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「今のが、“ランダ” か?」
ランダの話だけ聞いていたボティスは
誰とも無しに聞いた。
「... そうだ。渡しそびれたが、好物はトカゲ」
「ジェイドが、髪を編んだんだ」
シェムハザと朋樹が、呆然と答えると
“腹からきた” って風に、ボティスが笑い出した。
オレも泰河も、つられて気が抜ける。
ジェイドは まだテラス見てるし。
「なんと、勇ましき乙女よのう... 」
「ヴァイラとは また違うな... 」
「蛇、抜いてたな」と、ミカエルが言う。
ランダが抜いた黒蛇は、全員が見えたみたいだ。
「ゴールドの蛇は?」
ニナの腹には、まだゴールドの光がある。
「いるね」
ジェイドが ため息ついて、ニナのヘソに 卵を置いた。 こいつ、こういうこと
ふざけてやってんのか、本気でやってんのか
いまいち分からねーんだよなぁ。
ふざける気分でもねー だろうけどさぁ。
普段は、“どうなるだろう?” とか “やってみた” が
近い気ぃする。
「とりあえず、シーツ 掛けるとかさ... 」
おっ、ニナ、下着だったし!
必死になってて、気にしてなかったけど
白下着じゃーん。こざっぱりしたやつ。
かわいいけど、もし ジゴロが... って
気分良くないんだぜ。
まぁ、それは 解決したんだけどさぁ。
「待って」
ヘソから卵を外そうとして、ジェイドが手を止める。卵の中に ゴールドの色が入り込み、
尾までが すっかり卵に入ると
ジェイドが 卵を外した。
********
あのあと。
『まだ眠っているけど、異常はない』と
パイモンが診断して、ニナにシーツを掛けた。
『何故、ランダに 蛇が取れた?』
『スマラ神の作用に、嫉妬の念が芽生えたからじゃないのか? 愛の神から 怒り神に転じた。
ランダは、この島の悪を統べる。
抜き出せても おかしくない』
『ルカだけに見えたのは?』
『思念と似ているから、などでは?
タクス神を通して、スマラ神の力... 疑似感情を植え付けられているからな』
『なら、ニナが
あのゴールドの蛇の影響?』
『それもあるだろうが、ゴールドの蛇は
ニナの体内に散在していた スマラ神の作用を追い込み、形にしていた。
泰河が触れたことが、深層のニナの意識を目覚めさせるキッカケとなったが、やはり... 』
見えなくても、ジェイドが 傍に付いてたから
もし、ニナが 元々コイしてなかったら
この術は、もっと 解けづらかったかも。
誰も好きじゃないなら、
当のジェイドは、ゴールド蛇が入った卵も
テーブルに放ったらかしたまま
見た目は、ぼーっとしてる。
エステルが 頭に乗っても、気付いてねーし。
術とは言え、“あなたじゃない” の ショックが
うん まぁ、分かるけどさぁ...
『ホテルの部屋へ戻した方が... 』って
話してたら、シイナ連れた アコが登場した。
シイナは、飛行機で来てて
「ニナ、回収に来たんだけど」って
腕 組んで、まだ寝てる ニナ見てる。
シェムハザとミカエル、ゾイとパイモンしか
認識してないけど
「なんとなく、たくさん誰かいる気配はする」らしい。普段も 見えるようになっちまったもんなぁ。
四郎ん時に パイモンにも会ってるんだけど
シイナは、よく 覚えてねーし。
「首の痣を見せてみろ」って 低い声で言われて
「あ、ココのキョーケイの時に、ホテルに来た?
やっぱり男なんだ... 」って
ブロンド美女に見えるパイモンのことを 残念がってるし。
「痣、目立つな。
消えないけど、誤魔化す事は出来る。
どうする?」って 聞かれて
「ううん、いい。ありがとう」って 答えてた。
シェムハザのお取り寄せコーヒー 飲みながら
さっきの話 聞いて
「... 嫉妬ねぇ」って 黄昏てたけど
ミカエルたちや、見えねー オレらにも
「でも 治してくれて、ありがとう。
あのジゴロと、何も無くて良かった」って
礼を言うと、ゾイが プリンを持たせる。
シイナ、嬉しそうだし。
シェムハザが指を鳴らして 服を着せたニナを
アコが抱いて、ニナが宿泊してるホテルに
一緒に 戻って行った。
ニナが目覚めるまでは、アコが ついておいて
目覚めたら、パイモンも様子を見に行ってくれるんだけど、「記憶は どうする?」って 聞かれる。
「なるべく、下手に いじらない方がいいけど
俺等が選ぶことじゃないかもな」
ミカエルが言うと
「本人が選ぶことではあるが、ジゴロと寝た訳でもなければ、俺等に見られていた事も知らん。
忘れさせる程でも無いと思えるが... 」って
シェムハザも言うし
「ニナが目覚め、本人に聞くのが 一番良かろうの。どれ程 覚えておるかも、定かではない故」って ことになった。
ニナが目覚めるまで、まだ心配だけど
とりあえず、ジゴロが掛けた呪詛は抜けた。
テラスでは 泰河と榊が、明るい顔で 朱里ちゃんに報告してて、ビデオ通話画面の 朱里ちゃんの顔も明るい。
「パイモン。皇帝と オージンは、何の話を?」
テーブルでは、仕事の話しが 始まったけど
ジェイドは 自分の膝に片肘立てて、頬杖ついてるし。
「地上の入れ替わりの事だけど、原因を特定しようとしてる。ノルウェーでも、アフリカの森が見つかったから。
入れ替わりの場所に 鴉を飛ばしたらしくて、地界の悪魔たちや 守護天使たちが居たから、ルシファーが 何か知ってるだろうと思って 来たみたいだった」
皇帝は『まだ、入れ替わりの範囲を調べさせているところだが、天も 注目している事もあって
なかなか調査も進まん。
しかし 今回の事をやった者は、どうやら地界の者ではない。ドラゴンの巣やゴブリンの住処の入れ替えなどしても、こうして 各界から注目されるだけで、何も利は無いからな。
また 人間が立ち入らん地が ほとんどだ。
尤も、人間の呪術師に出来る事でもないが... 』と
答えたようで、オーディンは
“利が無い” って部分に、納得したみたいだ。
『ならば、何かの影響や事故 という事になるが
これをやってのける程のエネルギーを有した者が存在する... という事だ』
皇帝は、天狗やアバドンの事にも触れず
オーディンは、原因が
奈落からの影響 って事も知らないままだ。
『ですが、入れ替わりは 一箇所ではなく
同時に複数の箇所です。このような事が出来るのは、父くらいしか居ない。
だから オージン、俺は あなたも疑った』... と
パイモンが口を挟んだ。上手いよなぁ...
皇帝も頷いて
『オージンは、ミーミルの知識を持っている。
術に於いても、ヴァン神族に引けを取らん。
こちらから 使いを出そうとしていたところだ』と
添えると
『まさか... 目立つだけで、正に 利も意味も無い』と、失っていない片眼を 皇帝とパイモンに向けて
少し気を良くしたらしい。
けど、“出来ない” とは言わなかったのか...
『入れ替わりの原因については調査中ですが
あなたが仰られたように、何らかの影響や
術の事故等も考慮し、地上や地界の 封が解かれていないか... という事も 調べているところです』
『地上の異変という事で、天も 警戒している。
派手に ひっくり返して回る事も出来ん。
何か分かり次第、ユグドラシルや オリュンポス山にも使者を出すが... 』
皇帝とパイモンに 頷いたオーディンは
『こちらも、周辺の調査は するつもりだが
まだ
大規模な調査は、そちらに任せたい』と
返してきたようだ。
介入 出来る話ではないらしい。
予言に、皇帝や他神の名前はないから。
介入しようとしても、その時に働く聖霊のような力により、介入出来ない状態になる。
オーディンが必要とする知識を授ける 程度の
手助けしか出来ない。
だから特に、地界や他神界と 敵対する関係でも
協力する関係でもない。
「でも、オージンは諦めていない。
ユグドラシルの創世は、巨人ユミルを殺めて使った オージン等による。
どうにか 予言を覆すつもりだ」
話し終えると、ソファーで 黒いサロンを巻いたままの 脚を組むパイモンが、プリンを口に運ぶ。
「美味い」って、ゾイに美人顔 向けてるし。
その辺には、パイモンの意見だろうと
ミカエルも「うん」って素直に同意する。
マジで 美味いしぃ。四郎も笑顔。
「キュベレの事を知れば、当然 狙う。
まぁ そのために、トールが措置を講じている訳だが。 キュベレは 父の肋骨だ。予言の書き換えも可能になる」
プリン食いながら ボティスが言う。
ハティより違和感ねーし。
「えっ? そんなに影響 出来んの?」って
プリン食いながら聞いてみたら
「天じゃなく、他神界のことを 多少ならな。
黙示録とか 父の計画書なら無理」って
ミカエルが答えるし。
やっぱり 天使なのかな?
または、それに類する存在... ?
ユミルと 牡牛アウズフムラが生まれるより前に
ヴィシュヌが、“計画書のようなものだ” っていう
この
オーディンが、巫女に質問して 答えさせたものだ。
巫女は、未来の最終戦争の場面を見て言ったのか
皇帝が獣の予言をしたように、誰かや何かの
預言なのかは分からない。
けど、“計画する存在がいる” って 考えられる。
そうじゃなければ、最終戦争は 回避可能だと思うし。
でも オーディンは、回避する方には向かず
“戦争のための備え” に 動いてる。
世界樹ユグドラシルで繋がる 北欧神話の世界には
アースガルズの上に、“何層かの天” が あるんだよな... 第一天の名前は分からねーんだけど
ヴァン神族のヴァナヘイムや、
ヴァナヘイムは、ロシアのどこかじゃないか?... って 説がある。
創世って言っても、聖父の それとは違って
日本が、イザナギさんとイザナミさんの国生みで
生まれたように、北欧世界をオーディンが造った
... って 印象。
ついでに、ローマでの “オーディン” は
“メリクリウス”... ヘルメスに当てられていて、
“トール” は、“ヘルクレス”... ヘラクレスに当てられてる。
「そうか? キュベレを取れば、天を相手にする事になる。狙うなら 獣じゃないのか?」
話に参加する朋樹が言うと
「それは何度も “警戒が必要” って話してるだろ?
シロウが 預言者として降りる前から 俺も守護してるし、ハティやルシフェルも 気を付けてる。
泰河を取れば、俺と地界、日本神とインド神を
相手にする事になる。
オージンにも、それは分かる」って 返されてる。
泰河、雑な扱いされてるけど、護りは厚いよなぁ。
「獣は、解らん事の方が多いからな。
どのようなものか知っている キュベレの方が
狙われる確率は高い。
しかし キュベレが目覚めれば、キュベレを利用 出来ず、オージンが 配下に下ることになる。
“眠っているキュベレ” を 手に入れ
目覚めの魂との交換条件として、
オージンにとっては 一番良いが
アジ=ダハーカとオージンとの 三つ巴になる事は
こちらとしては避けたいところだ」
シェムハザが 纏めて、アリエルと子供たちに
まだあったプリン4個を 城に送った。
「オージンが、巫女に 何も聞かなければいいけどな」
「先に キュベレを回収すれば、問題ないだろ?」
パイモンに、ミカエルが 簡単に言ってるけど
オーディンを警戒しながら、アジ=ダハーカ探しなんだよなぁ...
ハティの軍が キュベレを探しても、見つかってねーんだけど。
ゾイが「卵の蛇は、何の蛇なのかな?」って
ジェイドの様子を
「うん... きれいな蛇だったけど... 」
「そうなんだよな。
最初は スマラ神の力が強過ぎて、嫉妬蛇になっちまったんだけど、榊に その念を燃やされて
師匠の
テーブルから 泰河が 卵 取ってみてるけど
ミカエルが、ジェイドの頭 指差しながら
「エステルに花やって来いよ。ファシエルと」
って、散歩に出した。大人になったんだぜ。
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