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「何かあったのか?

ニナは、診た限り 異常はない。

“俺は、アコの知り合いの医者だ” と言って

術に掛かっていた間の気分などを聞いていた。

アコとシイナも、ニナの観察をしているが... 」


パイモンが ソファーに座ると

「まだ、エトナ山 封強化の途中だ」って

ハティも顕れた。


「推測上の話だが、ジェイド」


ボティスに呼ばれて、ジェイドが テラスから

ソファーに移動する。

横並びで全員座れるけど、榊が 人化けを解いて

テーブル潜って テラスに出た。


シェムハザお取り寄せの ワイン係は、朋樹がやってるし、ドリッパーやら耐熱ガラスポット洗って

オレも テラスに戻る。


「匿っている恐れ?」

「確かに、最終戦争ラグナロクの備えは 続けているだろうが... 」


ジェイドの推測に、ハティたちが 眉をしかめてるけど、オレと泰河の間にいる狐榊が、小声で

「... ニナは、無事であるようじゃのう」って

自分の長い鼻の先を 前足で ちょっと掻いた。

嬉しそうだし。


「おう。身体的には、影響なさそうだしな」

「帰りも、シイナと 一緒だしさぁ」


榊は「ふむ」って、すげー 数の星が見える空に

長い鼻 向けて、眼を細めた。

上に向けてる 三つ尾も機嫌良い。


ジェイドの方 うかがったら

「僕が アジ=ダハーカだったら... って 推測だし

オーディンに限られる訳じゃないけど。

キュベレと アジ=ダハーカを 匿えるくらいの力があって、オーディンみたいに 何か目的がある神も調べた方が いいかもしれない」って

普段通りだけど

さっきより また、緊張が解けたように見えた。


「確かに、我が軍に捜索させているが

今のところ、地上に気配は無い」


テーブルのワイングラスを取ったハティが

ため息ついてる。


「だが 奈落でも、森に居たキュベレに気付かなかった。俺だけでなく、ミカエルや皇帝でも だ」


ボティスは もう結構、捜索 諦め調子だし。

「出てくるのを待つしかないかもな」って

コーヒー飲んでる。


「オージンは 何食わぬ顔で、ルシファーと俺と

同じテーブルに着いてた」


ムッとしてるけど、美人顔のせいで 拗ねた顔にも見える パイモンが

「こういう奴、日本で 何て言うんだった?

キツネ... ?」って 謎の質問をした。

朋樹が「タヌキ親父」って 答えると

パイモンは、“それ” って スッキリした顔になって

朋樹を指差してる。あったな、そういうコトバ。

実際に聞いたことはねーし

桃や真白ましらの前じゃ 言えねーけどさぁ。

動物って、こういうのに使われること多いよなー。“メギツネ” とか “ドロボウネコ” とか。


「でも もし、オージンが 二人を匿っていて

ルシファーが、キュベレのことを知っているのかどうかを確認しに来たのだ... とする。

それならオージンは、“地界とは 争う気はない”

って事だろう?」


「そうだろうね。ルシファーが知っていた場合は

キュベレの引き渡しの交渉を するつもりだったかも。“最終戦争ラグナロクが終わるまで” とか、“フェンリルを殺害するまで” だとか」


ワイン 一口飲んで言った パイモンに

ジェイドが頷くけど

「そうでないとしても、地上の入れ替わりという異変を起こした者を 探している事は確かだ。

それ程の力がある者なら 巫女の予言を覆せる... と 考えるだろう」って、シェムハザが言うし。


「天狗やアバドンの事も知られん方がいいな」

歓喜仏ヤブユムについても」


全体で、ぐったりなんだぜ。


ジャタ島に集まった時、トールは

ユグドラシルに 入れ替わりの界がある とは

言ってなかった。

たぶん、あっても知らねーんだろうなぁ。

オーディンが隠したりとかしてて。 ... ん?


「けどさぁ」って 口出してみる。


「ヴァナヘイムとか 灼熱厶スッペルヘイムに 入れ替わりの場所があったとしたら、オーディンにも分からねーんじゃね? アース神族は 入れねーんじゃねーの?

オーディンの鴉も ムリだろ?」


そしたら「椅子フリズスキャールヴは?」って

泰河に言われるし。世界を見る椅子かぁ...


「でも、全てが見える訳じゃないだろうしね。

天や、地界でも ルシファーやベルゼ、

司令クラスの悪魔の城は 無理だろうし」


「ヴァナヘイムや灼熱ムスッペルスヘイムが 見えたところで

オーディンは 入れんだろうがな。

また、極寒ニヴルヘイム冥界ニヴルヘルも 難しいだろう」


「む... ?」って 首を傾げてる狐榊に

泰河が「北欧神話の界は、世界樹で繋がっててさ

世界樹自体にも、いろんなヤツが住んでるんだ」って、北欧神話の本 渡して、説明してる。


オレも「紙とペン あるー?」って

シェムハザに聞いて

取り寄せてもらった スケッチブックに

サインペンで、世界樹と北欧の界の絵を描いて

榊がイメージしやすいようにした。

まぁ、本の説明からの想像図だけどー。


「とにかく、どちらにしろ

封の強化は するに越した事はない」って

飲み干したワインのグラスを テーブルに置いた

ハティが、ソファーを立つ。


「トールは?」と 聞くボティスに

「ユグドラシルの界の 封の確認へ行っている。

エトナ山の封の強化が済んだら、ヘルメスと共にユグドラシルに向かい、合流するつもりだが...

パイモン、ベルゼやベリアルに。

ミカエルやヴィシュヌにも 今の話を」って 言って

エトナ山へ消えた。


「ニナの様子は、アコが 一晩みて

必要があれば、俺か シェムハザを呼ぶように

言ってある。もう 一度見て、地界に戻るが... 」って、ジェイドに パイモンが言ったけど

ジェイドも、ニナと付き合ってる とか いうワケじゃねーし、曖昧に頷いてる。


ボティスが眼をやると、代わりに榊が

「ふむ。儂も スマホンでニナの顔など 見ようかと思うておるのよ」って 答えてて

オレらが「うん、忙しい時に、ありがとうな」

「助かる」って パイモンに礼を言った。


ジェイドの頭に 手を置いたパイモンが消えると

「ミカエル」って、ボティスが喚ぶ。


「... 何だよ? 今、アフリカで

アードウルフと 遊んでたのに」


テーブルの前に ミカエルが立つと

ゾイと四郎も、オレらの近くに立った。


「推測なんだけど... 」


ジェイドが話し始めると、ミカエルが ソファーに座って「ファシエル、シロウ」って 二人も呼ぶ。


「今し方の話であるが」って、狐榊が

テラスの床に置いた オレのコーヒーカップに

鼻先を突っ込んだ。

狐の時も、前足で カップ持てるクセにさぁ。

ニナの様子が 気になるのかぁ...


まだ カップに鼻突っ込んでる榊の隣から、泰河が

「連絡してみるか?」って 笑ってるし。

狐榊は、三つ尾の先を揺らして 返事する。

スマホ出して、とりあえず シイナの方に

“ニナ、どう?” って メッセージ入れてみた。


すぐに、“今、電話して大丈夫?” って 返ってきて

“大丈夫だぜ” って 送信すると

ビデオ通話で かかってきた。


『電話だと、見えるんだよね』


「あっ、さっきは 見えなかったんだもんなー」


そうだった、飛行機で来てるんだよなぁ。

もう 忘れてたぜ。


カップから鼻を上げて、猫みたいに毛繕いした榊が、狐のまま「シイナよ」って 顔を出してきた。


『榊ちゃん。狐で話すと、やっぱり不思議。

ニナと代わるね』


ソファーに座ってるらしい シイナが、隣に座る

ニナに スマホ渡して

『榊ちゃん。なんか、いろいろ ごめんね!

心配してくれてた って 聞いたから』って

謝ってる。

ニナは、オレらが見てたことを 知らねーんだよな。そこ、気を付けねーと...


「む... ふむ。しかし、術は解けたようで あるの」


しどろもどろ気味に 榊が言うと

『うん! 寝ちゃってる間に、別のバリアン?の人が 解いてくれた って聞いて... 』って 答えてる。

そういうことにしてあるっぽいし

「む! かふっ... 腕の良い呪術医バリアンであるの!」と

噎せながら 榊が返して

「先程、鼻に珈琲が入った故」って

聞かれてもない言い訳をする。


「儂等は、仕事でおらぬであったが... 」


いや、榊。それも 聞かれてないんだぜ。

榊の向こう側で、泰河も ちょっと焦ってる。


「しかし、先程 パイモンに

“術が解けた” と 聞いた次第よ」


『そう。シイナを 空港に迎えに行く間は

パイモンが お前をみててくれてたんだ』


二人の向かいに座ってるらしい アコの声が言うと

『そうなんだ! 寝てる間まで...

すごい迷惑掛けちゃって』って 気にしてる。


「いや、ニナは 呪術の被害にあっただけだし

オレらが しっかりしてれば、そんな事なかったんだからさ」


泰河が言うと『あっ、泰ちゃん?』って

画面に呼び掛ける。向こうから スマホ画面見たら

クリーム色の狐の どアップだし。


「そう。ジェイドたちも居るぜ。

今、仕事の話 してるけどな」


ソファーの方では

「嘘だろ?! ユグドラシルなんか

正式な手順 踏まないと、天使おれ等は入れないぜ?

まだ、ルシフェルたちの方が入り込みやすい。

招待されることも あるだろうし。

それでも、アースガルズやヴァナヘイムくらいだ。入れない界も たくさんある」って

ミカエルが言ってて、

「うん、でも 推測上の話だから」って

ジェイドが答えてるけど、ボティスが

「大いに あり得るがな」って 言っちまってる。

まぁ、あり得るよなぁ...


『うん。声 聞こえる。忙しそうなのに

アコちゃん借りちゃってるし』


「何を。気にせぬが良い」

「おう、オレらは 忙しくねぇしさ。なぁ、ルカ」


泰河に振られて

「うん、そ。いちおー 居るだけだからよー」って

榊の隣から、顔 見せてみたら

『うん... ルカちゃんも、ホントに ごめんね。

ありがと』って、まだ 申し訳無さそうにして

『ね、私が倒れちゃう時に、近くに

榊ちゃん 居た?』とか 聞かれたんだぜ!


「のっ... 」って、長い口 開いた榊は

「ナゼ?」って 片言気味だしよー。


『なんか、気配がしたんだよね。

黒い炎も見た気がする』


固まってる榊の隣から、泰河が

悪霊ブートとか レヤックじゃねーの?」って

誤魔化して、温くなったコーヒー 飲んでる。

「おう。ここ、バリだしなぁ。

前に見ただろ?」って、オレも言っとく。


「ホホ... 儂は このように、化け狐であるからのう。それ等と 気配などは似ておろうの」


あれ? 待てよ...  白バリアンの人を隠すために

榊が 神隠し掛けてなかったっけ?


『そうなの?

うーん... でも、私、あの男の人に

“好き” って 口走りそうに なっちゃったんだけど、

その時に、何か とても温かいものが

私を 止めてくれた気がして... 』


朱里ちゃんだ。泰河が 言葉なくしてる。


『それで、少し おかしい事が起こって。

... その レヤックとか ブートのせいかもしれないけど、あの男の人が椅子から落ちて 店を出て、

その時は まだ悲しかったのに

“どうして 悲しいんだろう?” とも 妙な感じがしたり、何かを思い出しそうになったりして。

でも、そのまま 気絶しちゃったみたい』


ジェイドが ニナの隣に行って、蛇が入った時だ。


「けど、今は大丈夫なんだろ?

良かったじゃん。オレらも 安心したしさぁ」

「ふむ! シイナやアコが 共に居ることもあろうが、落ち着いておるように見えるしの」


また 通話画面を占領した 榊も言うと

『うん。よく覚えてないんだけど、眠ってる間に

夢を見た気がする。

何かの 詩か お話を聞いてて、安心してた感じ』

って、穏やかに笑ってる。

たぶん ジェイドが、聖書朗読したり

祈ったりしてたんだろうけど。


けど、『今は、本当にスッキリしてる』って

画面の向こうで また笑ったニナに

何か 違和感を感じた。

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