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「“ロキ”?」「ロキだってよ!」
「本当なのか?!」
ロキを連れて 砂浜に戻ると、最初は
『あっ、トール!』『メルクリウス!』と
水着で海から上って来た 泰河たちが
『えっ、誰?!』『どこかの神サマ?』って
なってたけど、ヘルメスが
『ロキだよ』って 紹介した。
『へ?』『洞窟に繋がれてるんじゃ... 』
『そうだ。鎖が解けたらしい。
下界の川の向こうが、洞窟に繫がっている』
トールが言うと、泰河たちの顔は
じわじわ明るくなっていって
「マジか... 」「トリックスターだ... 」って
現在、興奮中。うん、分かる。
北欧神話で、困った人なんだけど
魅力も すげー あるんだよなぁ。
当のロキは
「“シェムハザ”? 噂には聞いてたけど... 」って
しばらく シェミー 鑑賞した後に
「子供がいる」と、四郎に注目して
ミカエルに「天の預言者」って 紹介されてる。
榊も「狐だ」って 紹介されると
人化け解いて、やっぱり 喜ばれて抱っこされた。
狐好き 多いんだぜ。
自分の紹介を期待する 泰河たちの番になると
ロキは「待って... 」と、ひとりひとりに変身して
「“タイガ” だ。面白いものが憑いてるな?
“トモキ”。神の加護がある。何かの術使いだ。
“ジェイド”。羊飼いだな? 天空精霊を使役出来るのか?」って、楽しませてくれた。
変身した姿で 本人と握手するから
見てる方も おもしれーしぃ。
「シェミー、俺とトールの仕事着は?
ロキのもいるけど... それか、今日は水着?」
ケリュケイオンを砂に挿して言った ヘルメスに
「用意してある。ロキも、朋樹と同じくらいだな?」って シェムハザが答えてるけど
「先に 洞窟の細工だろ?」と、ボティスが言う。
「あっ、そうだね。でも、下手に術を使うと
オージンが 何か勘付きそうじゃないか?」
「地界の術にも詳しいからな... 」
ヘルメスとトールが言ってて、ロキが不安そうだけど、ボティスが「朋樹」って 呼ぶ。
たぶん、
「洞窟が見たいんだ。いい?」
「オレも!」ってなって、ぞろぞろと森へ入る。
「人数、多すぎないか?」
「全員だもんな」
「でも、オーディンの印があるぜ?」
「ですが、鴉が おりましたら... 」って 言ってたら
榊が、神隠ししてくれた。
「えっ? この術、何?」
「天使からも見えないのか?」
ヘルメスやトールの方が 驚いてるんだぜ。
榊が「ふふ」って 得意げだし。
白い寝台に腹這いでいる白ワニ メノイの隣を通り過ぎて、下界の川に足を浸ける。
いや、メノイは 腹這いが正しい姿勢なんだけど
ちゃんと 寝台みてくれてて、えらいよなぁ。
川底がゴールドに輝く 下界の川は
一番 深いとこで、オレらの膝くらい。
硬そうに見える川底は、ふかふかだった。
よく見ると、砂金に埋まる石も 水晶。
奈落の森も派手だし、気付いてなかったぜー。
「浅いよな」
「もっと川幅があって 深い部分もあるんだろうけど、ここには、小川部分が移動したんだろうね」
幅3メートルくらいの川を渡ると、下界の森。
奈落の森とは違って、若草色の柔らかい草が
地面を埋めてる。
森で、芝生敷いたみたいな草の生え方って
めずらしいよなぁ。
「フルーツの色が違うだけで、異界だよな」
泰河が、白いオレンジを取ろうとするのを
「猛毒だったりしたら どうするんだよ?」って
朋樹が止める。
青いブドウに手を伸ばしてた榊も
「ほっ?」って 手ぇ引っ込めてるし。
川から、4本か5本の木を 奥に過ぎると
少し 左に曲がって、また3本の木を過ぎる。
「おお、鰐達と蛇達です!」
ハントゥ・ラウトと ハントゥ・リンバだ。
どっちがワニで、どっちがヘビなのかは
いまいち 分かんねーし
元々は どんな姿なのかも分からねーけどさぁ。
ワニたちは地面の草の上にいて、ヘビたちは 木の枝の上にいる。
一度 榊が、ボティスだけ 神隠しを解くと
地面のワニたちが 左右に割れた。
割れたワニたちの先には、樹皮がボコボコした大木があって、この木だけ 実がなってない。
大木の割に 枝に付いてる葉は小さい。
小指の先くらいの大きさで、色は、黄色や黄緑、緑、深緑。
若葉の色が薄い訳ではなく、一つの枝にバラバラの色の葉が付いてる。
「何の木?」って、ミカエルに聞いてみたけど
「さぁ。下界の木なんだろ? でも
返ってきた。
この木の幹に、ウロがある。
高さは腰の位置から地面まで。
幅は、横向きなら オレらでも入れるくらい。
「これが、洞窟と繋がってるんだ」って 言う
ロキと、
「ジャタ」
ロキが呼ぶと、木のウロから
水色の大蛇の姿で、ジャタが這い出て来た。
「ロキ。ミカエルとは話したの?」
「うん、トールともだ」
明るい顔で言うロキに、ジャタはヘビのまま
「良かったわ」って、赤い眼を細めてる。
「それで、洞窟を出ておけるように
トモキが 術で細工してくれるって言うんだ」
「シギュンは どうするの?」
首を傾げて聞くジャタに
「シギュンも出せる」と、ボティスが答えて
「おう。二人の
朋樹が
「ヒトガタっていうのは、その紙か?」と
眉をひそめるロキに
「そう。まず、気配を移す」と、形代を渡して
「胸に付けて」と 付けてもらってる。
「より似せて、長持ちさせるために
少し 血を付けた方がいいんだけど... 」
朋樹が言うと、ロキは 自分の指を噛んで
形代に血を付けた。
戻ってきた形代を 手のひらに載せた朋樹が
ふっ と、息を吹くと
手のひらを離れた形代は、ロキそのものになった。
「すごい! 完璧だ!」
ロキも言ってるけど、ヘルメスもトールも
「何あれ?!」「傀儡とは違うな?」って
また驚いてて、何故かオレらが 得意な気分になったし。
洞窟には、まずロキ本人が入って
「シギュン、鴉は?」と 確認して
木のウロから シギュンを出した。
シギュンは、白い肌にブラウンの髪。
ブラウンの眼。大人しそうな美人だった。
白いブラウスに黒いチュニックとスカート。
その声も小さい。
「シギュン、聞いてくれ! 洞窟を出れる!
トールとも話したんだ!
俺を “嫌ってはない” って!」
木のウロから出たロキが、
「まぁ、本当なの?!」と 両手を合わせてる
シギュンに、ロキが 朋樹を紹介して
「トモキの言う通りにするんだ」と
自分がしたように、形代を胸に付けさせて
指先を切らせて 血を付けさせた。
自分の姿になった
人形の頬に触れて「私だわ... 」って 感心してる。
「私は いつも、滴るヘビの毒を 器に受けるの。
それを、洞窟の外へ捨てに行くのよ」
「大丈夫。完璧に熟すよ。
何か攻撃を受けるか、オレが解除するまで
人形は、ロキとシギュンのままだ」と 説明して
シギュンの
「だけど、ナリの鎖は... 」
不安そうにシギュンが言うと、シェムハザが
鉄の鎖を取り寄せて、榊が神隠しの外に出した。
手に取ったボティスが
「これを、ロキの
ジャタが「私が巻いてくるわ」と、鎖を咥える。
「蛇って、金気が苦手なのにな」って
泰河が言ってるけど、榊の
「しかし、ジャタは宇宙樹なのであろ?」って
言葉で「そうか、そうだよな」って 落ち着いた。
正体がヘビじゃない ってことらしいんだぜ。
人形のロキに 鎖を巻いてきた ジャタが
「ついでに、毒の蛇と話してきたわ」と
特に抑揚もなく言ったけど、木のウロから覗いてた ロキが「“脅した” じゃないのか... ?」って
聞いてるし。ジャタは
『黙っていないと、あなたを飲むわ。
私の子たちが 四六時中、あなたを見てるの』って
言ったらしかった。怖いんだけどー。
どっちにしろ 毒蛇は、ナリの鎖で 口を閉じさせられるけどさぁ。
ジャタが、ワニたちと ヘビたちに
「順番に見張りをしてちょうだいね。
変わった事があったら、私と 皆に報告するのよ」と 命じると、木の枝の上にいたヘビが
するすると 木を伝って、洞窟の中へ入って行った。
榊が、神隠しの中に 全員を入れると
「皆 居たのね」と、ジャタが 人の姿になった。
四郎 いるから、最初からドレスで助かるし。
シギュンは、わらわら人が居ることに驚いて
反射的に ロキの後ろに隠れたけど
「大丈夫だよ」って言われて、顔を出してる。
申し訳なさそうに トールを見上げて
「トール... 」と 呼ぶと、トールは
「久しぶりだ」って、手を差し出して 握手した。
シギュンは ホッとしたっぽい。
「あなた、ミカエル?」
「うん。シギュン、よろしくな」
ミカエルは、すぐ分かるみたいなんだよなぁ。
ボティスやヘルメス、シェムハザとも握手すると
オレらも紹介してもらって、握手する。
「洞窟 見てみてもいい?」
ジェイドが聞くと、ロキは
「うん。でも、覗くだけにしておいた方がいいかも」って、まだ 警戒気味に言った。
「確かに。大人数だしな」
木のウロから 順に洞窟を覗かせてもらうことにしたけど、そう広くない洞窟は 殺風景だった。
岩々の壁。硬そうな土の地面。
右側に入口があるらしく、光が薄く差してるけど
早朝か夕方の明るさ。
見た目は 地上の洞窟と変わらない。
穴の左隣には、鉄の鎖で大岩に巻かれた
その上に、壁と天井に張り付いている 毒蛇の頭があって、口を巻かれた毒蛇は、切られた毒腺から
ボタボタと 毒を落としてて
ロキを繋いだ鎖... 今は、赤茶の鱗の毒蛇の口に巻かれてる鎖は、子供のひとり、ナリの腸。
ひどい罰だよなぁ。
神話を読んでいると、たまに驚かされることがある。残酷で。
ただ、その行為を楽しんではないから
人間程じゃねーのかもだけど。
「ここ、ユグドラシルなんだよな... 」
洞窟を覗く泰河が 感慨深そうに言って
「そうじゃん!」
「ちょっと、もう 一回代わってくれよ」って
代わるがわる見る。
まぁ、普通の洞窟なんだけどさぁ。
「
ミカエルが聞くと
「
「えっ?」「地上?」
「そうだ。なかなか立ち入れる場所じゃないが。
えー... 地上なのかぁ...
けど、考えりゃ そうだよなぁ。
ロキは、アースガルズから逃げたんだし。
「この近くに、
ジェイドが言うのを聞いて
「おお... 」「そうだよな!」って
また 浮かれてきちまったけど。
「一先ずは、
ヴィシュヌ等が到着するかもしれん」
「川の向こうへ戻るか」
ジャタも連れて 川を渡る前に、ロキの隣にいる
シギュンが、洞窟に繋がる木のウロを振り向いて
「本当に出られたわ... 」と、胸を押さえた。
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