70


「ベルゼは、アンラ=マンユのところへ?」


「ベリアルと向かった。ヴィシュヌ等は まだ?」


「まだ戻っていない。

皇帝とオージンは、何の話を?」


「地上の入れ替わりについてだろうが

パイモンに聞く事になる。暇が無く、まだ... 」


ハティたちは、キュベレ系の話なんだぜ。

朋樹と四郎が参加してる。


オレと泰河も、一応 聞いちゃいるけど

ソファーから あぶれるし、テラスに居て

すぐ前の プールの水面や、庭のブーゲンビリア

プルメリア、極楽鳥花やハイビスカス。

周囲のジャングルにも、日差しが きらきらすんの見ながら、昼ビール中。


「あっ、キミドリの鳥!」

「どこどこ?!」


首の下が黄色い インコみたいな鳥が

ブーゲンビリアの枝を揺らしてる。


「もう... おまえら、うるせぇよなぁ」って 言った

朋樹が

「豆でも食って 大人しくしとけよ」とか

チリ味の豆の袋 持って、鳥 見に来て

「皇帝には、まだ キュベレのことを 伏せておくのか? 奈落から出ちまったのに... 」って

ハティたちに話しながら テーブルの前に戻った。

見には来るんだよなー。

四郎が、鳥の写真 スマホで撮ってるし。


「シロウ」


ミカエルとハティが、四郎が撮った写真見ながら

「オオコノハドリ。

今 ルシフェルに話したら、父に挑戦するために

自分が手に入れて、目覚めさせようとするだろ?」

「目覚めさせぬまま天に戻すのが 一番良いが、

“目覚めた後” であれば、皇帝は キュベレを

“負かしてやろう” と、敵対する側にまわる」って

朋樹に 答えてる。


キュベレの目覚めは阻止する。

けど 皇帝に話すなら、目覚めた後なんだよなぁ...


「そういえば、月夜見に 話してないな」

「まだ、ランダと姫様が 一緒なんじゃないか?」

「須佐之男に任せられるだろ?」


榊が 幽世の扉を開けて、月夜見キミサマを呼んでる。


「何だ? ランダと逆毎ザコは、今 二の山で... 」って

御神衣の袖の中に、腕 組んでる月夜見キミサマ

ベッドに横たわる ニナに気付いたけど

「キュベレの件だ」って、扉から 出て来てもらってる。


朱里ちゃんと榊も、ジェイドと 一緒に

ニナの傍に居るんだよな。


泰河に『朱里ちゃん、いーの?』って 聞いたら

『おう。朱里シュリが “心配だから” って言うからさ』って。


ニナは、目覚めた時に 榊が幻惑して

ホテルの部屋に移動させて、

アコに『レストランで倒れた』って

説明してもらおう ってことになった。

その時、呪詛が解けてても 解けてなくても

自分が取ったホテルに居れば、いろいろ気にしねーだろうし。


まだ ニナの状態は変わってないけど

ハティが居ると、なんか安心する。


ジェイドは、ハティに “お前の責任” って言われたのが、かえって良かったみたいだった。

だから 呪詛が解けるまで自分が傍にいる... っていう 理由になったし、ハティのめいでもある。


「... アジ=ダハーカ?」


朋樹が注いだワインのグラス持って、月夜見キミサマ

“何だ それは?” みたいに聞いて


「アンラ=マンユの配下だ」

「シャーナーメでは、“ザッハーク” になっているが、三つの蛇頭だ。ドラゴンと考えてもいい」

「ペルシアのダマーヴァンド山に封じられた。

封は、“時の終わりの最後の戦い” で 解かれるはずだったが... 」って、説明されると


「その三つ蛇が、まだ眠っておる 大母神キュベレ

封を解かれ、使われておる と?」って

もう、はは... って 乾いた笑顔になってるし。


「大母神は、眠った状態であろうと

それ程の事が出来るとはのう... 」


「天で眠れば、そんなことないんだぜ?

父の光で押さえられる」

「相当数の魂も飲んだだろうしな」


お手上げ って感じの月夜見キミサマ

ミカエルとシェムハザが、言い訳するみたいに言ってる。確かに、キュベレって すげー。


「封を出た アジ=ダハーカとやらも

悪の者の “配下” といえども、さぞ 強大な者であろうの。高天原に報じはするが... 」


アジ=ダハーカとキュベレが、どこに居るかも

分からねーんだもんなぁ。

なんせ、ダマーヴァンド山の封 だけが

アグン山のアタカマ砂漠に 出現したんだし。


... あれ?


ジャタが、天使の寝台を押さえてるから

地上や他界の 土地の入れ替わりは起こらない って聞いたけど

ダマーヴァンド山の封は、キュベレが動かしたんだよな?

アバドンやオベニエルを使ってたように

他の誰か... アジ=ダハーカの配下の蛇人へびひととかに

協力させたかもしれねーけど。

ジャタに、あの島の 下界の川から流されて

ダマーヴァンド山に 辿り着いて。


「なぁ、他にもさぁ

ダマーヴァンド山の封 みてーに

ヤバいヤツ 封じてる場所って、あんの?」


リビングの方に振り向いて、聞いてみたら

ハティたちは、5秒くらい無言になったけど

ボティスが「... 何故だ?」って 聞き返してきて

ちょっとかすめた 思い付きみたいな考えが

言いづらくなったんだぜ。


キュベレが、ダマーヴァンド山にある アジ=ダハーカの封を移動したのは、

封が、ペルシア... イランにあるままだと

善神の アフラ=マズダーの眼も届くから

封が解けないかもしれないし、封を解いても

すぐにまた 封じられる恐れもある。

下手したら、流れ着いた自分キュベレごと。


移動して、善神の眼をくらまして解けば

対処は 遅れる。今、その状態だし。


それだけじゃなく、他の封がある場所にも

アジ=ダハーカと移動して

アジ=ダハーカを使ってるみたいに

“自由にしてやるから 働け” って言えば...


けど、何も返さなくても、ボティスが

「... アコ。まず、地界の牢獄を」と

確認に行かせて

「テュポーン は?」「まさかだろ?」

「フェンリルやロキなども... 」って コワい顔で

オレらが口出せねーような 話し合いになった。


「どの神話にも、天や アフラ=マズダーのような

善の存在がいる。

キュベレは、一度に全部なんか 敵に回さないぜ?

善の側にも結託されちまうから。

もし そんな大きな事になれば、聖子も父に話す。

父が出て来れば、キュベレは

自分が封じられることも分かってる。

反抗するだろうし、地上も 壊滅するけど」


いやいや...


「しかし 万が一、泰河が 取られるようなことがあっても... でしょうか?

反物質と出会い、残ったもの など... 」


遠慮がちに 四郎が言うと、また みんな黙っちまったし。存在しないはずのもの だもんな...

鳥の観察してて、全然 話 聞いてなかった 泰河は

「沙耶ちゃんの土産さ、バリ猫がいいかな?

それか、葉っぱの皿にする?」って

チリ味の豆の袋を ペリ って開けてるけどさぁ。


「... “より厳重に封を” と、注意は促すべきだろう」


「オージンや ゼウスには、誰が?

ヴィシュヌは、そう 付き合いは... 」


「ベルゼか? だが どちらかと言えば... 」


ベルゼは、悪魔側だもんなぁ。

けど、ミカエルたち上級天使が 他界に出向くと

“御使いが来た” って、天にも話は入るし。

本当なら、皇帝が 相手を地界に招待する っていうのが、一番目立たねーんだろうけど。


「アフラ=マズダーに、使者を出して貰うことは

出来んのか?」


ボティスは、無茶言ってる気が するんだぜ。

ヴィシュヌや師匠も、ふだん そんなに

付き合いねーだろうしさぁ。


「アンラ=マンユが、アジ=ダハーカに乗る ってこと、ねぇよな?」


話が纏まる前に、朋樹が新たな不安要素を提示してきた。


「アンラ=マンユの元へは、ベルゼとベリアルが

話に行っている。

アジ=ダハーカやキュベレに乗るとすれば

ベルゼも皇帝も敵に回す... という事になる」


うん。なら、そういう心配は なさそうだよなぁ。


「他神界に、封の注意喚起をする事については

アフラ=マズダーに相談も出来るだろうが... 」


「キュベレ出して 巻き込んどいて、そこまで頼むのもな... 本当なら、天から使者を出すのが

一番いい」


「ジャタは?」


シェムハザが、とんでもねー 名前出してきたんだぜ。ミカエルが、“何 言ってんだよ?” みたいに見てるし。


「実際に、ジャタが キュベレを流している。

“何か良くないものを流し、アジ=ダハーカの封が解けた” と、メノイに伝言を頼ませたら どうだ?

宇宙樹が言うであれば、封の確認はするだろう」


「ジャタ とは?」


月夜見キミサマが聞くと、また みんな黙っちまったけど

「ジャタを介し、各界の使者を 島に招待し

封や、キュベレに利用されることに対し

改めて 注意を促すこととしよう」って

言ったハティが

「月夜見、ジャタを紹介しよう。

島に着いたら 喚ぶ」とか 付け加える。


普通に頷いてる月夜見キミサマに、榊が

「むっ...  月夜見尊。

ジャタ様は、大変に あらわであります方である故

驚かれませぬよう... 」って しどろもどろに注意して、ボティスとシェムハザが笑ってるけど

隣で 泰河が、チリ豆 食いながら

「いや、口とかケツから 食いもん出す... ってことは ねぇし、斬ったりはしねぇだろ」って

ぼそっと言った。


日本書紀で、口とかケツから 食いもん出して

月夜見キミサマもてなした保食神うけもちのかみは、月夜見キミサマに “無礼だ”って

斬られてるもんなぁ。

で、アマテラスさんに報告したら

“なんて事をしたのです!” って、逆に怒られて

“もう 一緒に居られません!”ってことで

月夜見キミサマは、月で暮らすことになった。


ハティがソファー を立つと、ジェイドが

「行くのか?」って 不安がる。


「また戻る。戻れぬ時は、パイモンに頼む」


ハティが、答えてから消えたら

ホッとしてやがるんだぜ。


豆ばっか食って 喉 渇くし

バーカウンターにビール取りに行く。

泰河に「ルカ、オレのも」って 言われながら

二本取って、ジェイドんとこに寄った。


「いつ 目覚めようかのう... 」


シェムハザお取り寄せの オレンジアイスティー

飲んでる 榊が、ニナの額を撫でる。


月夜見が、ニナの様子を見て

胸の下から膝くらいまで掛かってる シーツの上から、腹部に手を置く。

「内で 何かせめいでおるようではあるが...

暫し 時は掛かろうの。下手に手は加えぬ方が良い」と、ジェイドに言った。


「あたしが居る間に、ニナちゃんが起きてくれたら、嬉しいんだけど... 」って

朱里ちゃんも 心配そうに見てる。

朱里ちゃん、明日は仕事だから

今日の夜 帰るんだよなぁ...


「何かあったら、泰河づてに 連絡するよ」って

ジェイドが言ってるけど、不安げだしよ。


「朱里ちゃんさぁ、花風呂 入ってみねー?」


へらへらして言ってみたら

「そう。泰河が よく入るんだけどさ」って

朋樹が乗った。オレの手から ビールを取る。


「え? お風呂?」


こんな時に? って顔で、朱里ちゃんが きょとんとすると、泰河が

「おまえら、何 言ってんだよ。

朱里シュリ、無視していいからさ」って

自分で ビールを取りに来た。


イシャーは、花が似合うからじゃないのか?」

「榊は なかなかだった」


ミカエルやボティスまで言うと、榊が

「のっ」って 赤くなって

「いや、そのような事は、御二人の時に... 」って

四郎まで赤くなって止めてみてる。


「泰河 おまえ、独り占めする気か?」


ジェイドも乗ってみると、ビール開けてる泰河は

「するだろ!」つってるけど

シェムハザが指を鳴らすと、朱里ちゃんは

砂色のニットレースの三角ビキニ姿になったしぃ! 背中と 下のサイドは紐! 南国ぅ!!


「きゃあ、何!?」って 朱里ちゃんはビビってるけど、榊の指が サイドの紐に吸い寄せられる。


「何すんだよ?!」


泰河が眼ぇ剥いてるけど

「いい!!」

「朱里ちゃん、スタイルいいよなぁ」

「脚、長いよね。キレイだ」って

オレらが うんうん頷いてたら

「... こういう格好カッコ、久しぶりだよね?」って

朱里ちゃんも乗ってくれた。

リラ子と同じで、ショーパブ経験アリだもんなー。


「どうだ? 榊」


「ふむ... この膨らみの横顔の具合よ...

おお... 腹や尻の らいん など、スマホンで見た

異国人の如きに... 」


恍惚の顔で、紐いじってる榊が

ボティスに報告する。

褒められてる朱里ちゃんは、えへ って感じだけど

「ほう。これは なかなか... 」って

御神衣かんみその袖の中で 腕組んで観察する 月夜見キミサマ

かなり真近に居ることに気付いた泰河は

「おまえ、もう 風呂浸かっとけ」って

朱里ちゃんを引っ張って行って、花風呂に入れた。するすると 榊も ついて行く。


「おっ! かわいい!!」

「花風呂って、女のコ 浸けるためにあるんだ!」


明るい日差しの下で、赤や黄色、ピンクの花びら風呂に入ってる朱里ちゃんは

「花のオイルも入ってるのかな?

いい匂いするよ?」って、ニコニコしてて

すげー かわいいしぃ!


「ふむ! お前は明るく、健康的で良いのう」


泰河の隣で 榊が言うと、四郎も 膝から

顔を上げてみて

「おお、南蛮の雰囲気が似合われる... 」って

朱里ちゃんの爽やかさに 安心してるし。


「ふうん... 」


ファシエルのゾイで想像してみたらしいミカエルが、ニコって笑う。うん、かわいいだろーなぁ。


月夜見キミは、妻は居ないのか?」


ミカエルが聞いてみた時に、朱里ちゃんが ふざけて、花風呂から 片脚 上げてくれた。

サービスいいしぃ!


泰河は「やめろって... 」って、浴槽の縁 持って沈んだけど 「おおお!!」「美脚!」って

盛り上がってたら、脚に見惚れてる 榊が

月夜見尊きみさまには、各所々々に女神様等が居られる故、時折 通われ... 」って 口を滑らせた。


「“カクショ カクショ”?」

「女神様 “等”?」


「榊... 」って 呼ばれて、固まってるけど

まぁ、月夜見キミサマって 美形だもんなぁ。

シイナが居たら、朋樹やアコ放ったらかしで

鑑賞対象だと思うんだぜ。


「幽世には呼ばんのか?」

「女神等が嫉妬に狂うだろ?

ハンニャだらけになるからな」


シェムハザとボティスが笑ってたら

「柚葉が おろう? 父神に任されておるのだぞ?」

つってる。柚葉ちゃん、四郎と同じで 16歳だし

気ぃ使ってんのかな? 女のコだし。


「柚葉が居ない時は、女神達を呼んでたのか?」


ミカエルが聞いたら、答えねーけどさぁ。


「... ハティに喚ばれたようだ」


軽く咳払いした月夜見が

「榊、ハティの元に扉を開け」って

扉に入ろうとすると、シェムハザが

「ジャタに土産を」と、シャンパンを渡した。


木箱入りのシャンパンを受け取った月夜見は

「案ずるな。必ず目覚め、呪も解けよう」と

ジェイドに言って、扉に入って行った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る