16


「ショーパブにカジノか。

まったく、あいつらしい店だ」


うん。ボティスの店じゃねーけどな。


「オレは先に降りるぜ!」って

まだ怒ってる朋樹と

「まだバカラやってねぇ」って泰河が

カジノの方に行くし

「オレも」って行こうとしたら

『ヴィタリーニ家は 顔を出すんだ』って

シェムハザに止められる。


ジェイドは こないだ

まっすぐカジノに行ったじゃねーかよ。


シェムハザは姿を見えなくしてるけど

アコは そのままだ。


「ちょうどショータイムじゃないか。

日本の女の子は かわいいな。

でも今まで見た中じゃ、榊が 一番きれいだ」


こいつ、思ったこと 全部 出るみたいだよなー。


『300』って言うシェムハザに

「200だ。そろそろゴールド換金することになる」って、ジェイドが交渉する。


『さっきのマシュマロ分は、俺が出す』

「二万でいいぜ」


嘘だろ? って顔だけど

オレら、クチコミ大事だし

リピーター取りたいから、そんなもんなんだぜ。


なんとか200で落ち着いて

チケットとテキーラもらって、アコが 次々 飲む。

合間に「ステージのが好みだ。背中が」とか

褒めてんのかよ ってこと言いながら。


こいつ、見た印象と違うよなー。

見た目は 多少 ちゃらついてるけど

中身はクール っぽく見えるのにさぁ。


ジェイドに 女の子 群がり出して

『お前は、あの娘を連れて来い』って

シェムハザに言われるけど

なんか、行きづれーしよー。


「俺も行く」


「えっ? なんでだよ?」


「大人しそうな娘の方が かわいい」


『アコは 手が早いぞ』とか

シェムハザ笑ってるし。


壁際にいる何人かの子の前に着くと

「かわいいな。ショートへアは好みだ」って

リラに言う。早ぇな マジで。

しかも、結構 何でも好みじゃね?


「この子がさ... 」って言ったら

「ああ! シェムハザに聞いた。見えない娘か。

お前、キスしたんだろ?」だしさぁ。

他の子もいるんだし、慎めよなぁ。もう。


「俺はアコだ。こいつの友。今日から。

ショートへアは、こいつといるとして

他の子は、一緒にテーブルに来い。

飲みたい物を飲め」


こんなんなのに、リラの他にいた

三人くらいの子は嬉しそうだ。

ジェイドんとこ連れて行って

ちょっとしたハーレムみたいになってるし。


ぽつんと残ってるリラに

「よう」って言ったけど、顔 見ねーの。


「なんだよ おまえ。いきなり無視かよ」


「... ううん、ちがうけど」


「こないだ悪かったな。

オレ、ちゅーとかしてよー」


「さっきの人って... 」


今のオレの発言は無視か。


「悪魔だぜ。バラキエルの配下」


「天使なのに? 悪魔が?」


「そ。バラキエルが悪魔の時の配下。

まあ、女の子に何もしねーし」


テーブル振り向いたら、口説いてるようには

見えるけどな...  いっか。

で、連れて来いって言われてんのに

こいつは こっち見ねーしよー。


「何おまえ。急にイヤになった とかか?

なんかあるよな、女の子って そういうの」


「やだ違う...  恥ずかしいだけ」


うーん。ちょっと めんどくせー


「とりあえず、こっち見ろよなぁ。

バラキエル召喚に来たけどさぁ

今は おまえに会いに来てんだぜ。客だしオレ」


見ねーし。


「じゃ、いーわ。またなぁ」


も、ほっとこ。かわいくねー。


一人でテーブル戻ったら、ジェイドに睨まれるし

「ショートへアは?」って アコが言うし。

泰河いたら、うるさかったんだろうな...


「フラれたぜ オレ」って 言っとく。


そしたら、アコが行くしさぁ。

いいんだけどよ、別に。


なんか話して、触んな って店なのに

お構いなしに 肩 抱いて連れて来た。


「おまえ、フラれてないぞ」


こいつ ちょっと、オレと似てる気がする...


シェムハザが笑って

カジノに行く。その娘だけ連れて行こう』とか言う。今日は 姿は顕さないらしい。


「またね」ってジェイドが言うと

「えっ、早いー」「なんでー?」ってなるけど


アコが「下で勝って、また今度ゆっくり来る。

いいか? 次まで誰にも触られるなよ。

ちゃんと俺に取っておけ。順にいく」とか

触れねぇ店で、かなり意味不明なこと言ったのに

きゃー!とかなってるし。オレ わかんねー。


『アコとなら寝たいようだ』って

シェムハザが補足みたいに言う。嘘だろ?

順にいくのかよ?


『あれでモテるんだぞ。ボティス並みに』


マジかよ...  副官も って、イヤな軍だぜ。

二人とも シェムハザとは何か違うけどさぁ。

見惚れたりとかはないよなー。


「ショートへア。お前は、ルカと来い。

俺が言うんだから聞け」


リラが頷いて、オレの隣に来るし。


すごいな って顔でオレを見るジェイドに頷く。

命令が まかり通るのが不思議だ。


「ボティスが出す命を

軍に聞かせるのは俺だからな」


ふうん。わかんねーけど すげぇ。



カジノ行って

ちょい勝ちした朋樹と 負けた泰河 呼んで

イカサマ天使召喚する。


『またか。多過ぎる。三日に 一度も喚ぶな。

仕事がとどこおる。五日に 一度くらいならいい』


週 一とかじゃないんだ。


「ボティス、おまえ

マシュマロ出しやがったな。

なんてもん出すんだ。

それに 浮遊霊 片付けたら、怪異 減って

仕事も減るじゃねぇか。

指輪 まだ買ってねぇんだぜ」


朋樹が言うと『右から 二台目で遊べ』って言う。

スロットか。泰河が「おう」って返事する。


「ボティス! 俺が会いたいから来たんだ」


『アコ。お前は カプリでソリッドパフュームだ。

ルーレット、黒17』


買い物か。イカサマしまくるよなぁ。

まぁそういう天使だしな。


「そうだ、ボティス。

榊の抱っこは控えろよ。ルカ使うやつ」


泰河が言うと『何故だ?』って

つまんなそーな顔になる。


「リラちゃんが見ていて、泣いたんだ」


ジェイドの言葉に『何?』って反応して

『説明を』って、シェムハザの方も見る。


シェムハザとジェイドが説明し終わると

リラは「ごめんなさい」とか言うけど

ボティスには聞こえてないし、見えてない。


『控えろと言っても、そういうものでもない。

情動というやつだ。

ようやく、というところで 天に帰還だからな。

まあ、俺はまだ ゆっくりで良かったんだが。

お前等が急かさなければな。

あれが ずっと続くのは ごめんだった訳だ』


ああ。“もう まとまっちまえよ” 作戦か。

めんどくさかったんだな、ボティス。オレらが。


『だが、もう俺の女だ。

天の上部は俺を手離す気はない。俺は帰るがな。

離れているから というだけの訳ではないが

どうにも いとおしく想う時がある。

そんなもんだろ?

泣いた女は そこにいるのか?』


「ここにいる」と、アコが リラの肩を抱いてみせる。見えてねーけど。


「ショートへアだ。揃った毛先がいい。

すれてない娘だ。かわいい。ルカがキスした」


ボティスがオレ見るけど、なんだよ その

呆れたような眼は。


「眼は ここ」と アコが、リラの眼を指で示す。

「純日本人じゃない匂いだけど

日本的な 二重瞼だ。睫毛が細長くて繊細」


匂いって何だよ...

 

『女。リラだったか?

今 眼を見れているかは わからんが。

悪いが、俺は抑える気はない。

理由は 今 話した通りだ。

だが、ルカはもう お前を泣かさん。そうだろ?』


最後のは オレに言うし。

そのまま じっと眼ぇ見てるから

一応「おう」って、返事 返す。


『良し。今日は お前がリラを送れ』


「は? なんでだよ。オレ別に... 」


『そうか? 今、アコが 肩 抱いてんだろ?

お前は ずっとシケたツラだ』




********




『じゃ、送ってやれなー』って

オレ、置いてかれるしさぁ。

バイクもねぇのによー。


店の前で、着替えてくるの待ってたら

他の子たちが先に出て来て

ルカくん ルカくん 言われるしよー。

シェムハザが “ヴィタリーニ家だ” って言うから

笑顔で「んー、お疲れー」とか言うんだぜ。


やーっと 出て来たと思ったら

近寄って来ねーの!

オレ、ちゃんと『じゃあ送るから』って言って

店 出たのにさぁ。


女の子らに「またね」とか言って

「何なんだよ、おまえ。さっさと来いよ」って

リラんとこ行って、もう手ぇ掴んで

とりあえず歓楽街から出る。

オレ、スーツとかのままだし。なんかイヤ。


「... ごめんね」


やっと話して、これだしなっ!


「はあ? おまえ、それさぁ

オレ避けてること謝ってんのかよ?」


黙ってるしー。


けど。ここで “もう知らねー” って訳には

いかんよなぁ。

あいつら うるせーし、深夜だしよ。


とりあえず、リラの家の方に向かう。

こっから歩いていけるマンションだったし。


「... あのね」


なんだよ って振り向く。リラ俯く。

オレ イラつくんだぜ。


「怒ってる よね?」


おう怒ってるし。けど、そう言ったら

また黙るんだろ? めんどくせーよ。


立ったままも何だし、近くの公園行く。

ベンチしかない小さいとこ。

そのベンチに座らせて、隣に座る。

女の霊いるけど無視! 立ってろ もう。


「なんかね、あんな... 」


こいつは、ためてから喋れねぇのかよ?

ま、なんとか 続きを待つ。


「今日 全然、普通だったから。

あんな、映画みたいなキス したのに」


は? 映画?


「草むらが?」


首 横に振るし。

そうだよな。蚊に食われちまったしさぁ。


「キスの、仕方が」


わかんねー。


「オレ、ちょっと

おまえが言ってること、わかんねぇんだけどー」


仕方って何だよ。

他のヤツの仕方なんか知らねーしさぁ。


「うん。ごめん」


疲れる。こいつ。


「で、避けんのかよ?」


「恥ずかしくて、顔が見れなかったんだけど

ルカくんは、全然 普通だったから

ああ、なんでもないことだったんだ って... 」


そんで、オレが怒った訳か。


「なんでもないってことは ねーよ。あるし。

おまえが かわいかったからじゃねぇのー?」


黙ってるしよー。 言わせんのか


「惚れかけてんじゃね? おまえによー」


「... ほんと に?」って、やっとオレ見た。




********




「なぁ、おまえさぁ」


リラの部屋は、物が少ない。


ベッド、テーブル、タンスと棚。

白とかピンクの 女の子っぽいやつ。


「眼、開けろよ」


ずっと瞑ってやがる。

それで、誰とやってんのか わかんのかよ?


白い肌。細い肩。

ちょっとだけ枕に落ちる 普段は整ってる毛先。


腹んとこから顎まで 手のひら滑らせて

指で 瞼に触れる。


「リラ」


やっと ちょっと、こっち見て

小さい声で「なまえ、よんだ」とか言う。


くそ

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