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「おまえら 昨日、どうだったんだよ?」


「ああ... 」

「疲れたね... 」


ボティスと露ミカエルが「里に行く」って言うから、朋樹たちが送って

オレとルカは、ジェイドの家で待ってた。


最近、全員が全員の家の鍵と召喚部屋の鍵 持ってて、何か良くわからねぇ状態だ。


二人が戻って来たから、昨日のこと聞いてみてる。

祭壇トフェト見に行く準備しとけよ” って言われて

朋樹は 霊符とか式鬼札作ったり

ジェイドは、聖油や聖水を瓶に詰めまくりながら。


「僕は、ルシファーが帰った後で

朋樹に気枯れ式鬼を打ってもらったくらいだ」

「長く近くにいると、侵食されるよな。

オレは 結界 張れるから、まだマシだけどよ」


ボティスとチェスしてる間

皇帝は、終始ご機嫌だったらしい。

“地界では、こうはいかん” と

束の間の自由も満喫してたようだ。


「ジェイド、おまえさぁ

皇帝の対応の方針、変えたよな?」


「そうなんだ。突っぱねると燃えるようだからね。自分の首は絞めないことにしてる」


なるほどなぁ。


祭壇トフェトって、一の山より向こうなんだろ?

着いたら夜だよな?

暗視装置とかないと 何も見えないんじゃないのか?」


「そうだね。森の中は暗いし。

祭壇トフェトがあって、会合... というか

儀式をするつもりなら

それなりに拓けた場所ではあるだろうけどね」


一の山の向こうには、オレの実家、朋樹ん家と神社もある。


「そんな場所がある山、あったっけ?」


「一の山の向こうって言っても

川本さんの家とかがある山より、ずっと先らしいぜ」


川本さんっていうのは

朋樹の父ちゃんの、同級生の おっさん。

一度、朋樹の神社の仕事で

山間の集落に、結界張りの仕事に行った時に

オレらが お世話になった おっさんだ。


「えっ、じゃあ結構 遠いよな?」


「バイクはキツいだろうね。

バスで纏まって行ってみて、いざ会合の時は車も使うか とかを考えた方がいいかもしれない」


「近くのホテルとかも見といた方がいいよな」


「そんなのさぁ、参加者は どうするんだよ?」


「宿泊施設が 近くにあるのかもな」


祭壇の場所の話をしても、なんとなく誰も

浅黄の名前を出せない。

ハティとか、ミカエルには言えるのにな。

オレらだけだと、不安になる。


浅黄が憑依されてから、もう結構 経つ。

今 隠れていても、会合には顔を出すだろう。

また来週末まで待たねぇとだけど...


「準備って、他 何かいるかな?」


「どんなところかわからないと何ともね。

スコープなんかは、シェムハザやアコに用意してもらおう」


「おっ、ボティスから着信」


「あいつ、スマホ持ったんだ」

「今日だけだろ。送り迎えのために」


ボティスが里に行って、迎えが必要な時は いつも

浅黄が電話してきてたからな。


「行くか」


とりあえず、ジェイドの家を出て

教会墓地近くの駐車場から バスに乗り込んだ。




********




まだ早い時間だけど、もう暗い。一の山を越え

朋樹の神社や、オレの実家がある辺りも越えて

今は 一応、この辺りの市街地を通っている。

今日はオレが運転だ。


二車線の道路沿いには ショッピングモールや飲食店が並んでいるが、ここを越えるとしばらく何もない。


「コーヒーとか買っとく?」

『マシュマロもいるぜ』と、コンビニに寄り

道を折れ、橋を越えると 店どころか家も減ってくる。昼間なら田畑が広がる のどかな風景だが

夜見ると、かなり寂しい感じがする。


さっき越えた橋とは別の川沿いの道路を走り

道が緩やかに登り始める。

春にお世話になった民宿も越えて

川本のおっさんが暮らす集落の脇の道を越えて下り、別の山に入った。


「この山も中腹のトンネルから抜けるぞ」


ナビ役で、助手席にアコがいる。

膝に露ミカエルもいるけど

『そういや お前、天でもバラキエルといたな』

「そう。一緒に堕天したんだ」と

マシュマロ食わせてやったりして、アコは早くも ミカエルに慣れた。


祭壇トフェト近くに着いたら、シェムハザも呼んで

合流する予定だ。


「祭壇の近くって、ホテルか何かあるのか?」と

後部座席から朋樹がアコに聞く。


「うん、中腹に温泉付きのホテルもあるし

少し離れたとこに バンガローもある。

でも祭壇トフェトは、その山の山頂付近だ。

今日の昼間、何かたくさん運び込まれてた」


「これさぁ、今日すでに泊まりの勢いじゃね?」


ルカが、外灯のない夜の山道を 窓ガラス越しに見ながら言っている。


確かに、バスで行けるとこまで行っても、山頂付近までは山登りするし、すでに 一時間くらい走ってる。

下見して、夜中や明け方に帰るのはキツいかもな。


「アコ、着替え持って来いよ」


ボティスが言うと、アコが「全員分?」と

また助手席から振り向くが

「僕の家の客間にある」

「おう、頼むぜ」と、普通に言われ

「わかった」と肩を竦めた。


山を突っ切る長いトンネルに入ると

露ミカエルが、アコの膝からフロントガラスに

前足を乗り出して トンネルの先を見てる。


『おもしろいな』

「うん、そうだな。たまにトンネル歩いてみたりしてる。もっと暗いとこ。俺、悪魔だから」


アコとミカエルも合う気がするぜ。


トンネルを抜けると、小さめの駐車場があったから、一度バスを停めて、休憩に皆バスを降りた。


「山だよなぁ... 」

「山から山へだもんな... 」


眼下にも灯りは乏しい。かなり遠くにはある。

連なった山の中にいる感じだ。


「こんなとこまでさぁ

本当に会合とか来んのかな?」


「自分の地位を上げたい者なら来るだろ。

参加者以外に知られずに、今後の利を上げる繋ぎが出来るからな」


ふん と、ボティスが鼻を鳴らす。

そうだよな。知られない方がいいんだし

権威あるヤツが集まるんだもんな。


「今、参加者を調べてるけど、でかい病院の医者も、ジャパニーズマフィアも含まれてるぞ。

司法系の奴等も」


「マジか... 」

「儀式ってことがバレなければ、登山してるだけって言えるしね」


そろそろ行くか... ってなって、運転をルカに代わってもらうと、L字の後部座席の 運転席の後ろに座る。


「飯 食うとことか... ないよなぁ」

「シェムハザの お取り寄せ頼りになるな」とか

話しながら、ナビ要らねぇんじゃねぇか? と

思うような 一本道をバスが進む。


「この先は、右側の登る方の道に入ってくれ」


うん、ナビ要るか。


しばらく進むと、でかい建物と灯りが見えてきた。ホテルみたいだ。


「これ、アコが言ってたホテルだよな?」


「そう。温泉つき。

温泉が出たから、ホテルも こんなとこにあるんだろうけど」


「結構でかいよな」と 話しながら

ホテルを通りすぎて進むと

“キャンプ場” と書いてある、木を輪切りにしたような 看板が出てきた。


「さっきの看板で曲がれば、キャンプ場。

各バンガローも温泉付き」


『俺、温泉入りたい』


うん。ホテルにねこは難しいし

泊まるなら、こっちがいいかもな。


またしばらく進むと「もうすぐバスは停めるぞ」と、アコが振り向いて言う。


その先は、いきなり舗装が途絶えていた。

駐車場とも呼べないような広場があって、そこにバスを停める。


シェムハザを喚んで、アコにバンガローの予約を入れに行ってもらい、バスの中で シェムハザお取り寄せのバケットサンド食いながら

「懐中電灯は?」

「灯りは点けん方がいいだろう」と 話し合い

暗視スコープも取り寄せてもらった。

頭にベルトを巻いて、細い双眼鏡みたいなやつを

装着するタイプだ。


「おっ!」「カッコいいよな」

「サバゲーで使うやつっぽい」「映画みたいだ」


早速 スコープを付けると、視界全体が 暗視カメラ映像みたいに、緑色に見えた。

服の模様とか わかるくらい、かなり見える。


シェムハザやアコは要らんらしい。

露ミカエルも大丈夫だ。

「見えるからな」って言葉に、ボティスも頷く。

おまえも見えるのか...


「じゃあ、山頂に向かうぞ。

とりあえず、この道っぼいとこ真っ直ぐ」


アコに続いて、獣道 とまでいかない道を進む。

小さめの車なら、無理すれば まだ通れるかもしれん。


でも進む度に、道は狭くなっていった。

今は、横に 二人並ぶのがやっと ってくらいだ。


「結構 坂、急じゃね?」

「道らしきものがあるだけマシだけどね」


道らしきものが獣道っぽくなった時に

「俺やシェムハザが来れるのは ここまでだ」と

アコが言った。


「異教神避けがしてある。

森に入っても、祭壇トフェトには近付けない。

空を飛べば、上からは見えるけど

空からも近寄れない」


里の結界みたいな感じか...

ドームや箱を かぽっと被せたように、異教の神を避ける結界があるようだ。


アコは、先を指差した。

スコープの視線を向けると、獣道の先は

木々のない広場になっている。


「良し」と、ボティスと露ミカエルが進んで行くのに「待てよ」「おい 静かにしろよ」って

言いながらついて行く。


ジェイドが「結構、草の丈がある。ミカエル」と

呼ぶと、露ミカエルは振り向いて、ジェイドに飛びつき抱っこされた。


「これか... 」


少し歩いただけで、広場には すぐ着いた。

バスを降りてから ここまでは、歩くのも そんなに大変じゃなかった。

ホテルやバンガローからも 歩けない距離ではなかったけど、バスを停めた広場までタクシーを使えば、今オレらが歩いた距離だけで済む。


広場は元々、木々が少ない場所だったように見えるが、最近 幾本かの木を切り倒して新たに整備したんだろう。

枯れかけの草も抜かれ、ぽっかりとした広場の中に、白い石の祭壇トフェトがある。


辺りを見回したところ、周囲には何もいなく見えるが、朋樹が四方に式鬼を飛ばして確認すると

「巣にいる鼠や野鳥くらいだな」ってことだったので、祭壇トフェトに近付く。


祭壇トフェトは簡素な造りだ。

中心に、横1メートル、縦70センチくらいの

平らな台があり、台の下は草模様のモチーフが彫られ、両脇には松明を差すための鉄籠付きの柱。


その祭壇の背後に、ビニールシートに被われた

でかい何かがある。

3メートル以上はありそうだ。


「モレクの像か?」

「多分な」


「こんな でかいの運んだのか?」

「パーツ運び込んで、ここで組み立てたんじゃないか? 大型の像は そうするだろ?」


『シート 外してみろよ』


露ミカエルの言葉で、オレらは また周囲をうかったが『あいつはいない。気配がないだろ?』と言っている。

確かに、あの ぞわっとする気配はない。


シートの上から巻かれている紐を外していく。

朋樹の呪の蔓で、上の方のビニール紐を外し

オレとルカで シートを引いて外す。


暗視スコープでそれを見上げると、圧倒され

背筋を何かがのぼった。


雄牛の顔をした、でかい胸像だ。


先が上を向いた 二本のつの

肘から先の両腕を前に伸ばし、両手は何かを受け取る形に、手のひらを上に向けている。


みぞおちには、くぐって入れるような大穴が空いていて、内部には、小麦粉や牡山羊など

他の供物を捧げる棚が 七つ付けられていた。












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