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ルカとテントに戻ると、ミカエルも戻ってきていた。アコはまだ話を聞いたりしているらしい。


「参加者が入ってきたんだろ?」と

式鬼に報告を受けた朋樹が オレらに聞く。


「そ」

「あと、パーティーコンパニオン」


「そんなもんまで、マジか... 」


召喚円を敷き終えたジェイドも戻って来ると

ボティスが「一度 見て来るか」と テントから出て、ジェイドに参加者リストの紙を渡す。

「オレも」と言う朋樹と、森を歩いて行った。


「アコとシェムハザが様子を見てるけど、全員が状況は把握しておくことだな」


ミカエルが言い、ジェイドが

「僕らも、ちょくちょく見に行かないとね」と

リストに目を通している。


「ボティスは?」と、アコが戻って来て

「今、朋樹と 広場を見に行ったぜ」と 答えると

ジェイドの手からリストを受け取り、名前の箇所に指を触れていく。


「今の時点で、広場にいる奴に 印を付けた」と

ジェイドにリストを返し

「ボティスと話してくる」と、フードを被って

また消えた。


「名前から察するに、女性も結構 参加してるね」


「社長さんとか、そういうの?」


女の人って、子供がいたりすると 男みたいには働きづらい気がするんだけどな...

子供や旦那が、母親が家にいることを望むんじゃないかと思う。


「会社経営してる人もいるけど、社長夫人や飲食店の経営者もいる。

飲食店といっても、一流クラブとか。

人脈は多いだろうからね」


「社長夫人って... 」


ルカが呆気に取られた顔をする。


「妻の方から崩すんだろ。

それと、男女比のバランス」


まったくなぁ...


「皇帝たちは、どの時点で喚ぶんだ?」と 聞くと

「もし生贄が捧げられるなら、その前」らしい。


「モレクが顕れる前でも、生贄は救出するけど

ベルゼブブは、近くにモレクが来れば分かる。

大部分の魂を吸収してるからな」


「けどさ、生贄って 本当に... ?」


どうもさ、無理がある気がするんだよな。

子供が 一人いなくなるなんて、大事件だ。


「人の生贄なしの崇拝の場合もある。

ただ 今回は、モレクに余裕がある訳じゃない。

黒蝗クロイナゴそそのかして、火に通させようとするだろう」


「どうやって?」


「出生届けが出されていない場合や、海外から 売買で手に入れて」


いや...  日本だぜ、ここ。


オレの疑問の顔付きを見て

「そういった問題が、表に出ない程度には治安がいい とされている国だからな」と

ミカエルは言った。


シェムハザが戻って来て

「ボティスの軍の悪魔等も見張りに着いたが

俺とアコが交代でみる。

別荘のハティにも報せを出した」と

アコのように、ジェイドの手のリストに指を当て

参加している人の名前に印を付けた。


「冷えて来たな。ディル、カップ」と

温めてあるカップを取り寄せ、薪ストーブの上の鍋からチキンスープを注いで、オレらに配ってくれる。


「今のところは、コンパニオンに誘導され

テントの下で酒を片手に、参加者同士が知り合っている。

皆、自分のビジネスに益になりそうな者を 話で探っているところだ」


それが参加者の 本来の目的だもんな。

そのために、こんな山の上まで来たんだろうしさ。


「最近、よく肉 食うな」


ミカエルが、スープの柔らかい鶏肉 食いながら

のんびりと言っている。


「そうか。しばらく降りてなかったもんな」


シェムハザが答えた後に

「えっ? 普段 肉 食わねぇの?」と ルカが聞くと

ミカエルは「天ではな」と、スープを飲みながら頷いた。


「いつも何 食ってんの?」と オレも聞いてみると

「パンとフルーツ。好きなヤツは野菜」らしい。


「本当なら 何も食わなくても平気だし、元々 食い物としてあるのは、マナや川のミルク、蜜とフルーツだ。

でも 楽しみのために、ワインやパンは父が許可した。聖子が天に昇ってからだ。

話し合いの時なんかも 同じテーブルで食いながらだと、スムーズに話しが進んでいくだろ?」


「動物なども食べていいのか?」と、ジェイドも聞くと「地上でならな」と 答えた。


「それぞれ、身体や魂に 必要なものは違う。

人間には蛋白質も必要なように

悪魔にも、人間の魂は 適度に必要だ。

悪魔に耳を貸して、堕落することは良くない と戒められるが、合意の契約であれば違う」


人間が、自由意志で選ぶなら ということだろう。


それで言うと、神に仕える朋樹やジェイドは

神と契約しているということになるのか?


いや。日本神も ミカエルたちの天から見れば、悪魔だ。


ん...?  でも、日本神は偶像じゃないよな?

神社の依り代... 神器の鏡や剣、玉、時々は巫女に

一時的に降りるんだし、自然神の場合は 滝や巨石が御神体そのもの場合もある。


仏教は、仏像があるけど

それは 最初からじゃないんだよな。

もちろん、釈迦の教えが第一にあるけど

最初は、仏舎利... 釈迦の遺骨や、仏足石に手を合わせてた。

仏像が造られるようになったのは、ギリシャなどから彫刻の文化を取り入れてからだ。


そもそも、釈迦は覚者... 目覚めた人 であって

元は人間だ。イエスと同じ。

しかも “神” じゃないしな。


仏教の世界なら、宇宙そのものや 万物の創造者は

“梵天”。

インドのヒンドゥー教の “ブラフマン” が 仏教に取り入れられて、この梵天となった。

これが密教になると、“大日如来” となる。


考えてる途中で、ボティスと朋樹が戻って来て

参加者リスト見ながら、スープを受け取っている。

参加者達は変わりなく、酒飲んで話してるらしいので、オレはまだ 考えを続けることにした。


ブラフマンは、ブラフマーとも同一 といわれる創造者であり、世界が混沌に陥った時に 地上に降りるという “ヴィシュヌ” ... 維持者と再生のための破壊者 “シヴァ” との 三神一体の神の 一柱だ。

儀式や生贄によって、物質世界を変える力のことともいわれる。


あれ? キリスト教も “三位一体” だよな?

主... 創造主である聖父と、聖子のイエス、聖父が地上に何らかの働きかけをする 聖霊。


イエスが ヨルダン川で洗礼を受けた時、頭に白い鳩の形の聖霊が注がれた って話もあるけど、ノアの時代の大洪水や 過ぎ越しのことも、聖霊... 聖父の働きかけの 一つと取れば、破壊と再生で、聖霊はシヴァの位置とも当て嵌められる。


日本神話なら どうなんだっけ?

創造主って、イザナギとイザナミになるのか?

けど それって、日本列島だけだよな?


気になって、朋樹に聞いてみると

モレクが出て来たら対策の細かいとこを話し合っていたらしく

「何の話だよ、おまえは」と 呆れられた。


「あ、オレは 何すんの?」と聞くと

「いや、モレクが出てきて すぐの段階では 特に... 」と、使えん ってことを濁され

別天神ことあまつかみのことか?」と、面倒くさそうに言った。


「古事記によると “天地初めて発けし時、高天の原に成れる神の名は、天之御中主神あめのみなかぬしのかみ” だ。

世界の最初は、天と地もないような混沌だったが

天地の境が認められた時、天之御中主神が誕生した。この神が、高天原の中心に位置付けられるらしい。

でも 天之御中主神の名は、日本書紀には出てこない。そこは まぁ、置いておくとして

更に、高御産巣日神たかみむすひのかみ神産巣日神かむむひのかみが生まれ

この三柱の神が、“造化三神ぞうかさんしん” と呼ばれる。

これが最初の高天原の神だ」


「あっ、そうか。造化三神っていたよな!」


うん、スッキリしたぜ。... したけど、造化三神は

世界を創造した訳じゃなくて、天と地の境が ついたときに 生まれた... ってことか。

創世記なら、2日目くらいの時期かもしれない。

水が 空の上と下に分かれたという 天が出来た時。


3日目は、陸と海が区別され

陸には植物が生え出す。


「まだ若く頼りない地上に生まれたのが

宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこぢのかみ” と “天之常立神あめのとこたちのかみ” だ。

この地上の 二柱の神と、さっきの高天原の造化三神を合わせた五柱の神が、“別天神ことあまつかみ” と呼ばれるが

独神ひとりがみだったから、姿を隠してしまった」


「隠してどうしたんだよ?」と、ミカエルが話に入ってきた。

コーヒー持って マシュマロ食ってるし、オレもシェムハザにコーヒーもらう。


「さあ」と、朋樹が首を傾げる。

「最初の方の神は、双神ならびかみ... 兄妹神や夫婦神でなく

独神だと、なんか すぐに隠れちまうんだよな。

“独神となりまして、身を隠したまひき” って。

別天神の後に生まれた 神代七代かみよななよまでは。

国之常立神くにのとこたちのかみ豊雲野神とよくものかみも、独神だったから隠れたけど、隠れた後の記載もねぇし」


古事記の神代七代では、独神は 特別な国津神といわれる 国之常立神と、雲が覆う豊かな野を表す 豊雲野神。


兄妹神が、泥土の神の

宇比地遲うひぢに... 男神と 須比智遲すひぢに... 女神。


芽生える兆しの 角杙神つのぐひのかみ... 男神と

生命力に溢れる兆しの 活杙神いくぐひのかみ... 女神。


立派な男根の意富斗能地神おほとのぢのかみ

立派な女陰の大斗乃弁神おほとのべのかみ


身体の備わった於母陀流神おもだるのかみ... 男神と

身体が備わって恐れ多い阿夜可志古泥神あやかしこねのかみ... 女神。


そして夫婦神、国生みと神生みの “誘う神”

伊邪那岐いざなぎ伊邪那美いざなみ


独神は 一柱で 一代、兄妹神や夫婦神の男女対の神は、二柱で一代と数え、ここまでを神代七代と呼ぶ。


「じゃあ、隠れなかったペアの神は?」と聞く

ミカエルに、朋樹が「それぞれの役割を担ったり

この国の国土や、別の神を生むことになる」と

簡単に説明を初めているが

オレは またここで、勝手に 日本神話を 創世記に当て嵌めてみることにした。


国之常立神と豊雲野神が

創世記3日目の 陸と海が区別されて、陸には植物が生えたところくらいの時期 としてみる。


日本神話では、人も動物も いつの間にか地上に

勝手に生えてる。そう、あれ。青人草あをひとくさだ。

16億年前に 共通祖先から、植物と動物が分岐した

... って 聞いたしな。


4日目の太陽と月、昼と夜の区別のところくらいに、泥土の神の宇比地遲と 須比智遲。

5日目の水中生物と鳥が造られるとこくらいに

芽生える角杙神と、生命力の活杙神。


6日目に動物と人が造られた後

... イシュ、アダムの肋骨を抜いて

イシャー、エバも造られるところくらいに

男根の意富斗能地神と 女陰の大斗乃弁神。

身体の備わった 於母陀流神と

身体が備わった上に 恐れ多い阿夜可志古泥神。

夫婦神、“誘う神” の、伊邪那岐と 伊邪那美。


エデンで罪を犯したアダムとエバが追放され

地上に子孫が広がっていくところが

伊邪那岐と 伊邪那美の国生みや神生み。


さらに こじつけてみるなら

迦具土神を生んだ伊邪那美が、死んで 黄泉国に入ったところが、皇帝たちの堕天で、

イエスが生まれるところが、ニニギノミコト

天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命あめにきしくににきしあまちあひこひこほのににぎのみこと

天孫降臨...  いや、ちょっと無理あるか?


じゃあ、仏教の覚者 ゴータマ・シッダルタが

イエスなら...


「よし、じゃあオレら 先に行って来るしー。

計画 立って、オレとか泰河が出来ることあったら

やるしさぁ」


ルカが立って「行くぜ、泰河」と フードを被る。

いつの間にか シェムハザがいなくて、アコが座ってスープ飲んでた。


「え? コンビニ?」


「いや広場の状況把握だし。早くフード被れよ。

おまえ、ただでさえヒゲだしさぁ」


「おう」


そうだ、儀式なんだよな。フードを被ると

ブーツの踵に触れ、しゃっ とスパイクを出して

またルカと森へ入った。






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