21
シェムハザが肉を焼く間、アコが配るカレーをもらって食う。
「おっ、美味いじゃん!」
「人参は どうであろう?」
「一番 美味いぜ!」
榊は「ふむ」って ゴキゲンになった。
「食してみよ」って、ボティスにも山盛りを渡して
「人参しか入ってねぇ」って 笑われてるし。
「飯も上手く炊けてるじゃん」って アコに言ったら、アコも食いながら
「そうだろ?! 火加減とかは浅黄が管理した」ってことらしい。おまえは 何してたんだよ。
「さて。細胞の中には “核” があるが... 」って
肉 引っくり返しながら、シェムハザが言い出す。
「うん? 染色体などの話か?」と
何故か 桃太が食いついた。
30年くらい、人里に紛れて会社勤めしてたみたいだしな。オレらより ずっと物知りっぽい。
「そうだ。ルカと泰河は、何も知らんからな」
「うるせーよ、ボティス!」
「そんなこたぁ もう、誰でも わかってんだよ!
ニンジン食っとけ!」
何もなかったよーに、ワイン片手に 肉の焼け具合をみながら
「ヒトの細胞核についての話になるが... 」って
シェムハザの講義が始まった。
「この “核” には、父親由来と母親由来の 2本1組の染色体が 全部で46本、23組ある。
22組が常染色体。1組が性染色体だ。
常染色体には、大きい染色体から順に 1番から22番までの番号がついている。
性染色体には、X染色体とY染色体があり
男は、X染色体と Y染色体をもち
女は、X染色体を2本もっている」
あっ、なんか聞いたことがある。
XXとかXYとか。
「これらの染色体は、1本あたりに 30億個、
2本の染色体では 60億個のDNAがあるのだが
そのDNAに、約3万個の遺伝子が存在している」
「ダメだ。もー わかんねー」
「何だよ、その数字。億とか出てきたら
オレら もう知らねぇよ」
「しゅーりょー しゅーりょー!」
「カレーおかわりぃ」って言ったら
「ハイ」って、白尾が皿受け取ってくれて
「あっ、ごめんな」「ありがと!」って なる。
けど、お代わりもらってたら
「突然変異は 大きく分けて、遺伝子突然変異と
染色体突然変異... 染色体異常の 二つがある」って
またシェムハザの講義が始まる。
「おまえら、わからなくていいから
もう静かにだけしとけよ」とか、朋樹に
言われるしよー。
けど、榊と白尾の後に、肉も もらったから
とりあえずカレーと食うことにする。
「遺伝子突然変異は、基本的にDNAの複製
... これは、細胞分裂する時に DNAも複製される過程だが、その時のミスにより起こる。
その他の原因として、化学物質によるDNAの損傷や、複製ミス、放射線照射によるDNAの損傷などがある」
「基本的にDNAの複製のミスで起こるけど
自然環境の中では、周囲の環境に関係なく ランダムで起こるんだ。
だけど 放射線照射によって、人為的にも突然変異を起こすことが出来るようだよ」
ふうん。話がわかってるらしい ジェイドが
補足してるけど、理由なくミスる場合もあれば
人が起こそうとして起こすことも出来る、ってことか。
「全身の身体の細胞が すべて同じ遺伝情報を持っているのは、 細胞分裂のときに DNAが丸ごとコピーされるからだけど
時々 コピーミスが起こって、別の塩基配列に変わっちまうことがあるらしいぜ。
他にも、煙草や薬に含まれる化学物質や 紫外線、
外からの刺激でも 変異は引き起こされてるけど、
その都度 細胞の修復機能が働いて、元通りになってる。
気づいてねぇだけで、身体の中ではDNAの 変異と修復が日常的に 繰り返されているみたいだな」
へー って、肉 食いながら ぽんやりする。
普段、多少の変異は修復されてる ってことかぁ。
なんか すげー... のかな?
すげーのか
桃太が
「遺伝子を形作る DNAとは
Aのアデニン、 Tのチミン、 Cのシトシン、 Gのグアニンの 4つの塩基から成っておるが、
遺伝子の変異とは、その塩基配列が
例えば、ATCGのはずが、ATGGやATGになったりすることだ。
それによって、遺伝子の情報から本来 作られるはずの蛋白質が 作られなかったり、
正常とは異なったものが作られたり などをし、
ヒトの身体において 病気としての症状を示す」
とか、わかりやすく説明してくれた。
「へえ」って、泰河が また肉取った。
うん。ふわっと わかってきた気はする。
「そして 染色体突然変異は、染色体の 欠失、逆位、転座、重複などによる構造の変化や、染色体数の増減などの変異だ」って
もう、あんまりオレらは見ずに
ちゃんと話 聞いてる榊とか白尾、浅黄に向けて
シェムハザの講義が続く。
「わかりやすく、正常の染色体の遺伝子配列を
ABCDE、とした場合の 変化とすると
“欠失” は、ABDE。Cが抜けたということだ」って
ボティスが補足してやってる。
わかりやすいのかよ、それ。
「紙に書いた方が わかりやすいな」って
朋樹が 霊符を裏にして、ペンと 一緒に渡した。
「“逆位” なら、ACBDE。BとCがひっくり返る。
“転座” は、染色体の 一部が切断され、他の染色体に付着することだが、その中の “モザイク” なら
ANBCDE。別の遺伝子の Nが組み込まれる。
“重複” は、ABCCDE。Cがコピーされる。
“倍数性” は、染色体数が 2本ずつや、7本ずつなど、本数に 倍数関係が見られることをいい
“異数性” は、染色体が 1~数本 増えたり減ったりした場合のことをいう。
ヒトの異数体には、何番の染色体を3本持つと
何々症が顕れるなどの例がある」
何々症って、ふせてるけど
染色体異常疾患の名前なんだろうと思う。
「次に、種の分化について 少し触れるが... 」って
話ちょっとズレる。オレらは わからんまま
突然変異の仕組み講義は終了だぜー。
「生物の種の分化は、まず集団の個体に突然変異が起こるところから始まる。
しかし、変異自体には 特に目的はない。
したがって、個体にとって有害な変異であれば
自然に淘汰され
逆に有益な変異であれば、集団全体に広がることになる。
また、有害でも有益でも どちらでもない突然変異も 多く存在する。
つまり生物の進化は、突然変異の繰り返しであり
集団中に 変異が広がることによって、種の分化が起こる きっかけが生まれる ということだ。
幾世代に渡り 変異が累積していけば、別の種へと変化する事になり、これが進化のプロセスの 一つと考えられている」
ふうん。猿になったり人になったり... とか
もっと
水の中から 陸に上がれるようになったから
陸にも... って 話っぽいけど
「コーヒー 欲しいんだけどー」って
取り寄せてもらう。
でかいポットで取り寄せてくれたのは、やっぱり
“もう黙っとけ” ってことだよなー。
山盛りニンジンカレー食った ボティスが
「人参が美味かった」って、榊に皿 渡して
オレに「珈琲」って 言って
「人間は、より優良な動物や植物を作り出すため
交配と選抜を行い、品種改良を行ってきたが
まったく新たな種が生まれるということはなかった。
近種のハイブリッドはいても、交配 出来るのであれば、それらは 同じ種と括られる からな。
野菜は味が良くなろうと 野菜のままであり
犬や猫には 多数の品種が生まれたが、犬は犬、猫は猫。同じ種のままだ。
それ以上の向上はなく、品種の改良には限界があると考えられる。
遺伝システムには、制約が組み込まれている ということだ」 って
コーヒーのカップ受け取って言った。
うん? 人為的に出来ることには 限界がある、ってことかな?
「遺伝子情報変更による 種の多様化を、人間は どこまで把握できているか... というとだ。
未だ遺伝子情報の 1.5パーセントしか解読できていない上に、残りの98.5パーセントは複雑過ぎることもあり、まったく解読は進んでいないからな」
「えっ? マジかよ?」
めずらしく朋樹だ。泰河は
「シェムハザぁ、アンバーとオレにデザートくれよ」って言って、アコが
「たくさん買ってあるぞ」って
クーラーボックス開けて、コンビニプリンやら
ケーキやら大量に テーブルに置いた。
「六ヵ国協力で、ヒトゲノムDNA 30億塩基配列の
解読完了、って... 」
ゲノム っていうのは、ある生物のすべての遺伝子情報 ってことらしい。
ヒトゲノムなら、人の全部の遺伝子情報。
「それが、全体の 1.5パーセント ということだ。
明らかにされた人間の遺伝情報というのは、人体の構造を生み出す 蛋白質合成に必要な “機能遺伝子” の部分だけだからな」
ジェイドは 知ってたみたいで
「すべては解読 出来そうにないね」って
白尾たちにも コーヒーを注いでる。
「ついでに言うと、10万個はあるだろう と予想されていた ヒトゲノムの持つ遺伝子の数は、約2万個程度だったことがわかり、これは細菌などの単純な生物と比べても 10倍程度にすぎず、ショウジョウバエや線虫と さほど変わらん。
さらに 解読によって明らかになったのは、人間の遺伝子は、かなりの部分が地球上の他の生物と共通している ということだ。
例えばだ。人間の遺伝子のうち 2758個は ショウジョウバエと共通で、線虫とも 2031個が同じ。
この三者に共通する遺伝子も 1523個あった。
要するに、人間と地上のすべての生物は、遺伝子の上では 大した差がない ということだ」
2万個のうち、3000近くはハエと同じかぁ...
けど、同じ星の生物なんだから
そりゃ そーなんじゃね?
そう言ったら、シェムハザが
「その通りだ」って、意外 って顔しやがって
「だが 生物の DNAは、多様性を秘めている。
また、日常的に変異と修復によって 絶えず揺らぎ続けている。
進化などしないように見える生物であっても
多様性は時と共に高まり、機が熟すと 進化は短期間で 一気に進むこととなるが、これを更に加速させることのある存在が ウイルスだ」って
なんか、核心みたいな感じで言った。
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