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狐榊を片腕に抱くボティスと 月夜見の後ろについて、赤い空の下、ヴィーグリーズ平原を歩く。
魔神姿のハティが、ずっと遠くで 錬金の息を吹き降ろし、師匠のゴールドの炎が上がる。
トールの でかい背中が見えた。
ストロベリーブロンドのウエーブの髪の毛先が
師匠の炎で輝く。
その周囲を半円に囲む
背後では、シェムハザとマリゼラが 倒れた兵士たちの 救護に回っていて、四郎が手伝いに向かった。
「琉地、お前も来い。
予言に コヨーテは出て来ない」
ロキが琉地を連れて、トールの隣に並ぶ。
「ルカ。泰河も、トールの近くに纏っておけ」と
ボティスに言われて、オレらも トールとロキの近くへ向かう。
オレらとシェムハザたちの背後には 助力円。
「すげぇ数だよな... 」
朋樹が、
黒妖精たちの周囲には、藍色のマントに 青いサーコートのヴァナヘイムの兵士たちが居るんだけど
相手は、天狗の時の比じゃない。
6メートル級の巨人も居れば、ロキみたいな巨人も居る。巨人たちだけでも 何百人って単位で居るのに、何千もの
「鱗の色、さ... 」
黒や燻銀に加えて、白っぽいグレーの鱗の蛇人たちが 大量に居る。
何かが交わったんだろうけど...
「ルカ、大丈夫なのか?」
ミョルニルを握るトールが、オレに 赤毛眉の下のブラウンの眼を向けて聞いた。
「うん。刺された後に、焼かれて 死にかけたけどさぁ。トールのルーン文字は?」
「まだ消えていない」と 答えたトールは
ビッ... バチッ と 雷が貯まって、光の塊にしか見えなくなったミョルニルを トールが投げると、
一際 筋骨隆々の巨人の胸に当たり、パン!と
耳を
口 開けて、息 忘れてる間に
脚から上が黒焦げになった 巨人が倒れて、
ミョルニルが トールの手に戻る。
雷の巻き添えになった
ミロンたち ヴァナヘイムの兵士が、剣で刺した
蛇人の心臓を破裂させ、
胸の前にレイピアの柄を持ち、顔の前に 細く鋭いい刃を立てている
蛇人の鱗の間々から 霧のような血煙を吹き出させ、空気を赤く染める。
血煙に塗れる蛇人たちから ぽろぽろと鱗が剥がれ落ち、赤く ぬらりとした尾が溶け崩れていく。
腰から下を失った蛇人たちは、血肉に塗れた 自分の鱗の中に、胸や顔を横たえた。
背骨伝いに 震えが這い上がるんだぜ...
マーナガルムが、巨人に襲い掛かり
馬乗りになって 顔を囓る。
狼たちは ニ頭か三頭 一組で、蛇人を 一人を襲い
喰いちぎりながら倒してる。
「これは、暫し 見学で良かろうの」と
月夜見は 四郎やシェムハザたちの方へ寄り
「魔女等を探すか」と 白蔓を伸ばし出した。
右手側の蛇人たちの中心から、真珠色の光が
円状に拡がっていき、蛇人たちの首を落としていく。残った身体も 次々と灰になって 骨も崩れると
その中心に居た ミカエルが、歩を進める。
目の前で 灰になった蛇人の残骸を見た巨人たちが
剣を片手に歩いて来るミカエルから 後退りをしながら、お互いを掴んで 盾にしようと前に出す。
ロキくらいの体型のヤツらだ。
後退しながら揉めている巨人の 一人の首が
ガクンと後ろに折れた。
折れた首を 宙に残して、身体の方が 地に倒れる。
浮いている首の髪を掴んでいるのは、ベリアルの手だった。
「どうやって... ?」と、ジェイドが 呟くと
「首の骨を折り、術で 皮膚と肉を切り離す」って
ボティスが 簡単に説明した。そう見えたけどさぁ...
ベリアルは、突然 巨人たちの背後に出現して
これを繰り返し やっているようで、
ベリアルに気付いた巨人たちの中には
一目散に逃げ出すヤツもいれば、
近寄って来るミカエルや ベリアルに対する 恐怖心を振り払うように 雄叫びを上げ、ヤケになって突進するヤツもいる。
ベリアルの術の圏内に入ると、当然 術で やられちまって、パシュッ と 血を吹き出させられた首を
とっさに 両手で囲って押さえてる。
歩きながら、右や左へ 身体をぐらつかせ出した。
仲間の首を掴んでいるベリアルの元へ 辿り着く前に、巨人たちは 自分から
草の上に 膝を着いていく。
切り離された首の肉は、断面から 徐々に溶かされるようで、手の下から肉塊が
手を離せば 頭の重みで首が傾いで 頚椎が折れる。
巨人たちの前に、仲間の首を投げ落とすと
その場から ベリアルが消えた。ど悪魔だし...
左手側の蛇人たちが、干乾びて 倒れていく。
ベルゼがステッキで 地面を打つと、
血肉を失った遺体から、腹を赤くした透明蜻蛉が飛び立って、別の蛇人たちの 耳や鼻、口から
体内へ侵入する。
近くに居る 巨人の背後に、ベリアルが立った。
「おっ... 」って 声出たし。オレが ゾッとしたんだぜ。
血が滴るほど刃が濡れた ハルパーを片手に
空中から着地した ヘルメスが
「白っぽい尾の蛇人は、回復術が使えるけど
ガルダの炎で弱らせて、術を使う間なく 一気にやってしまえば問題無いね。数以外は だけど。
地下宮殿の水より 全然マシ。
問題は 巨人なんだよね。タフだし、効かない術も多い。ベルゼの虫も侵入出来ないし、
ハティの息も 吹き返すんだからさ。
一人ひとり潰していくしかない」って
相手側の説明をしてくれた。
朋樹の式鬼は まだしも、オレは役に立たねーってことは分かったけどー。
「じゃ、また行って来るけど
何かあったら 呼んで」と、ヘルメスは 空中へ戻り
黒妖精や兵士たちを越えて、6メートル級の巨人の首に、後ろからハルパーの刃を引っ掛けた。
左手で 巨人の後頭部を固定すると、ハルパーの柄を引いて 首を刈る。
ゴールドに輝く空を見上げると、神鳥の師匠が
風を切って飛び、背に立つ ヴィシュヌが
チャクラムを投げて 巨人の頭を粉砕し
ミカエルも、盾で 巨人の攻撃を防ぎながら
一人ひとり斬首していく。
「とりあえず出来るのは、式鬼での 手伝いか...
榊、黒炎」
「ふむ」
ジェイドが聖油で十字を書いた 朋樹の式鬼札の影に、狐榊が 黒炎を放射すると
朋樹の指に挟んだ式鬼札の方に、黒炎の影が纏い
闇が染み、聖油の 十字だけを白く残したまま
黒い式鬼札になった。
黒に白十字の式鬼札は、朋樹の息で 黒い蝶となって、ゆわりと 羽ばたいていく。
黒蝶は 巨人の肩に止まると、黒い炎に変化する。
炎の中に 白い十字を光らせると、ゴキリ と
音を立てて 肩の骨を砕いた。
「すげー... 」「巨人にも通用するんだな」
ま、オレと泰河は 見てるだけなんだけどさぁ。
「良し。次」
腕組みした ボティスが言うと
朋樹も 榊も「おう」「ふむ」って 頷いて
ジェイドが 聖油で十字を書く。
また 影の式鬼札に、狐榊が黒炎を放射した。
朋樹が息で飛ばした式鬼札は、黒い炎の尾長鳥となって、黒妖精や兵士たちを越えると
いきなり スピードを増して飛ぶ。
巨人の額に追突すると、黒い炎に変化し、白十字を光らせ、巨人の頭半分を消失させて消えた。
「怖ぇ... 」って 朋樹が言ってるし...
「大丈夫か?」
トールが ロキに聞いてる。
ロキは、元々 巨人族だもんな。
「何が? 全然。
一緒に 巨人討伐にも行ってたじゃないか」
トールを見上げて答えてるけど
「ビューレイストが居る」って
トールも、ロキに眼をやる。
ビューレイストって、ロキの兄弟じゃなかったっけ... ? 同じように気付いた泰河と 眼が合った。
兄弟には 確か もう一人、ヘルブリンティって人がいたと思うけど、神話では 特に出て来ない。
「俺は もう... 」と言いかけた ロキの言葉を
「アース神族でも巨人族でもない。俺の友だ」と
トールが遮る。
トールは、ロキが不安にならねーように
同じことでも、何度でも言ってくれる っぽい。
けど、本心で言ってるのも分かる。
その度にロキが信じて、安堵してるのも。
「だが、ビューレイストは 血を分けた兄弟だ」
トールが眼を向けたのは、平原の左手側。
ベリアルは また移動してるけど、ベルゼとヘルメスが居る。
血肉を失って 倒れる側から、別の蛇人たちが押し寄せて、ベルゼの虫を 何とか自分たちの数で凌いで、ベルゼを襲おうとしてる。
ヘルメスは、でかい巨人の首を刈ってるけど
ビューレイストは、ロキみたいな体格なんじゃねーのかな?
ヘルメスの近くには、そういう巨人たちも居るけど、どの巨人が ビューレイストなのかは分からねーし...
ロキは、「あいつが ここに居る、っていう時点で
自ら
隣に座る 琉地の頭を撫でた。
「... あの人じゃねぇの?」
小声で言った泰河が、人間サイズの巨人の 一人を
視線と 胸の前で差す指先で示した。
ヘルメスの影になっていた その巨人は
ブロンドの長い髪を 後ろで括ってて
ロキを見ていたように 見えたけど、視線が合わないように 顔を背けて、他の巨人の背後に移動してる。
「俺を獲る気 なのかもな。
多分、トールと同じで、俺もイケニエだし」
ロキは、ビューレイストらしき巨人から
琉地に 視線を落とした。
でかい巨人の 一人が、狼 三頭に纏わり付かれながら、ヴァナヘイムの兵士の頭を掴んで、潰しちまった。
「ディアナ!」と 兵士の名を呼ぶ声が響く。
「離れろ!」
トールが投げたミョルニルが、巨人の胸に当たり
雷が落ちる。
ミョルニルが戻る時に、別の巨人が 二人
怒号を上げながら 走り込んできた。
盾で防ごうとする兵士たちを弾き飛ばし、
剣を持つ
止まらず、トールに腕を伸ばす。
朋樹が吹いた式鬼の黒鳥が、巨人 一人の胸で黒い炎になって、白十字を光らせた。
ロキが、胸に大穴が空いた巨人の足を蹴り払って
後ろに倒したけど、まだ起き上がってくる。
もう 一人が伸ばしてきた腕を、ミョルニルで 横に払うと、巨人に向かってミョルニルを投げ上げる。
ミョルニルは、巨人の首に当たって頚椎を折り
その威力で 一度深く俯いた巨人の顔が、ミョルニルが戻る時に ガクンと右から後ろへ回る。
よた... よた... と 三歩後退して、巨人は倒れた。
胸に穴が空いた巨人の脚を、
巨人の身体が崩れ落ちた。
二人の兵士が、頭を潰された兵士を抱えて
シェムハザや四郎の元に運んで来る。
術で頭部の整形をして、形は元に戻ってるけど
遺体だということが分かる。
「魂が離れたものには、もう... 」
シェムハザが残念そうに言って
「火で送るか?」と 聞くと
「いや... 船で、
ヘルが目覚めたら」と、マリゼラと兵士たちが
胸に方手を当て、瞼を伏せて祈り
兵士の遺体の両手に 剣の柄を握らせ、刃を右肩に載せた。
「... “キリストも、あなたがたを神に近づけようとして、自らは義なるかたであるのに、不義なる人々のために、ひとたび罪のゆえに死なれた”... 」
四郎が、ペトロの手紙第一 を読む。
3章18節から。
「... “ただし、肉においては 殺されたが、
霊においては 生かされたのである。
こうして、彼は 獄に捕われている霊どものところに下って行き、宣べ伝えることをされた”... 」
イエスが磔刑になって、復活するまでの三日間に
煉獄にいる 罪人の魂を解放した時のことだ。
信徒でない人たちの魂も含まれる。
「... “これらの霊というのは、むかしノアの箱舟が造られていた間、神が寛容をもって待っておられたのに従わなかった者どものことである。
その箱舟に乗り込み、水を経て救われたのは、
わずかに八名だけであった。
この水はバプテスマを象徴するものであって、
今や あなたがたをも救うのである”... 」
ノアの時代、堕落した人類は 聖父に洗われた。
その魂が救われ、今 生きるオレらにも
愛への道が示される。
「... “このように、キリストは肉において苦しまれたのであるから、あなたがたも同じ覚悟で
心の武装をしなさい。
肉において苦しんだ人は、それによって
罪から のがれたのである”... 」
祈りを終えた四郎に、マリゼラや兵士たちが
穏やかな顔で 礼を言い
「もう 必要はない。安かれ」と、遺体の手から
剣を外すと、鞘に収めて 隣に置いた。
安かれ... 安らかであれ とか 平安を願う言葉。
聖書にもある。
「歌だ... 」
泰河が言って、狐榊も耳を立てる。
さざめく声が聞こえてきた。
「あれは?」
ジェイドが、赤い空を 指 差した。
雲が 一箇所集まっていき、光の柱が降りるように
白い霧の柱が降りる。
「
マリゼラが、霧の柱を見上げる。
柱から溢れ落ちるように、白髪に ルビー色の眼の
エルフたちが、白いマントとサーコートに
白金の肩当てや脛当て、ガントレットを着け、
白い盾やレイピアを持って 地に降りる。
霧の柱からは、無数の輝く糸のようなものが
煙のように靡き降り、ミカエルに纏わり出した。
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