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『のっ!!』
狐榊が、ボティスの頭の上まで登ろうとして
『榊、前が見えんだろ?』って 止められてる。
『なんで 登るんだ?』って 不思議そうなロキに、
ヘルメスが『犬は普通、木登りしないから
いつも こうやって逃げてる とか?』って返してる。狐も しねーんだろーけどー。
榊は、ボティスの顔を 腹で覆って剥がれねーし
『怖いのか?』と、引き取ったトールの 肩に乗せられた。
トールのストロベリーブロンドの頭に 両前足を掛けると、クリーム色の毛を逆立てて 縮こって
『おおぉ... 』って ぶるぶる震えてる。
『
洞窟の端の鉄杭に、鎖で繋がれてんだけど
誰もいねーのに 牙剥いて 唸りまくって、洞窟に出たり入ったりしてる。見るからにヤバい。
たまに ヨダレ垂らしてんのは
『
『牙、はみ出てんな... 』
『けど、神隠しで気配や匂いも隠れてるしさ... 』
自信無さげに 泰河が言ってるけど、
シェムハザんとこの
シアンは、あんなに でかくねーけどさぁ...
『
説明するトールに
『その場合、どうなんの?』って 聞いたら
『ガルムに喰われる』って 答え。だよなぁ...
『番犬が 洞窟を出た時に、入る他 無かろうの』
師匠が普通に歩いてくけど、琉地が 神隠しから
出ちまった。 あいつさぁ...
琉地を発見したガルムは、唸りながら近付いていく。琉地の三倍くらい 大きさあるし。
『どうする気だ?』
『懐柔作戦じゃね?』 『... えっ?』
琉地は 跳んで、ガルムの首に喰らいついた。
でけーのに、『キャン』とか 鳴いたガルムは
低く伏せて、琉地が
『えぇー... 』
『強いんじゃん... 』
『琉地』
何故か ハティが呼んでる。普通、オレじゃね?
けど 琉地は、ガルムから 牙を外した。
『おっ、正気に戻った。幻覚まで解けてるぞ』
琉地の前に、身を低くしたガルムを見る トールが言って
『精霊だもんな』って ミカエルも言ってるけど
そんなこと出来るんだ。知らなかったぜー。
琉地が、ガルムの前に居る間に
そそくさと
何か話してるっぽいし、琉地の頭に 手を置いて
読んでみたら、軸まで黒い茸が浮かんだ。
いきなり現れた
ガルムは、鼻 ピスピス鳴らして “了解” してるし。
足元 見えねーって程、暗くなかった。
男でも、三人くらいまでは 横並びで歩けるし。
結構 広い。
『死者たちは、しばらく ヘルの
転生するまで
『ヘルの
“空腹” の皿と “飢え” のフォークで、食事を取って
“病床” っていうベッドで 寝起きする』
軽い地獄じゃね? “冥界” だけどさぁ...
『暗いね』って、ヴィシュヌが言っちまってるし
トールから、ボティスに渡った榊は
『しかし、責苦などは無い様であるの』って
言いながら、ふーむ... って 考えてる。
幽世の神の
『しかし、洞窟は 産道に通じようの』って
言ってるけどさぁ。
『まぁ、しばらくの儀式のようなものだな』
『
洞窟を抜けると、やっぱり薄暗い空気。
『冥界に、朝と夜は無いんだ。夕と昼だけ』
分かんねーけどぉ。
小道を挟んだ 左右の平原には、冥界と同じような
葉のない
草の少ない 乾いた地面に、巨石が転がってる... んだけど、『あれが、
小道の先を トールが指差す。
ヘルの
淡い青緑の柱と屋根に、ベージュの外壁の大館。
館に近付くにつれ、平原の地面には 草が覆い出していて、葉がついている木が増えていく。
館の前庭には 赤や黄色の花の色も見えるし、
周囲の木は、青々とした葉を繁らせてる。
『再生へ向かう道 って感じするよな』
だんだん明るくなって、自然の色に彩られていく
ヘルの
『平原に居る者等は?』
小道の左右にある 暗い平原を見回して
ボティスが聞くと
『第一 の 休息だ』って、ロキが答えた。
葉のない木の下や 巨石の下に、立ったり座ったりしている死者たちは、ヘルの館へ行くのを
『
そこまで行ってみよう』
トールが歩き出すと、隣にいるロキと
洞窟の入口から合流した琉地も 前を歩く。
巨石の下で 膝を抱える死者を見て
『罪を焼かれたりはしないけど、孤独もつらいな』って、ミカエルが言う。
『ヘルの元で、食事を取って 寝起きすることで
それまでの生の 余分なものを削ぎ落とすんだ』
緑が増えていく 平原を見ながら
『ほう。仏道にある者と近いな』って
師匠が言った。
空腹と飢えを知る食事や、病床で
生の苦痛や罪、未練、死の間際の身体の不自由さ とかも、削ぎ落としていくらしい。
『この辺りで立ち止まってる死者たちは
もう、躊躇いだけ みたいだね』
ジェイドが言うように、草が覆う地面の上で
木に寄りかかって 枝の葉を見ていたり、
巨石に座っている死者たちは
館を指差して、他の死者と話すことも出来てる。死には慣れても、館に行くのは まだ不安なんだろーな...
館、でか... 10階くらいまであって、幅も広いし。
外壁には、
手入れが行き届いた前庭には、花壇の花を見ていたり、開いた両開きの扉の前で、館に入ろうか... と、最後の思い切りが着くのを待ってる風の
死者たちがいた。
『巫女の墓に行く前に、
館の向こう側へ向かって、ロキが 歩いて行く。
ベージュの外壁の隣の 青葉の木々の間を縫って
館の裏へ出た。
『おお、素晴らしい! はらいそ です!』
四郎が感嘆の声を出すけど、オレも 感動に呆けちまう。木々に咲き乱れる花や果実、一面の花々。
勿忘草やルピナスの水色や青、アザミの紫、ヒースのピンク、ポピーの赤やオレンジ、黄色や白。
空には、淡く柔らかい青やピンクの レヴォントゥレットの光。色に溢れてる。
館の裏にも、表と同じような両開きの扉があって
館を出た死者たちは、白く輝いていて
花畑を見て、笑顔になった。
花畑の中に座って、他の死者と話していたり
花で何かを作ったり、木陰で昼寝をしたり
安らかに 自由に過ごしてる。
『うん。楽園や
ミカエルも、安心した顔になってる。
『第二の休息。好きなだけ居ていい。
後からくる家族を待つことも出来る』
花々の中にも、小道は伸びていて
緩やかな上り坂になっていた。
『上にあるレヴォントゥレットは、光ではなく
この小道を進むと、
上り坂の先を差して、トールが説明する。
『
新しい生命となり、
すげー... もう なんか、上手く言えねーけど
“魂のサイクル” とか、どっかで聞くような
安っぽい形容も したくねーし...
『なんと... 美しくあるのう... 』
花々の小道の先に 長い鼻の先を向けて言う榊に
『なんかさ、ちゃんと送らねぇとだよな』って
泰河が、レヴォントゥレットの雲を見上げてて
かなり反省するし。
仕事で、憑依霊を出して送る時
説得せずに、最初から 筆で印を出して
泰河に “じゃあ、頼む” って、消してもらうこともあった。“とりあえず 出しゃあいい” みたいに。
その場合、憑依霊が どこに行ったのかは 分からない。 罪悪感で、胸
念や 呪詛祓いならいいけど、もう 送るのは
朋樹やジェイド、四郎や榊に頼もうと思う。
朋樹たちなら 信仰があるから、幽世や月、
冥府への道を示せるんだし。
『だけど、
死者達が
遠くまで歩いて、レヴォントゥレットの雲に包まれた死者を見ながら、ロキが言ったけど
それを不満に思ってる とかではない言い方だった。
『世界の枠が外れるのかな?』って
光の雲を纏って 漂っていく死者を見送ってる。
『さぁな... 』
トールが呟いて返すと、寂しくなってきちまったし。オレらは とても、何も言えねーんだけど
ヘルメスが、二人に
『こっち側の森の中にある家は、誰の家?』と
普通の雰囲気で聞いた。
『本当だ』『何軒か 家があるね』
ミカエルやヴィシュヌも、花畑の左右に拡がる
森を見て言ってる。
確かにある。木々の間に、家っていうか
館や城ってくらいの規模のやつも建ってるし。
『死んだ神々の家だ』
... じゃ、ロキの奸計で死んで
甦れなかった バルドルの家も ってこと?
ヘルメスも気付いて、“やっちまった” みたいになったけど、ベルゼが
『穏やかに暮らす場が用意されているとは。
奈落の牢とは違うようだ』って 微笑んで
ミカエルが『消滅したきゃ 量ってやるぜ?』と
物騒な返しで、バルドルから話を逸らしてる。
『この場所が見れて良かった』
シェムハザが、タンブラーのコーヒーを
配りながら 穏やかに言う。
ベリアルは『
頷いてから
『
話し合いを持った方がいい』と 提案すると、
ロキが『うん。墓は、向こう側だ』と
裏に出て来た時とは逆の方向に 歩き出した。
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