23
シェムハザが指を鳴らして、松明やモレク像の火を消し、ミカエルがエデンの
ふわふわと浮く狐火と共に広場を出て 貸し別荘があるキャンプ場に着くと、露を抱いたアコが、広場で儀式していた人たちに説教をしていた。
「何かを犠牲にして、願いを叶えるのは間違ってる! 乱交したいだけなら、神を巻き込むな!
誰かの部屋とか、そういう店で... 」
「アコ」
ボティスが近付くと、カッカした顔のアコが振り向き、アコの肩から 露がボティスに飛び付いた。
「ボティス!
広場からハダカのまま出て来た こいつ等に
話してたんだ。恥ずかしいだろ?」
露が広場から出て来ると、シェムハザが露に憑依して広場に入ったが
アコは、広場入り口で待機していたらしい。
「逃げるように出て来て、“服が” って 泣き出す奴までいて」
服を掴まず逃げた人たちは、スウェットの上下を着せられていた。配下に買って来させたようだ。
アコ 一人でも、普通の人たちから見ると 人間とは違う気配を感じるようで、だいぶ萎縮していたが、シェムハザやボティスを見ると 余計に顔が緊張し出した。
アコやシェムハザが、地上に紛れようとする時のように 自分の本来の気配を隠してないからかもしれない。注意喚起する気のようだ。
アコは「こいつが画策したんだ」と
神主の正服姿の男を指差した。
「“
自分で喚ぼうとしてた。
富も与えてくれるけど、予知が出来る神だから
“予言者になりたかった” ってさ。
寺が建ってた跡地に、モレク像が建ったのを
自分に対する天啓だと勘違いしたんだ」
正服姿の男は、バツが悪そうに俯いている。
今、恥ずかしいだろうな...
しかし、すごい勘違いだよな。
自分が建てたんじゃないのにさ。
「参加者は、インターネットのサイトの恋人探しするサイトから、メールで声を掛けて集めた って」
出会い系サイトみたいなやつか...
まだあんのか、そういうの。
「集まったやつ等は、儀式って言い訳で乱交したかっただけ。
願いを叶えたきゃ、自分の魂を賭けろ。
乱交は言い訳せずにやれ、合意は絶対だ って
説教してたんだ」
「そうか、
何故 人形に、子供の魂を籠めた?」
ボティスが質問すると、正服の男と
スウェットの女の人の 一人が顔色を変えた。
「答えろ」と、アコが命じる。
アコが意志を持って命じると、何故か皆 言うことを聞く。アコの能力らしい。
正服の男が「... 神託を賜って」と 口を開いた。
「“神託”? あんたに?
神職でも何でもねぇだろ?」
朋樹が苛立ち、小バカにした調子で言った。
「人形に魂込めしたのは誰だ?
あんたじゃないな?」
「それは、込めた訳じゃない。籠っていたんだ。
“人形が動く” と、相談を受けて... 」
どうやら正服の男は、教祖のような存在らしい。
そういう感は 多少あるみたいだ。
狐女様を降ろすため、立川流を再生させる と新興宗教モドキを 立ち上げしたところだったという。
人形が動くと 相談をしたのは、持ち主の女の人だ。
この儀式に参加することを決めていた。
亡くなった娘さんの人形のようだが、それを持ってきて、乱交儀式に参加する というのが どういう神経なのか 理解不能だ。
その子の魂は怯えていた。
いやな想像に胸くそ悪くなる。
「ほう、なかなかだ。よく子など成したものだ。
お前のような女になど、靴の裏でしか触れる気がせんがな」
ボティスに
ルカが苛ついた顔をしたので止めておく。
オレは、早く話を済ませたかった。
こういうヤツと、長く一緒に居たくない。
「何故、子を軽視する?
弱いのだから、護るのは当然のことだ。
この国は、昔から そういった話も多い。
小さくても物ではない と 分かっているのか?
すぐに お前達のように成長する。
簡単に人形に籠った魂を、贄に出そうとしたな?
自分の子の魂だろう?」
シェムハザが話すと
女の人は、また顔色を青く変えた。
「贄は、祓いで 天や幽世に
繋ぎから解放するのとも違う。
俺等がするように 魂は喰われるんだ。
アコが言うように、不当に何かを叶えたいのなら、自らの生命を賭けろ。
他人の魂などでは、誰も契約は結ばん。
生贄を要求する神を崇拝するなら、自らが
死後でも予言者にはなれる。神託を賜る側ではなく、与える側として。より名誉だろう?」
シェムハザが正服の男に眼を移して言うと
“俺等がするように” という言葉に
皆キョトンとし、何人かは シェムハザが真面目に話していることをバカにするように ニヤケ出した。
ルカが「地」と 全員拘束し、シェムハザが指を鳴らすと、バシャッと何かが掛けられ、全員 真っ赤に染まった。
騒ぎ出すと「黙れ」と、ボティスが声を奪う。
「何だ?」と オレが聞くと
「パイモンが造った人造血液だ」って答えられて
それ以上は聞かなかった。なんか怖ぇしさ。
悪魔的実験もいろいろやってるみたいだ。
「さて、もう 一つ質問する。
何故、その人形を贄として出した?
タチカワ流とやらは、贄は不要なんだろ?」
ボティスは「答えろ」と
正服の男だけ術を解いた。
「... 本当に、誰かが囁いたんだ。
“あの祭壇で人形ごと魂を供養すれば、神が降りる” と」
「“誰か”?」
「そうだ。周囲には、誰もいなかったのに。
山頂の神の像のことも、その
********
「“囁いた”?」
「話によるとな。モレクだろ。
儀式を
貸し別荘に戻ると、エデンからミカエルが降りて
ソファーで ふてくされ気味に待っていた。
オレらが戻るのが遅かったから。
シェムハザが 高級チョコやコーヒー、ミカエルにマシュマロとケーキ、露にはサーモンを取り寄せ
「ミカエル、聞いてくれ! 俺は あいつ等に説教してやったんだ!」と、アコが喋りまくった。
「そうだ、アコ。お前は ずっと異教神避けの外に居たもんな。説教もして えらかったな」と
なんとなく機嫌は直って、今は ボティスと話している。オレらは、ダイニングテーブルだ。
ミカエルが片方のソファーに寝そべってるから。
「なんか疲れたけど、達成感あるよな」
「浅黄が戻ったからね」
さっき外では、儀式してたヤツらと居て
気分悪かったけど、浅黄が戻ったことを話していると、明るい気分になってきた。
モレクのことは終わってないのに、やりきった感すらある。
けど、別荘に戻ってからホッとしたことを考えると、ミカエルがいるからかもな... と 少し思う。
一緒にいると 空間が柔らかいんだよな。
時々こうして、ミカエルは天使なんだ ってことを実感する。
「ミカエルってさぁ、もうアコとかシェムハザが
悪魔ってことは、もう別にいいみたいだよなー」
無理にソファーに座ったアコの膝に
くせっ毛の頭を乗せた ミカエルを見ながら
ルカが言うと、朋樹が
「いいんじゃねぇの? ミカエルも “地上勢力” だし。やりやすいしな」と 平和に あくびした。
「確かに。けど、べリアルとかパイモンとかとは
難しそうだよな」と言って コーヒー飲んだら
「まあね。僕らもフォローしていくしかないだろうね」と ジェイドが 高級チョコをつまむ。
「しかしさ、お前 すげぇよな... 」
朋樹がジェイドを見て言った。
たぶん、皇帝のことだろう。
「そ! オレも ちょっとキタんだけどー」
ルカにオレも頷く。皇帝、言葉 失ってたもんな。
「そう? だって、誰かが愛したって
ルシファーが父を求める場所を、埋められる訳じゃないじゃないか。ただ正直に言っただけだ。
僕は、彼の
「いや、皇帝と居てさ、飲み込まれないのが
まず すげぇと思うぜ」
「泰河は侵食され過ぎだろ」
「うるせぇな、
「ああ、オレねー。皇帝さぁ、思念すげーの!
ミカエルの加護ついても、まだ これだもんなぁ」
そうだよな。オレら、ミカエルの加護付きでも
これなんだからさ。
普通の人だと確実に惹かれる。いや。イカれる。
怖い人だぜ マジで。
「お前等、またルシフェルの話かよ?」
ミカエルが ブロンドの睫毛をしかめている。
「こっち来いよ」と、アコが オレらを誘い
「ミカエル、みんな座れないじゃないか」と
寝そべっているミカエルを起こした。
「いやほら、皇帝って あーいう人だからさぁ」
「そう。侵食の話だって」
「ふうん」
ボティスとシェムハザは 放っておく方針らしい。
「落ち着いたら、里の広場で... 」とか
露を間にして、何か話している。
「ミカエルさ、なんでそんなに拗ねるんだよ?」
「僕らは ミカエルが大好きなのに」
「へえ。なんで?」
まだ拗ねているミカエルに
「コドモみたいで かわいいから」と アコが言う。
「何ぃ? お前が言うのかよ?!」
「俺よりコドモみたいじゃないか。
皇帝が大人だから、余計に妬くんだな?
ミカエル、女知らずだもんな」
「知ってるぜ!」
あっ! ... と、思ったが もう遅い。
朋樹とジェイドが、胸に穴が空いたようなツラになった。
「ミカエル... ?」
「嘘だよな?」
「いや違うって! ミカエルは誘惑されただけなんだって!! 何千年か前のことなんだぜ!」
ルカが弁解するが、二人のショックは でかい。
座ったまま目眩を起こしたようだ。わかるぜ...
「そんなの、知ってる内に入らないだろ?
ミカエルは遊ぶような奴じゃないけど
相手に応えただけだ。自分の心が伴ってない」
おお、アコ... この辺は違うな...
「しょうがないだろ!
俺は、ルシフェルとは 逆に造られてるんだし!」
「そうかもしれんが
“自分だけの誰かが居たらいい” と考えるようになったってことは、お前が 以前とは変わった ってことだろ?」
ボティスが口を挟むと
ミカエルは、ブロンド睫毛の碧眼を見開いた。
「そうかも!」
「そうだ。これからは わからないじゃないか。
是非お前が恋する顔が見たいものだ」
シェムハザが輝いて言うと、多少 照れたらしく
「うん。シェムハザ、ワイン!」と
取り寄せさせている。
「俺は、今のミカエルが好きだけどな。
かわいい って、褒め言葉なんだぞ」
「うん、言葉自体は悪い気しないな。
今までは 言われたことないし」
参考までに「今までは?」と聞くと
「決まってるだろ? “ミカエルよ!” “素敵!” だ」と、ボティスが ふざけて答えた。
「“ミカエル” というのが、もう誉め言葉だからな。“ミカエルみたい” “ミカエルのようになれたら”
という具合だ」
シェムハザも付け加えると
「お前みたいに容姿じゃないけどな」と
ミカエルが さらっと返す。すげぇ。
「例えばだけど、どんな子と恋したいと思う?」
ジェイドのさりげない質問に
オレとルカは、思わず軽く身を乗り出した。
「うーん... 押してくると 違うし
聞いてないのに、自分のことばっかり話してくるのも違う。俺が自分の話を聞いて欲しくなる子」
そうか。アピールしてくる子 多いだろうしな。
話を楽しそうに聞いてくれる子って、嬉しくなるもんな。わかるぜ。ルカも隣で ふんふん頷く。
で?
「護りたくなる子 かな?
守護じゃないぜ? “俺が” って」
うん、それ ある。なんかもう全員 頷く。
「とにかく、俺だけの子 って思う子なんだよ」
「そう」
「もう、それだよな」
ワイン飲んで明け方まで話したけど
結局、ふわっとした恋人イメージを
“わかるわかる!” って感じで 分かり合って
満足して寝ちまった。
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