になるだろうが

パニックになりそうだな」


それも困るよな...

催眠で パニックにならないようにしてもらうか

影が戻るまで、忘れといてもらうか になるだろうけどさ。


ケイタくんのスマホが鳴った。


「返事、きました...

会えるかどうか 聞いてみたんですけど

“今 学校から帰って来たから、

もう少し後でなら大丈夫”... だそうです」


ミサキちゃんが、何かに引っ掛かったような顔をした。何だ?

シェムハザが「普段と変わりは?」と ケイタくんに聞いてるけど、文字だと分かりづれぇよな。


「見たところは...

絵文字も いつもと同じようなやつに見えます」


ケイタくんが、メッセージの やり取りをし

彼女の方が、河川敷まで来てくれることになった。


朋樹が、ケイタくんや 竜胆ちゃんたちに

「影が無いのって、気付いてた?」と 聞くと

三人共、「え?... 」「カゲ?」と ポカンとし

「... あっ!」「やだ!」「何で?!」と

椅子の音を鳴らして 驚いている。


「気付いてなかった ということだな」と

シェムハザが指を鳴らして 落ち着かせ

「影人、と 最初に言った時は?」と 聞く。


「いえ... あの人型のことが浮かんだだけです」

「緊張してたし」「全然、何とも... 」


学友がくゆ... クラスの みんなも」


言い直したな、四郎。

「気付いてないんです。涼二には 話したので

二人で 観察したんですけど」と、普通の敬語だ。


「影人が見えること と、影のことに気付かない

ということは、無関係ってことか... 」


「珈琲。甘い物も欲しい」と

ミカエルが言い出しているので、シェムハザが

「お前たちも 何か選べ」と、竜胆ちゃんたちに

メニューを渡す。

「俺も欲しい」って ヘルメスも言うし

こっちでも メニュー開いて

「白玉?」「抹茶?」と 聞かれるジェイドが

「ロントンより弾力があって... 」と 説明を始めた。


「すみませーん、追加... 」


ルカが カウンターに振り返って片手を上げて

店の人を呼び、顔つきを変えて

「出た」と、オレらの背後を指す。


オレらのテーブルと、カウンターの間に

影人が立っていた。












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