27
「ゾーイー」って喚ぶと、部屋の窓の前にゾイが立つ。
ダッフル着て、細いジーパンに ミドルブーツ。
「ルカ。私、今 お店から沙耶夏と帰ったとこだったんだけど。お風呂中に喚ん... 」
普通に喋ってる途中で、泡の向こうにミカエルを見つけて「こ んばんは... 」って 赤くなった。
「店が終わったばっかりだったのか?」
琉地を片腕に、ニコニコして ミカエルが聞く。
「マジかぁ」「おつかれー」って言ったオレらの言葉は、ゾイに届かなかったらしく
俯いたまま「はい... 」って かわいく答えてるんだぜ。
「フランスに行って来たんだ。
お前にも話しとこうかと思って」
「あっ、リラの祖母の家系ですね?」
ゾイが顔を上げる。
「ゾイさぁ、もうちょっと こっち来たら?
遠くね? 話しづらいしー」
「そこにあるタオル敷いてさ」
... って言っても、そりゃ来づらいよなぁ。
オレらは何ともねーだろーけど
だって 風呂ミカエルだしさぁ。
つか、下手すりゃ セクハラじゃね?
外から見れば、風呂に浸かった男三人とコヨーテと、服着た男 一人だけどー。
「入る?」
ミカエルっ?!
「んなっ?!」「おいぃっ!!」と
オレと泰河は焦ったけど、ゾイは
「あっ、いえ... もし戻ったら悪いので... 」って
大して照れもせずに答えた。
「そっか。今、翼 泡だらけだしな」
ええー... って 黙っちまったら
ゾイが、“あっ、そっか” って顔して
「天では、男女の別なく 泉で水浴びするんだよ」とか 説明しながら、バスタオル持って来て
オレらとミカエルの間くらいに敷いて座った。
混浴かよ...
「いやいや... 」
「それ、とんでもねぇことにならねぇの?」
「なんで、水浴びでなるんだよ?」って
逆に ミカエルに聞かれる。
「えっ?」「そりゃ、だって... 」
「人間みたいな性欲はないんだぜ?」
ミカエルが言うと、ゾイも頷いて
「裸を見て、身体が単純に反応する ってことはないよ。しようと思えばコントロール出来るけど」とか、なんか つまんねーこと言うし。
「じゃあ、シェムハザたちは何なんだよ?」
「相手は “人間の娘” だから。血肉があるし。
だけど彼等も、ただ性欲を
婚姻したんだよ? 恋したんだ」
「天使同士だと 霊的存在だから、心。愛だ」って
ミカエルも説明すると
ゾイがちょっと微妙な顔付きになった。なんだろ?
「けど、ミカ...
いや、バラキエル時のボティスは?」
「相手に合わせて、コントロールしたんだろ」と
ミカエルが ちょっと眼を反らす。
“やってみたことある” つってたもんなー...
しかし、相手は心だったのかよ。
ボティスもミカエルもさぁ...
「じゃあ、好きなヤツの裸だったら?」
泰河が 単なる疑問って感じで聞くと、ゾイが
「水浴びでは 無いんじゃないかな?
皆で 一緒に食事をしたり、楽園で過ごす感覚と変わらないから。裸ってだけだし」と
もう良く分かんねー 答え出してきた。
けど、さっき ミカエルに
“風呂 上がるなよ” って言ったら
“うん” って言ってたよな?
モレクん時、貸し別荘に ゾイ喚ぶ前に
ボティスが風呂から ミカエル上げてたし...
けど、裸だからっていう問題じゃないのか?
「でも地上じゃ、性別で入浴も別々だっていうのは 分かってるぜ。人間は造りが違うから」って
ミカエルが言う。
うん。だからそういう堕落もするんだもんなー。
「ここでは、お前等しかいないし
泡が面白いから、いいかと思ったんだ」
ん? 泡風呂だから、誘おうと思って
上がらなかったってこと?
「うん、泡のお風呂なんて 面白いですね」と
バルコニーの床に
「あれっ? ミカエル、ゾイが男に近付いて
元に戻っちまうの 警戒してなかった?」って
聞いたら「してるぜ?」って ミカエルが答えた。
ゾイは、恥ずかしそうに
「水もらってくるね」と、一度 部屋に入ってく。
つまり、一緒に風呂 が、一緒に飯 とかするのと変わらない感覚だとしても
オレとか泰河は、ミカエルの警戒対象から外れたってことかぁ。
いやそれ、男としては どうなんだよ...
「俺、下級天使と水浴びしたことなくてさ。
食事も話もないけど」
一向に無くならねー 泡 見ながら
ミカエルが 独り言みたいに言った。
「そりゃさ、下級天使たちの方が遠慮するんじゃねぇの? 話すことも違うだろうしさ」
「しかも、別に問題なくね?」
「うん」
何なんだよ... 水 飲む泰河と眼が合う。
ただ、ちょっと思ったのは
ゾイがファシエルに戻っちまうのって
オレらの感覚とは少し違って、もっと純粋に
“嬉しい” のかな って気がした。
オレが知ってる内では、ゾイが戻ったのは
ミカエルに 眼を見られた時と、
指の切り傷の治療に 額にキスされた時。
よろけた時に支えた時も 戻ったらしいけどー。
恋として好きなんだろうから、戻っちまう。
ミカエルが男型だから、女型のファシエルに。
だから、性別の意識もあるとは思うんだよな。
けど 水浴びの話 聞いて、それより
“ミカエルが支えてくれた” とか
喜ぶ気持ちで戻っちまうのかな... って気ぃした。
触れた って身体のことより、心が喜びに動いて。
「でも、さっきは」と、ミカエルは 手のひらに乗せた泡を 琉地の頭に盛った。アフロっぽい。
「下級天使だから、誘ったんじゃない気がする」
おうっ?! また泰河と眼が合う。
顎ヒゲまで泡に埋まってやがる。
「... ゾイ だから?」
完璧に顎まで埋まりながら 泰河が聞く。
横に置いてた水の瓶持ったら、泡で滑って落とし掛けるし。あぶねー。
「うん、そうかも」
くっ... なんか嬉しいぜ ちきしょう。
泰河とガシッと握手したら、ゾイが戻って来た。
「水もらったよ。冬でも水分とらないとね」
瓶の蓋 開けて「どうぞ... 」って 照れながらミカエルに渡してる。
うーん... はにかむ男なんだけどさぁ。
「うん」って受け取ったミカエルは
「今、お前のこと... 」と 言い掛けて
「教会でのこと... 」と 言ったゾイと被り
「あっ、そうだ! 神父が悪魔に憑かれてたんだ」って、そっちの話になっちまった。
うーん... 大切な話なんだけど、あと二分くらい後でも...
ミカエルが ゾイに話す間に、泰河と
「どうなんだよ?」「いやキタだろ これ」って
小声で話す。
「だよな」「後は 見守るのみだな」
さっきの水 飲み干して、ゾイに蓋を開けてもらえなかったオレらは、また泡まみれの水 飲むことになったけど、もう自然と顔が ふやけるし。
「... リラの髪や眼は、黒だったよね?」
ミカエルが話した神父の話から、先祖の罪の贖いや、それによって髪の色が戻ることを知ったゾイが、オレと泰河に聞く。
「けどエデンでは、最初は違ったぜ」
「天で眠る今は 黒髪だけどな」
「身体がないと、ブロンドなのかな?」
自分の分の水を開けながら ゾイが首を傾げる。
「いや... ルカが精霊で抱きしめたら
髪と眼の色が変わったんだ」
そうなんだよな...
「仮説だけど、幽体の時は 召された時の姿なのかもな」と、ミカエルが考えながら言った。
「じゃあ、ルカの精霊で変わったのは?」
「ルカが抱きしめたから、預言者の自分を思い出したんじゃないか?」
あっ そうか。
預言者の記憶は、亡くなった後 ってことか...
「だけど それだと、ザドキエルが魂の記憶で造った、預言者のリラの身体の髪や眼の色が すでに黒かったのは... 」と、ゾイは話しながら
「そっか... “魂の記憶” だからかもしれない」と
途中で言い換えた。 わかんねーしー。
「えー? どーいうことー?」
「だって、元々は黒髪に黒い眼だから。
遺伝情報を含む “魂の記憶” は、元の色。
生まれてから、先祖の罪... 相手からの呪いで
髪や眼の色が変えられた。
亡くなった時はブロンドでグリーンの眼だったから、幽体... 解りやすく言うと、
亡くなった時の姿なのかもしれない」
「おお!」「それじゃね?!」
... ってことは
今、天で 黒髪黒眼だからといっても
贖罪が成った訳じゃねーんだよな。
元の魂の情報から作った、預言者の記憶の姿ってことか。オレが会ったリラだ。
そもそも、リラを繋いでた海の蛇神だが何だかが
目覚めを妨害してる恐れがあるんだし
リラの従兄弟の娘さんも、まだブロンドのままだ。罪は贖われてないってことだろう。
けど、どれだけ犠牲にすりゃ贖われるんだよ...
犠牲を止めるには、その蛇をやるしかないのか?
蛇は、大地の女神の 失われた身体を取り戻すつもりなんだよな?
何人も犠牲になったけど、それには まだ足りてない ってことかよ?
ならなんで、最初から足りるだけの犠牲...
一度に何人もの犠牲は 出そうとしないんだ?
いや、出されちゃ困るけどさぁ。
「フランスのジャンヌの家系の奴等に催眠で話を聞いた時も、お前等と教会で神父に聞いた話と合致した。
“ブロンドになる髪” は、“先祖の罪” で
“何故か皆、犠牲を選ぶ”。
何故か、というのは、
フランスでは、他に情報は取れなかったけど
ジャンヌの家系図から遡って
先祖は、バスク地方の出身だと突き止めた」
ミカエルが話した後、ゾイがシルバーの眼を
軽く見開いて
「じゃあ、
「本当に “シュガール” だという恐れがある。
身体を失ったのは、“マリ” という女神」と頷いた。
「じゃ、バスク神話の神 ってこと?」
シュガールって、雷とか嵐の神だって
言ってなかったっけ?
マリって女神は、配偶神なんだろうか?
春に地上で交わるって言ってた気がする。
「
“水蛇” なんだろ? 可能性は高いよな」
「フランスやスペインから
「ジャンヌが移動したからだろうな」
ミカエルが言うと、ゾイが
「私だって、フランスに出現 出来るから
距離は 関係ないかもしれない。
海は繋がっているし」と、肩を竦めた。
「けど、日本神は 日本にいるしさ
バスクの神なら バスクにいるんじゃねぇの?」
「日本の神でも、他国に日本人が居たり
自分の社があれば、降りることはあるんじゃないのか?
それに バスク神話の神は、人神というより “精霊” の方が近い。
ルカが縁を持った、アメリカの精霊も喚べば来るだろ? アリゾナ付近の精霊なのに。
あの辺りの先住民たちの神なんだぜ?
琉地は あちこちに行ってるしな」
琉地は、頭のアフロ泡は消えたけど
泡に鼻先 突っ込んで、鼻上げて ブルブルした。
泡 撒き散らして遊ぶことにしたらしい。
“コヨーテの精霊” なぁ...
「万が一 として聞くけどさぁ
それ、殺っちまう とかになんの?」
「まぁ、天からは バスクの神も、悪魔と見なされてるけど、俺には 滅ぼせない。
人間の信仰があるし、天の法も犯してないしな」
「じゃあ、そいつを見つけたら どうすりゃいいんだ? 契約破棄?」
泰河が眉しかめながら言うけど
話、通じんのかな?... って 思うんだよなぁ。
天や地界にも法があるように、多神界にも
それぞれの法があるんじゃないか と思う。
で、同じ 地上に干渉するために相互に条約みたいなものもあるんだろうけど
この贖罪は、その条約を犯してないから どこも動かないんじゃねーの?
むしろ、“信徒の魂だ” っていう 天の法で条約を侵してるのは、天なんじゃないか?
泰河に「いや。贖罪だから “契約” じゃないな」と
説明したミカエルに
オレが 今 考えたことを言ってみると
「うん、そうだな。でも実際に 信徒の魂なら、天の管轄だから問題はない」って言う。
「ならさぁ、“贖罪だ”、“いや信徒の魂だ”... って
お互い 言い分を通すことになるってこと?」
ゾイが ミカエルを遠慮がちに見た。
何て言うか予測がついてるような感じで。
ミカエルは、琉地が撒き散らした泡を頭や頬に付けたまま
「いや、それじゃあ何の解決にもならないだろ?
罪の繋がりを強制解除する」と 言った。
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