29


「あっ! 泰河くん!」


カフェに行くため、道を渡ろうとした時に

明るい声に 振り返った。


シュリちゃんだ...

ちょっと、なんでだよ... ?


「何をしていた?」って、ボティスが聞く。


「えっ? あのっ、今日は お休みだから

お客さんに誘われて、ここに... 」


勧誘された ってこと?


「シュリちゃん、ちょっと こっち向いて!」


額を凝視する。ある。文字は両方。

すぐに筆で なぞって、泰河が文字を消した。


「えっ? 何なに? 何か ついてた?」


「その客は、どこにいる?」って

ボティスは無視だ。


「えっと、さっき前に出て、喋ってた人なんですけど、なんか 明日の話し合いがあるとかで... 」


「明日?」


「うん、明日は もっといっぱいで集まる って言ってて... 」


「おまえさ、誘われたからって

なんで 何でも付いて行くんだよ?」


泰河、怒ってやがる。

けど マジで危ないもんな。


「えー、クライシ様って見てみたかったしー。

知ってる? 動画 観た? すごくない?」


全員 ため息つくけど、オレも ついてんの見て

「あっ。ルカくんは なんか、心外なんだけどー」とか 言った。

「オレだって、それ心外だしー」って 返して

二人して笑う。


「今日、榊ちゃんはー?

会いたかったんだけどー」って

ボティスの肩にいる露子に 指を伸ばしてる。


「この子、眼がキレイ! 碧いねー!

碧って、白猫さんに多くない?」


... ミカエルか。


眼の色 褒められて 得意顔してやがるけど

ボティスが無言で肩から剥がして

シュリちゃんに渡した。


「お腹 空いてない? あっ、もう食べた?

良かったら 一緒に食べない? 奢るしぃ」


ま、話もまだ聞きたいけど、奢る?

なんだよそれ。


「要らん。お前が出すな。飯は今からだ。

ルカ、露が入れるかどうか聞いて来い」


「やったぁー! もうちょっと 一緒にいたかったんだよねー。せっかく会えたから」


カフェに、猫入店ってどう? って 聞きに行こうとした時に

「露が入店 出来ないなら、僕の家やルカの家で

食べればいいよ」って

ジェイドがシュリちゃんに言ってる。


泰河と 一緒に居させてあげたいっぽい。

シェムハザもアコも来るだろうし、その方がいいかもだよなー。


「でも あたし、ずっと

お世話になってばっかりだから... 」


「オレ、何もしてないぜ」って 朋樹が言うし

「この怖い人なら、気にしないでいいよ。

何でもないことなんだし」って

ジェイドが ボティスを指差して言う。


うん、オレらマジで 何もしてないんだけど

なんか、シュリちゃんて

甘え慣れてないのかな って感じする。


「シェムハザ」


ボティスが喚んで、オーロラみたいな何かが

揺らめいて、シェムハザになると

シュリちゃんが 露ミカエルを抱き締めて

「きゃあっ!」つった。


「すまない」って、シェムハザが謝って

「説明もせずに、いきなり喚んだのか?」って

ボティスに言うと

『そうだぜ、こいつ。俺も喋らないでいたのに』って 露ミカエルが答えた。


「... 化け猫?」


『猫天使?』


「天使ぃー?!

まあ、かわいいから いいんだけどー」


うん、軽いよなー。


「どうせだろ。そいつは榊と友だ。

ミカエル、加護」


ミカエルが加護を与えて、シェムハザが指を鳴らすと、シュリちゃんの胸にダイヤのネックレスが掛かった。


「えっ?!」


さすがに ビビってるぜ。


「店で付けるといい」


「な? 何も気にすることないんだって」

「そ。指 鳴らして済むレベル だからさぁ」


朋樹とオレが言ってたら

「そうだ、繭から孵ったんだ。

白くなったんだよ」って、ジェイドが

アンバーに姿を顕させる。


「えっ? 何ていう動物なの?!

かわいくない?」

「インプっていうんだ。糸を紡げる」


もう 動物でいいよなー。


「シュリは勧誘に乗って、感染していた」


ボティスは、だいたい いきなり呼び捨てだけど

呼ばれた本人も

「だって、クライシ様 見てみたくってー」と

別に普通だって勢いだし。


「何故そんな...

君が 蝶になるところだったんだぞ」


シェムハザが 真面目な顔で言うと

「えー、そんなこと... 」ある訳ない みたいに

言いかけて、シェムハザの出現と

今のところ 化け猫ミカエルを思い出したようだ。


「... 本気で言ってたりする?」


シェムハザが ため息をついて

「もう少し説明はしておけ」って

泰河だけじゃなく、オレらにも厳しい眼を向ける。


けど そうだよなー。

何も知らなきゃ 面白がっても仕方ない。

普通には あり得ないことだしさぁ。


「少し説明をしておく必要がある。

この人数だ。召喚部屋へ向かえ」と

シェムハザが消える。


「勧誘範囲が拡がってきたな。

ミカエル、沙耶夏に加護 付けて来い。

ゾイが外す時もあるからな」


ボティスに言われて『後でケーキ』って、ミカエルも 露子から抜けると

ボティスは、バスのドアを指差して オレに開けさせて、シュリちゃんに「乗れ」って言う。


まだ「でも... 」とか言ってる シュリちゃんの背を

「そろそろ 怒られるぜ」って 押して

オレらもバスに乗り込んだ。




********




召喚部屋に着いて、シェムハザ お取り寄せの飯

食ってたら、アコが戻って来た。

ミカエルも露子に降りてる。


「あっ、ショーパブの子!」って

アコが目敏めざとく シュリちゃんに気づくけど

「順は無しだ」って ボティスに言われて

「わかった」って あっさり了承した。


「人が集まってたのは、公園 二つと 河川敷。

廃工場の跡地と、公共グラウンドだ。

それぞれ喋ってる奴と、霊媒になる奴がいた。

赤ん坊がいたのは公園の 一つ。全員 感染した」


河川敷には、50人はいたと思う。

全部で 何百人単位だよな? どうするんだよ...


「今すぐに変異はないだろう。

望んで来た者には、蚕も無い。

数集めをしているところだ」


「でも、それにしても早いだろ?

たった何日かで、何百人だぜ?」


「もし、また何人かを、不安を煽るために変異させたら? 誰がそうされるか 予測が付かない」


「繭の時点で回収するしかないが、遅れる場合もある。

軍の者に、東西の病院に分けた者等を 見に行かせろ」


ボティスが言うと、またアコが消えた。


そうだ。入院してる人たちは、ちゃんと回復していってんのかな?

ウスバアゲハの人は まだしも、蚕の人も。


「さて、シュリ。

君には少し、こいつ等や俺等の説明をしておく

必要がある。もう関わっているからだ」


シェムハザも 普通に呼び捨てやがる。

考えたら、沙耶さんも “沙耶夏” だ。

見た目 外国人だと、違和感ないよなー。


「こいつ、本当は “朱里アカリ” っていうんだぜ」


泰河が、五枚目のガーリックトースト食いながら言う。美味いけどさぁ。

なんか 意識してやがんのかな?


「では、アカリ。

まず、ジェイドは祓魔だ。エクソシスト... 」


シェムハザが 説明する間に、ボティスがバーカウンターの方に行ったから、オレも ついていく。


「ワイン」って、寝かせてるワイン 指差すし

「どれだよ?」って聞いたら

「ドイツ。白」って言う。

一度、アコが持って来たやつだ。


「シェムハザ、セロリ」って言ったら

マジで取り寄せてくれて

カウンターに、セロリのマリネの皿が出た。


「オレも グラス」って、何故か 泰河が来やがった。

今は、シュリちゃんのとこに居ろよなー って 思うんだぜ。


で、「榊は?」とか ボティスに聞いてる。

里か 四の山じゃね? って思ったら、やっぱり

「会議が終わったら、一度 里」だし。


「何おまえ。なんか、落ち着いてなくね?」


カウンターの中から聞いたら、泰河は ムスッとしたけど、ボティスは ニヤッとした。


「何だよ、ボティス」


「いいや。何も言ってないだろ?

榊の連絡先を アカリに教えておけ。

浅黄 呼びゃあ、丁度... 」って、濁して

セロリ食ってやがる。


なるほどー! 泰河は、こーいう やり方が

気付く やり方ってことかぁ...


泰河、シュリちゃん... いや アカリちゃんのこと

意識し出してるって思うんだよなー。


「えー、浅黄じゃなくて、オレにしねー?

リラの話とか出来そうだしよー」


半分 本音言って、自分で あっ... てなる。

胸 痛ぇ...

ボティスは、“バカか お前は” って呆れたツラだ。


「おう、行って来いよ」


泰河が 気遣いのツラで言う。


「んん? おう...  いや けど、やっぱ まだ

それも つらいかも! お互いにさぁ」


「ルカうるせぇ」って、朋樹も来て

泰河に「おまえ、退け」とか言った。


「ボティス、ウイルスの変異についての話だ。

ハティも会議には出たんだろ?

ウイルス進化の兆しはあんのか?

それと アルファとオメガについて、染色体の転座位置の違い以外に 違いは... 」


わからん話しを し出す作戦かぁ。

やるな、なかなか。


「オレも座ろー」って、朋樹とは逆の ボティスの隣に座っとく


ボティスの隣を立たされた泰河は、グラス持って

余計 ムスッとしたけど

「泰河、こっちもワインだ」って

シェムハザに呼ばれて、ワインとグラスを運ぶ。


ちょっと振り向いて見てみたら、泰河は

シェムハザとジェイドの向かいに座る アカリちゃんの隣に座った。うん、まずまず。


「マジでハティも来たんだろ?」


朋樹、ガラッと話し方変わったし。


「榊たちにも 感染するのか?」


あっ、それ気になる!


「いや。調べたところ、感染は人間のみだ」


「おっ! なら 感染に関しては心配ねぇな」

「良かったよな、マジで!」


「だが それも、今のところだ。

まあ、ホストジャンプするとしても

霊獣は 悪魔と似た括りだ。

ウイルスの場合、寄生より 心配は要らん」


露ミカエルが『エデンのゲート 開くぜ』って

カウンターに乗る。


理由を聞くと、アカリちゃんは

シェムハザやアコを見て、悪魔は信じたけど

天使は「嘘ぉー」って 言うらしい。


めずらしく、ボティスが簡単に頷くと

露子の眼の色が戻って

オレらの背後に、白い光が弾けた。


アーチの門から、ブロンドくせっ毛のミカエルが

白い翼を背負って出て、薄い階段を降りる。


「ほらな、天使だろ?」


ミカエルが言うと、ソファーから振り返ってた

アカリちゃんは、ミカエルの眼を見た。


露ミカエルと 同じ色で 同じ声だし

露子が駆け寄って「にゃー」って鳴くと

すぐに「本当だ... 」って 信じて、両手で口元を覆った。

泰河が気づいて、隣で あっ て顔する。

うん。アカリちゃん、何か 泣きそうだ。


「ね、それって

リンが居た、あのアーチだよね?」


アカリちゃんが、ジャズバーのコントラバス奏者に 決まった夜

バスを入れてた駐車場に、エデンのゲートが出た。


そこには、ブロンドに グリーンの眼をした

リラが立って


その時に オレらは、忘れていたリラを思い出した。


「じゃあ、リンは... ?」


「今から、ちゃんと話すよ」って

ジェイドが言ったけど、ミカエルが遮って

「天にいる。天使になったから。

俺が支配する楽園配属の天使になる。

今は まだ、第二天ラキアの街で研修中」と

結論の方から言った。


治療中 とは言わずに、研修中 って言ってくれて

オレは、なんか 嬉しかった。


「よかった... 」って、アカリちゃんが

両手で 顔ごと覆うのを見ると、胸に 温かいものが沁みる気がした。


「人間の時のリラの話の後に、楽園のことを話してやるよ」って、ミカエルもソファーに座る。

泰河が、アカリちゃんの背中に 手を添えた。





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