22


「ちゃんと連れて帰って」


ミカエルが、アフガンハウンドに言い

『公園を出れば、催眠は解ける』と

シェムハザが 女の人の隣で、指を鳴らした。


女の人は、恐怖心を誤魔化され

まだ ぼんやりとしているが、アフガンハウンドに

引っ張られるように、遊歩道を進み出した。


「さっきの人型が また出ないかどうか

確かめた方がいいんじゃないか?」と

トールが言ったので

『見送って来よう』と、目眩ましのままのシェムハザが、アフガンハウンドと女の人に同行する。

ミカエルも、「ルカ 連れて来る」と 消えた。


「何で 消えたのかな?」

「明るくないのに」


ヘルメスや ヴィシュヌが話し出したが

ジョギングの人が通りづらそうにしていたので

「ベンチとか遊具がある 広い場所に行かないっすか?」と 提案する。


「あっ、そうだ。ボティスにも伝えて来るよ」と

ヘルメスも消えたが、とりあえず 公園の広い場所に向かって歩く。


「夕方、人型を見た時の状況は 分からんが

コンビニの前と公園ここでは、人型と同じ形の人間の近くに出ていたな」


トールだ。


「クレープ店の前では、近くに 人型みたいな形の

人間も居たの?」


ヴィシュヌに聞かれるけど、オレ あんまり

周り見てなかったんだよな...

「ロキやミカエルの方が、周りは見てたかも」と

答えたけど、すぐ近くを通り掛かった女の子たちに笑われて、ルカが手を振った覚えはある。


けど、クレープ屋の近くに出た人型は

肩につくかどうか... って くらいの髪に見えた。

通り掛かった子たちは、髪が長かった。


ベンチや遊具がある場所が 見えて来ると

ミカエルとルカがいるのも見えた。


「クレープ屋の前のさ... 」 と 聞いてみると

ルカは「えー、どうだっけ?」で

ミカエルは「居なかった」と 答えた。


「その時に通り掛かったのは、お前等くらいの歳のイシュ二人、髪の長いイシャーと 髪を結んだイシャー

短い髪のイシャーイシュ、長い髪のイシャーイシュ。四組だった。周囲にも 人型くらいの髪の女は居なかった」


すげぇ... ルカも「見てたんだ」と感心している。


「だったら、夕方は 居ない場所に出たのか... 」


トールが確認し

「目的... これは、自分の形の人間だが。

目的それが おらぬであったから、消えた と?」と

師匠が言う。


「居ない場所に出る っていうのも、無意味な気がするけどね。探してるのかな?」


ヴィシュヌが言ったことを想像すると

少しゾッとした。

自分の形の人間を探してて、いつか見つけたら

重なって 乗っ取るのか... ?


「夜の方が、探しやすいとか?」


ルカ意見だ。


皆、うーん... と なっているが

「“光と闇” に分けて、人型を 闇と見ると

暗い方が探しやすい ってことにはなるけど」と

首を傾げながらも ミカエルが言った。


「うん。じゃあ それも、可能性として 考慮して

話しを続けよう。

“明るいから ズレた場所に出現してしまった” として、コンビニ前と 公園ここでの違い。

一つは、性別が違う。

コンビニ前は 男、公園ここでは 女。

でも 女の人型も、重なろうとはしてた」


話しながら、ヴィシュヌが ブランコに座ると

“俺も” って顔で、ミカエルも座る。

羨ましそうなトールは、ブランコの前後にある

低い鉄柵に座った。


「コンビニ前の男は 一人だった。

男と人型は、“買い物した ビニール袋を持っていた” ってところは違った。

でも、人型は “自分の形” と認識して 重なった

... ってことは、“持ち物を持っている形” は

関係しない。

さっきの女の人は、アフガンハウンドに触れた。

その時に、人型が消えた」


トールの向こう側に腰掛けながら、朋樹が言うと

「犬... 生物は関係する ってこと?」と

ルカも ブランコに座る。


朋樹、観察してるよな... ヴィシュヌや ミカエルも

「うん」「あるかもな」って 頷いてるしさ。


オレは、隣に立っていた 師匠と眼が合ったが

あと 一席しかないブランコを 師匠に譲り

トールの隣に腰掛けた。


「生物に触れたことで、“人間の形” から

“人間と犬の形” に 変わったから... という事か?」


トールが聞くと

「今のところ、コンビニの男との違いは」と

朋樹が答える。


「そうだね。性別は関係ないのかもしれない。

どちらの人型も出て、重なろうとするから。

“形が変わった” ということが 重ならなかった理由なら、あの人型は、人間を

“外側の形で判断してる” ってこと... かな?

自分の “型” とか、“影” みたいに」


ヴィシュヌの隣で、師匠が

「しかし、反物質の如きでも... 」と 言って

急に バクっと鳴った。


「“真逆のもので構成された自分を探す”?」


ヴィシュヌが 聞き返し、ミカエルの眼が オレに向いた。


人間の構成元素... 水素や酸素、窒素、塩素、

マグネシウムや ナトリウム、カルシウム、

カリウム、炭素、リン、硫黄 などの

陽子と中性子、電子と

“真逆の 反陽子と反中性子、陽電子を持つ” のが

あの黒い人型... ってことだ。反自分。


犬に触れる... 生物と繋がった形になると

“人間だけ” だったのが、“人間と犬” になって

“構成元素も増えた” と見做されて 重ならない... という推測だろう。


「けど、ビニール袋とかも物質じゃん」


ルカが言うが

「反物質の “ような”。イメージしやすくしてるんだ」と、朋樹が返す。


「うん。そもそも、人間には 触れられる実体がある。人型には 無い。

人型は、“自分が ピッタリ収まれる型を探してる” のかもね。

重なってしまうと、別人になったように見えた。

“反物質” じゃなく、“反霊体” かもしれない。

さっきの女は、犬に触れたことで

“女と犬の霊体の形” に なったのかも」


それで、黒い人型の反霊体が

元々の霊体を乗っ取る のか?... と 考えていると

トールが

「“物質”... 肉体 は 一つしかないが

“物質ではないもの”... 霊体と 反霊体で

霊体は 二つ ということだな?」と言った。


「肉体の中の “元々の霊体” と “黒い人型の霊体” が

対消滅を起こし、新しい人物になる?」と

続けられ、つい「えっ?!」と 声が出る。


「乗っ取りとかじゃなくて、新しい人物?」


ルカも 眼を見開いた。


「“物質と反物質” に 合わせて

“霊体と反霊体” を 考えるならな」


トールは、“まぁ、言ってみただけ” という顔だが

「その可能性も あるね... 」と

ヴィシュヌが ため息をついた。


「乗っ取りなら、元の霊体が どこかに居るはず。

居なければ、対消滅して 対生成... のように

新しい霊体 に なったのかも」


「でも、肉体の中身が

“黒い人型の霊体に変わった” のか

“新しい霊体に変わった” のか

どうやって調べるんだよ?」


ミカエルが聞いているのは

“乗っ取りなのか、生成なのか”... の判断 ってことだろう。


「うん。黒い人型に触れられたら

霊体のことは 判断出来るんだろうけどね」


黒い人型の霊体のことが分かれば

次に、重なった肉体のなかの 霊体に触れることで

黒い人型の霊体が入っているのか

新しく変化した霊体が入っているのか が 分かる。


「これは、泰河が触れてみるしかないかな」


自分の膝に肘を着いた ヴィシュヌが

簡単に言った。


「でももし 消えたら、何も解らないんじゃないすか?」


朋樹が聞くと

「勿論、術なんかも試すことになるだろうけど

ミカエルとヘルメス、ボティスや俺も、触れられないことは 分かったからね。次の段階。

アース神族のトールと 巨人のロキ、ルシファーや

悪魔たち、日本神の 月夜見や須佐之男、

ヴァン神族、他の神々や 精霊、霊獣たちにも

試してもらうことになるし。

泰河の手では どうか... ってこと。

消えてしまったら、“泰河の手では消える” と

解るから、その方がいい と思って。

ルカも 精霊で試してみて。

試せる程、あの黒い人型が出れば だけど」と

答えている。


「それと、人間。四郎から かな。

朋樹の式鬼や、聖水や聖油。魔術、天使助力。

まぁ、試せるもの全部だね。

重ならせないための対処方は、“手を取る”。

これで試してみよう」


手を取る... 相手が 男でも女でも、気まずいことに

なりそうだよな...


「それは、催眠が出来る悪魔たちに やってもらえないすか?」


朋樹が言うと、ヴィシュヌは

「悪魔の霊体も、さっきの犬の霊体のように

黒い人型に認識されるならね」と 肩を竦めた。


「そうだ、天使は無理だぜ?

俺が無理だったし」と、ミカエルも言う。


「影が無くなった事とは 無関係かもしれんが

現世うつしよの影のみが無くなった」


師匠も言うと

「そうか... 地上に属していないと

人型には 認識されないかも ってことか... 」と

朋樹が ため息をつく。


「じゃあさぁ、霊獣なら大丈夫ってこと?」


「いや、地上にいるけど 神々に類するよ。

例えば 榊たちは、神隠しで隠れられるだろう?

“存在するのか しないのか” という存在ではなく

人間や動物のように、地上の誰の目から見ても

はっきりと存在する というのが、“生物” だ」


ヴィシュヌが説明してくれて

ミカエルが「“霊” 獣」と、分けて言うと

ルカは「あ、そっかぁ」と 納得した。


「だが、お前達に 黒い人型が見えるのなら

他にも 見える人間は いるだろう。

協力要請すればいい」


トールが言うけど、難しいよな...

コンビニ前には 俺等が居たから、誰も見ようとしてなくて、人型に気付かなかったのかもしれねぇけど

公園ここでの さっきの女の人は 見えてなさそうだったし、クレープ屋の前の人型にも、誰も気付いてなさそうだった。

見える人がいるとしても、見えねぇ人の方が多いんじゃねぇか? って 気もする。


「うむ、簡単に拡められよう」と

師匠も トールに同意して

「ネットとかで、“人格を乗っ取られる!” とか

噂 流して

“黒い人型を見掛けたら、手を繋ごう” とか?」と

ルカも言っているけどさ。


「たっだいまぁ」


ヘルメスだ。ボティスと タクシーで戻って来た。


「繁華街にも出て!」と 話しながら

ブランコの近くに来る。


「えっ、本当に?」

「じゃあ こうしてる間にも、かなり出てるんじゃないか?」


「人型は 男だったが、連れの女と手を繋ぐと

人型が消えた」


「やっぱり?」

「犬の散歩の人は、犬に触れても消えてさ... 」


目的の人間が、他の人間や動物と繋がれば

人型は消えるようだ。


「今、“乗っ取り” か “消滅と生成” か... って

話もしてて... 」


ヴィシュヌが説明している間に、シェムハザも戻った。


「自宅まで、あの人型が出ることは なかった。

アフガンハウンドに、なるべく傍に居るよう

話してきたが」


シェムハザも含めて ヴィシュヌが説明している間に、「ファシエルと沙耶夏に話してくる」と

ミカエルが消える。


「お前達も、ジェイドや四郎、他 幾らかでも

話せる者に 話しておけ」


トールに言われて、ジェイドらと

朱里やヒスイ、シイナに、メッセージを入れておく。


「人型が出たら、目的の周囲にいる人間に

“触れろ” と、守護天使や悪魔が 勧めることは出来る」


「うん、そうしてもらおうかな」


「俺、オリュンポスと 各神界に行って来るよ。

世界樹にも行って来るからさ。

一時間くらいで喚んで」


ヘルメスが消えると

「浅黄に、幽世の扉を開けさせるか。

月に行けば、ハサエルとやらにも話せよう」と

師匠も ヴィシュヌに断って消える。

「城の者等にも 伝えて来よう。

アコにも話しておく」と、シェムハザも消えた。


「とりあえず、“シャドウピープルを見た” って

投稿しとくかな。

“形が似てる人間と重なった” って」


朋樹が、都市伝説サイトに 投稿を始めると

「オレ、“友達のシャドウピープルが出た” って

入れよー。

“ビビって くっついたら消えた” って」と

ルカが言うので、オレは

「“シャドウピープルが重なった友達が

別人になった” に するかな」と、投稿しておく。


このサイトだけで 話が拡まるとは限らないが

朱里たちにも 噂を拡めるように頼んで、

四郎たち高校生の拡散力にも頼ることにした。

“夢の女” ほどは 拡まらねぇかもしれねぇけど。


「けどさ... 」

スマホに文字を打ちながら

「“黒い人型” って、言葉にしたら ちょっと長いし

“シャドウピープル” とも 違うよな」と

言ってみると、「またか」「名前かよ」と

朋樹とルカに 呆れられる。


「うん、何かある?」


意外に、ヴィシュヌが乗ってくれた。


「靄人 とか、闇人 は なんか違うし

影人かげびと” は?」


「おまえ... 」

「まんま、シャドウピープルじゃん」


「いいね。シンプルで 分かりやすい。

影が無いことに気付いた人間も 居なさそうだし

それで気付くかもしれない」


「“シャドウピープル” で 投稿しちまったぜ」

「オレもー」と、二人は言っているが、

ブランコの ヴィシュヌのとこまで行って

握手する。

オレは、“影人(シャドウピープル)が”... って

書き直して 投稿しよう。拡まるかな?

ミカエルが座っていた場所に 座ったボティスは

「天狗といい... 」と、オレのネーミングセンスを

諦めてたけどさ。


「これから どうする? もう少し見て回るか?」


トールが言っているが、腹が鳴っている。


「イゲル」と喚んだ ボティスが

指笛で喚んだ守護天使にも、影人の話をして

世界中に散ってもらうと

「ロキが、ジェイド等と居るんだろ?」と

トールに言う。そうなんだよな...


ヴィシュヌも「気になるね」と 言うので

ジェイドの家に 向かうことにした。

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