75


背後の でかい円卓や、ジャタの寝台の東屋の方に

振り向いてみたら、トールの右隣... ヘルメスとは逆隣に座ってる泰河も、取皿が丸々埋まる バビ グリンを貰ってて、ミカエルと 一緒に食ってる。


周囲中 派手なことには、慣れてきたんだぜ。

意外と、下界の 川底ゴールドの川が

カラフルな森の色を緩和してるし。

シェムハザとベリアルは、トールの後ろにある

ジャタの寝台で、ジャタの相手してるっぽい。

トールが でかくて、ほぼ見えねーけど。


ミカエルの隣には ハティとベルゼ。

ヘルメスの隣に ボティス。仲良さそうなんだよなあ。で、月夜見キミサマ、師匠 って座って

「テング?」って、天狗の話に移ってた。


「ロキは、イタズラ好きで

“トリックスター” の 代表的な存在だ」


ヴィシュヌの話を「はい」って、眼ぇキラキラさせた 四郎が、揚バナナ食いながら聞いてる。

オレと朋樹は、腹 休憩に フルーツなんだぜ。


「“ロキ” というのは “火” という意味だ。

巨人族の子なんだけど、身体も大きくなくて

ブロンドの髪に 虹色に光る虹彩。

ヴァン神族のような、美しい容姿をしている。

ジャタと同じ 両性具有で、変身能力がある」


“火” で、人間に火を与えた ギリシャ神話の

プロメテウスを思い出す。

いや、今は 北欧神話の話だけどー。


ロキは、アースガルズに入り込むと

『巨人たちは、良からぬ陰謀を抱いている』と

吹聴して回った。

後に これが、本当だったことが分かり

トールが しょっちゅう、アースガルズを空け

巨人と戦うことになる。


トールは、ロキを気に入って 仲良くなり

巨人の討伐にまで 一緒に出掛けるようにもなった。ロキは、巨人族でありながら

『アースガルズの 一員になりたい』と言う。

『オーディンに 自分に近いものを感じる』と。


オーディンも、ロキと同じように

『自分の血肉の 一部が、ロキの中にある』と感じ

二人は 血を交換して、兄弟の契りを交わす。

こうしてロキは、アース神族の 一員となった。


... 推測でしかないけど、ロキは 美形っていう外見と 賢さのせいで、巨人族の中では 浮いてたんじゃねーかな? って 気がする。

オーディンにも、半分 巨人の血が流れてる。

お互いを近く感じたのは、そのせいも あるのかもしれねーよなぁ。


「“アースガルズの城壁を堅固なものにする” と

申し出た 鍛冶屋は、その報酬に

“美しい女神フレイヤと、太陽と月” を 要求した。

巨人族と戦うために、トールも出ていたし

アース神族の神々が 断ろうとすると

ロキが、“いざとなったら 鍛冶屋を騙せばいい” と

提案する。城壁が必要な神々は

“半年間で完成させられたら、報酬を払う” と

鍛冶屋を雇ったんだ」


ひとりで出来る訳がない... と 高を括っていたけど

鍛冶屋は、連れて来た 牡馬の助けを借りて

驚異的なスピードで 城壁を修復していく。


神々が ロキに『どうするんだ?』と 詰め寄ると

ロキは 牝馬に変身して、牡馬を誘惑し

鍛冶屋の仕事を遅らせた。


このことが鍛冶屋にバレる。

鍛冶屋は、巨人が化けたものだった。

元の巨人の姿に戻って、神々に襲いかかったけど、ちょうど帰って来たトールに 殺されてしまう。


こうして アース神族は、女神フレイヤなどの報酬を払わずに 城壁を手に入れたけど

同時に 契約違反という罪も背負うことになった。


「この時に ロキは、鍛冶屋の牡馬との間の子

“スレイプニル” を 身籠って産む。

八本の脚がある駿馬で、地上や冥界を行き来することが出来、炎も飛び越える。

ロキは オーディンに、この馬を贈った」


ロキには 妻が二人居て、他にも子供がいる。

女巨人アングルボザとの間には 三人。


育つ内に凶暴になって、グラウプニルという縄で繋がれている “フェンリル狼”。


どんどん大きくなるので、海に捨てられた

“ヨルムンガンド”。

“ミズガルズ蛇” とも呼ばれる この蛇は

海の中でも成長を続けて 世界を ぐるっと巻き

自分の尾を咥えている。


下半身が腐っている女の “ヘル”。

オーディンに、冥界ニヴルヘルへ 追放されて

そのまま 冥界の女王となった。


「トールが、巨人討伐に励む間

オージンは、知識を求めて旅をした。

“神々は、最終戦争ラグナロクによって破滅する”

という、予言を得たためだ」


この間も ロキは、トールの奥さん シフの頭を

丸刈りにして、こっぴどく叱られたり

トールの巨人討伐や、オーディンの旅に付き合って、トラブルを起こしたり、魔法の品や動物を

神々に齎したりしていた。


「オージンには、トールの他にも

母親の違う息子がいる。

正妻フリッグが産んだ、光の神 バルドルだ。

バルドルは、悪夢にうなされるようになり

オージンも 妻フリッグも大変に心配する。

フリッグは、動物や植物、武器に至るまで

全てのものに “バルドルを傷つけないよう” 約束を取り付ける。

ただ、まだ若かったヤドリギには 油断して

約束を取り付けなかった」


ロキには、これが面白くなかった。

アース神族の神々が、“何が当たっても平気だ” と

バルドルに 様々な物を投げて遊んでいた時に

盲目の神ホズに、“これも投げてみて” と

ヤドリギの枝を渡して投げさせた。

その枝が、バルドルの胸に刺さって

バルドルは死んでしまい、ホズは処刑された。


バルドルの死を境に、オーディンは 更に知識を求め、巨人族の女の人を 利用して捨てたり

何人もの女の人に 自分の子供を産ませる。

勇敢な戦死者たちの霊... エインヘリアルを集め

最終戦争ラグナロクのために 訓練させる。

戦死者を集めるために戦争を起こしたりもした。


また、“狂戦士ベルセルク” という戦士たちの軍も持つ。

オーディンの祝福や 魔術により、“狂戦士の激怒” という状態になると、敵味方の区別も付かなくなって、狂った野獣のように相手に襲いかかり、熊のように強く、火や鉄にも傷つく事がなかった。


「巨人であるロキは、神々に 芯からは馴染めず

日に日に疎外感が募ったのか、憎しみに似た反発心を抱き出す。

海神エーギルが主催した宴会の時に、感情が吹き出し、神々... オージンまでも罵倒し、姿を消した」


だけど この時も、ロキは

トールのことだけは 悪く言わなかった。


ロキが許せなくなった オーディンは

居場所を探り出し、神々に ロキを捕らえさせた。

ロキは、鮭になって逃げようとしていたところを

トールに捕らえられ、妻シギュンと、その間の息子 ヴァーリとナリは 洞窟に隠れていた。

神々は ヴァーリを狼に変え、ナリを殺させる。

ナリの腸でロキを大岩に巻きつけると、腸は鉄の鎖になった。

ロキは、顔に 毒蛇の毒が滴るという拷問を受けながら、最終戦争ラグナロクの時まで洞窟に縛られている。


最終戦争ラグナロクでは、巨人世界ヨトゥンヘイムの巨人たち、

古くからある灼熱ムスッペルスヘイムの住人 ムスッペルたちや、冥界ニヴルヘルの死者たちが、神々の元へ侵攻を開始する」


知識を求め、兵を集めるために 人間世界ミズガルズに戦争を引き起こしていた オーディンの行いは

世界をひずませた。

太陽と月を引く馬車の御者 ソールとマーニが

狼たちに飲み込まれ、世界は天変地異に見舞われる。


... ヨハネの黙示録、8章12節では

第四の御使が、ラッパを吹き鳴らすと

“『太陽の三分の一 と、月の三分の一 と、

星の三分の一 とが打たれて、

これらのものの三分の一 は 暗くなり、昼の三分の一 は 明るくなくなり、夜も同じようになった』”

と あって、これを彷彿とする。


この混乱を機に侵攻開始した 巨人たちやヌスッペルたち、ロキの子供たちの フェンリル狼、ヨルムンガンド、死者たちを引き連れたヘルは

ヴィーグリーズという戦場で、神々と戦う。


「巨人たちの先頭に立つロキは、アースガルズと人間世界ミズガルズを繋ぐ、虹の橋ビフレストの番人であり、神々の番人である “ヘイムッダル” と

相討ちになって果てる」


インディアンコーヒーのカップを口に運ぼうとしていた 四郎が、手を止めて ヴィシュヌの眼を見直した。


「果てる、と?」


「そう。予言というより、計画書のようなものだろうね。そうなると決められている」


最終戦争ラグナロクで犠牲になるのは、ロキとヘイムッダルだけじゃない。


主神オーディンは、フェンリル狼に飲み込まれ、

フェンリル狼は、オーディンと女巨人の間の子

ヴィーザルに倒される。

トールは、ミズガルズ蛇 ヨルムンガンドを討つが 毒に倒れ、戦神テュールは 冥界の番犬ガルムと相討ちになり、豊穣神フレイは ムスッペルの長スルトに倒され、大地はスルトの炎で焼き尽くされて

海の底へ沈んでしまう。


... ここでも なんとなく

原初からある灼熱厶スペッルスヘイムの住人 厶スッペルたちで

炎から生まれるっていう 天使たちを彷彿としちまうし。


「その後、海に沈んだ大地が浮き上がって

新たな世界の始まりとなるんだけど... 」


大地には 豊かな緑が広がり、穀物がなっていた。

太陽の御者ソールの遺児が跡を継いで、大地を照らし、ホッドミーミルという森に隠れていた男女から 再び人類が増え拡がっていく。


最終戦争を生き延びた神々や、冥界から帰還した光の神バルドルやホズが、アースガルズの跡地に戻り、苦しみや悪のない 喜びだけの世界となる。


... で、オレ、まーた 出すんだけどー。


天使のラッパ全てが 吹き鳴らされて

地上の裁きが終焉を迎える 黙示録 20章では

『“また わたしが見ていると、ひとりの御使が、

底知れぬ所のかぎと大きな鎖とを手に持って、

天から降りてきた”』とあって

千年の間、悪魔サタンたちが閉じ込められ

“イエスのあかし” をしたために、迫害にあった人たちが生き返り、千年の間 キリストと暮らす。

これが、“第一 の復活” とある。


千年の期間が終わると、悪魔が解放されて

聖徒でない人たちを、戦いのために惑わし

聖徒たちの陣営を包囲する。すると

『“天から火が下ってきて、彼らを焼き尽した。

そして、彼らを惑わした悪魔は、火と硫黄との池に 投げ込まれた”』と あって

聖徒でない死んだ人たちも、生き返り

生きた人たちと共に、“いのちの書” に書かれている、“おのおのの しわざに応じた” 裁きを受ける。

死も黄泉も 火の池に投げ込まれ

いのちの書に名前がない人も投げ込まれる。

この火の池が、“第二の死”。

... スルトの炎と重なるんだよなぁ。


21章は、... “わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった”... から 始まる。


『“見よ、神の幕屋が人と共にあり、神が人と共に住み、人は神の民となり、神自ら人と共にいまして、人の目から涙を全くぬぐいとって下さる。

もはや、死もなく、悲しみも、叫びも、痛みもない。先のものが、すでに過ぎ去ったからである”』

... という 言葉に対し、

『“すると、御座にいますかたが言われた、

「見よ、わたしはすべてのものを新たにする」”』

... と 続く。


“小羊の妻なる花嫁” である

“聖なる都、新しいエルサレム” が 天から下りる。

都の聖所は、“全能者にして主なる神と小羊”。

“都は、日や月がそれを照す必要がない。

神の栄光が都を明るくし、小羊が都のあかりだからである”。

“都の門は、終日、閉ざされることはない。

そこには 夜がないからである”。... 新しい世界。


そして、22章では

... 『“御使はまた、水晶のように輝いている いのちの水の川をわたしに見せてくれた。

この川は、神と小羊との御座から出て、

都の大通りの中央を流れている。

川の両側には いのちの木があって、

十二種の実を結び、その実は毎月みのり、

その木の葉は 諸国民をいやす”』... と ある。


“川の両側には いのちの木があって”...

エデンと楽園の 生命の木... ? って 考えちまう。


そして、“この書の言葉を封じてはならない” と

イエスの言葉が続く。22章12節から。


『“「見よ、わたしは すぐに来る。

報いを携えてきて、それぞれの しわざに応じて報いよう。

わたしは アルパであり、オメガである。

最初の者であり、最後の者である。

初めであり、終りである。

いのちの木に あずかる特権を与えられ、

また門を とおって都に はいるために、

自分の着物を洗う者たちは、さいわいである。

犬ども、まじないをする者、姦淫を行う者、人殺し、偶像を拝む者、また、偽りを好み かつ これを行う者はみな、外に出されている。

わたし イエスは、使をつかわして、諸教会のために、これらのことを あなたがたに あかしした。

わたしは、ダビデの若枝 また子孫であり、

輝く明けの明星である」”』


「... 皆、亡くなられると?」


四郎の声で「お」って、無心に クロポン食っちまってたことに 気付いたし。

ヴィシュヌが

「珈琲の おかわりは、甘くないものにしよう」って、バリコーヒーにしてくれた。

カップに入ってるけど、すぐ飲める温度のやつ。


「詩人 スノッリ・ストルルソンの “エッダ” とかでは、そうなってるんだよな」


シェムハザが取り寄せたらしい 極厚ステーキ食ってるトールに眼をやりながら、朋樹が答えてる。


北欧神話を読んだ時は、オレも衝撃だった。

ロキも含む アース神族の神々って、ずるかったり憎めなかったり、すげー 人間味? があって

読んでる内に 神々に好感 持ったし。

狡猾なオーディン、どうしても憎めないロキ、

アースガルズの善や陽、明るく豪快なトール。

けど、みんな最終戦争ラグナロクで死んじまう。

神話としても、めずらしい気ぃするし。


巨人ユミルを殺して 世界を創ったオーディンが

一番 人間っぽい気がした。身勝手だし。

神を気取り 我が物顔。いや 主神だけどさぁ。

オーディンを、“人の王” として見て 読んでみると

教訓のようにも思える。


「予言... 計画書については、何とも言えないんだけど」と、ヴィシュヌはバルフィを摘んで

「気になるのは、“この状況” を 組み入れて

見てみると... って ことなんだ」って 続けた。


「アジ=ダハーカみたいに、ロキやフェンリルが... って ことすか?」


オレが聞いたら、四郎が

冥界ニヴルヘルの ヘル という方など... 」とか言うし。

冥界って、ほぼ 死者の魂しかさぁ...


「いや、冥府や黄泉など、死者の界については

もう、ベルゼブブやハーゲンティが

地界の悪魔や精霊たちを紛れ込ませてる。

最初に警戒すべき場所だからね。

俺も、ヤマや アンタボカに 報せてるし」


「... オーディン、すか?」


やたら黙ってた 朋樹が言うと

ヴィシュヌが頷いた。 オーディン... ?


ハッとした顔の四郎が

「今も、最終戦争ラグナロクの備えのための旅を?」と

聞く。

知識や魔術、戦争で役に立つ人材を求めて

戦死者霊エインヘリアルを集めたり、子供つくったり...


「そう。気になるのは そこなんだ。

オージンは、キュベレのことを知れば

手に入れようとするんじゃないか? と 思って」


いや...  カンベンしろよ...


「ここに来たのが、トールで良かったけどね」


トールの方を振り向いてみると

「... はぁ? 天狗そいつが、“アポルオン” に?!」って

でかい杯で、ワイン飲もうとしてるとこだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る