「腹立つぜ あいつ!

また絶対、肩 固めてやるからよ!」


「けど、シェムハザいたら

また爆笑してただろな。見せたかったぜー」


校舎の中は暗い。外から見た時は

ジェイドたちは 二階にいた。

懐中電灯持ってるから、いる場所がわかる ってのもあるけど、順に教室に入る度に、灯りも点けて点検してた。きっちりしてるよなー。


「七つ目の銅像 解決したし

オレら、することなくね?」


「いや、油断は出来ん。

七不思議で 本が 一冊 出るくらいだぜ?

ボティスは、気に入ったヤツ 全部 出してくる」


泰河は やる気だ。

とは言っても、そんないっぱいは ないと思うんだよなー。


廊下の端から、なんか来る。


「ほらな」


泰河は、見てみろよ って顔してるけど

そいつは猛スピードで走ってきた。腕で。


長い髪。腰から下がない。顔がオレ。

うん。なかなかロン毛も似合う。


「やるじゃん」


オレの顔した そいつが、オレに向かって来る。


『見つけた、私のあ... 』


“脚” って言わせる前に、泰河が 額 触って消した。

“勝った” って顔してやがる。


「けどこれ、七不思議じゃなくね?」

「都市伝説とかも読んだんだろ」


節操ないよな、あいつ。


どっかからピアノの音が聞こえてきた。

ベートーベンの “喜びの歌” だ。

いきなり雰囲気 明るくなるし。


「おっ、完璧じゃねぇか」って

泰河が音 聴いて感心してる。琵琶 弾くもんな。


キャーって声も聞こえるけど、すげぇ笑ってる。

朋樹の『くそ!』って声がした。


「えっ?」


音が増えてきた。


「コントラバスとチェロだな。バイオリンも」


まだ どんどん増える。もうオーケストラじゃん。

怪異のレベル高くね?


「いいな」

「行ってみる?」


音の方へ行こうとすると、どん って音して

軽く校舎が揺れた。音も止む。

朋樹が何かしたみたいだ。


「終わっちまったな。聴きたかったぜ」

「な。よかったのにな」とか、話しながら

二階への階段へ向かう途中

廊下の壁に、明らかに目立つドアを発見した。


開けてみると、やっぱり壁だ。

“塗り込めました” って言わんばかりの雑な感じ。

うん。無視して行く。


「小技いらんよな」って話しながら、階段 昇る。

ボティスは基本も守るようだけど、オレら

塗られた壁 見たって “何があったんだろう?” とか

思わないんだぜー。... そしたらさぁ


「くそ」

「やられた」


二階に着かねー。だいぶ階段 昇ってるし。

ドアの壁で油断したぜ!

振り返って降りようとしても、一階にも着かねー。あいつ...


「言えよ、ルカ」

くっ...

「“なかなかだ”っ!」

二階に着いたし! 負けだ! 腹立つうっ!


もう、二階は朋樹たちが見てたし 三階に向かう。

そしたら、三階で朋樹たちに会った。


「どうだった?」


「考える人と テケテケと、ドアと階段」


朋樹たちは、人体模型とピアノと、音楽家の絵。


「歓喜の歌だったのに、バッハをオレの顔にしやがった! なめてやがる!」


絵は 式鬼で燃やしてやったらしい。

どん って音 考えると、派手にやったな。


人体模型の顔半分は、ジェイドだったみたいだ。

あとの半分は表情筋の様子。


「理科室のテーブルで、頬杖ついて

気取って これを読んでいた」


見せた本は、ゲーテの “ファウスト” だ。

高校ん時 読んだけど、オレは読みづらかった。


「イラッときて、祓ってしまった」

「マジかぁ」


うん。ファウストって

悪魔メフィストが、神と賭けやるんだよな。

ファウスト博士を メフィストが誘惑する話。


ジェイドに “祓え” って言いたかったんだから

祓ったってことは、ジェイドの負け。


「あとは何がある?」

「鏡とハナコちゃんじゃね?」


泰河が リンたちを見てる。


「おまえら、なんで四人いるんだ?」


一人 混ざったか...


「えっ!」

「嘘!」


リン、マユちゃん、ミサキちゃん...


「おまえだ」と、泰河が女の子の額に手を置くと

女の子は消えたけど

「オレ、気づいてなかった」「僕もだ」って

朋樹とジェイドが ショック受けてた。

天使って やるなぁ。


「なかな... 」「言うな朋樹!」

あぶねー。


もう四階まで上がって、トイレをリンたちに

点検させながら、一階に降りることにする。


ハナコちゃんは 二階のトイレの

一番奥の個室に居たけど、コドモだし

「別に居たって良くね?」ってなって

トイレのドアに、マジックで

“はなこの部屋” って書いて出る。


でかい鏡は、一階の校舎玄関付近にあるらしい。

下駄箱じゃなくて、正面入り口。


「えー、別に普通じゃね?」

「いやたぶん、時間が決まってるんだ」

「2時だろ」「4時44分ピッタリ」


まだ22時じゃねーかよ。


鏡の場所わかったし

リンたち家に送るかってなったけど

また学校に戻るのが めんどくさいから

朋樹が大祓して、神札 貼って

「勘弁しろ。なかなかだよ」って言っといた。




********




ジェイドん家 戻って来て

とりあえず四人で、ソファーで ぐったり。


「鏡 大丈夫なんかな?」


「大丈夫だろ。なかなかだ って言ったし。

そもそも、夜中 鏡 見に行くヤツいねーよ。

もっとマシなデートしろよ」


まぁなぁ。


ジェイドは「日本語版はまだ読んだことがなかった」って、背表紙の下に 学校の図書シール貼ってあるファウスト読んでる。


「けどさ、笑わせるよな」


泰河が ビール開けながら言う。


うん。遊ばれてんだけど

こないだまでみてぇに オレら暗くねーし

ギシギシしてねーしさぁ。


オレもビール開ける。

ビールうまい って思うのも、もうちょいだよな。

夜は結構 涼しいし。


「気ぃ使ってやがんだろ。

ハティにまで 体 張らせたくらいだしな」


へっ てツラして朋樹が言うけど

嬉しそうに見える。


「あれだけ仕込むのに、だいぶ術 使ったんだろうしな。天の眼もあるだろうに、遊ぶよな あいつ。尊敬するぜ」


「余裕あるよなー」


「悪魔にも魔人まびとにもなってるからな。

経験も豊富だよな。

まあ、どの状況でも すげぇヤツだ」


そうなんだよなー。

ボティスが、オレらと同じ人間の時でも

敵わねぇ って思ったしさぁ。


「ん?」


ジェイドのスマホが鳴る。


「父だ。めずらしいな」


イタリアのジェイドの父さんからみたいで

テーブルに本 置いて、オレらが うるさいから

キッチンに電話に立った。


ジェイドが座ってた場所に、オーロラが揺らめく。


「揃ってるのか? お前達」


シェムハザだ。


「ああ、ジェイドは電話中だけど」と

泰河が ワインとグラス取りに行く。

オレら、ワイン係 板に付いて来たんだぜ。


注がれたワイン 一口飲んで

「衣類が上がった。ディル」って言うと

テーブルの隣にバサバサ箱が重なった。


「スーツと靴だ。

小物はチップ用マネークリップのみ」


服装規定ドレスコードがあるようなとこで

遊ぶのか?」


「なかろうと、お前達は若い。

最初に見た目で なめられないためだ」


ふうん。


ちょっと箱 開いてみると、見るからに高そな

スーツ入ってたけど、よくわかんねー。


「遊ぶ時は、俺が姿を消して付き合おう。

本当なら、もちろんボティスがいいのだが」


まぁ、だろうけど

シェムハザは 地上 長いし、たぶん なんでもやってるよなー。心強いぜ。


「それで、カジノなどはあるのか?」


「まだねぇよ」って 朋樹が答えるけど

泰河が「モグリの賭博なら幾つか」とか言う。


オレも、やってんだろな って店は

幾つか心当たりある。

父さんのワインの営業 回ったことあるし。


けどさぁ、そういうとこって

いきなり行っても、もちろん入れねーんだよな。

すげぇ金回る時も決まってるだろうし。

オレら 単なるクソガキだしよー。


「新しく出来るところがある」って

ジェイドが スマホ持って戻ってきた。


ソファーに シェムハザ座ってるし

テーブルにスマホ置いて、床に座る。


「ああ、おまえの父ちゃん

何か関係してんのか?」って 泰河が聞く。


「いや、父じゃなくて大叔父の方だ」ってことだけど、ジェイドの じいちゃん... ていうか

オレの母さんの父さんにもなるから

イタリアの じいちゃんだな。


その じいちゃんの兄ちゃん、大叔父が

アメリカにいて、イタリアンマフィアって

呼ばれる人らの 一人なんだよな。


実家うちにも たまに、木箱入りの酒とか

宝飾品 送ってきたりする。


「歓楽街の隅に、新しいビルが建ったらしいんだけど、その地下 一階が ショーパブ

二階がカジノだ。表向きは景品や換金はなし」


「ショーパブう?」と、泰河が軽く 涼しげな眼を開く。オレもちょっと高揚アガるけどさぁ。


なんか、カジノもさぁ

ゲーセンみたいな営業は いいみたいなんだよな。

メダル買って遊ぶみたいに

チップ買ってゲームするだけ、換金なし なら。


「大叔父が出資者の 一人だ。

僕とルカに、大叔父の代わりに覗きに行け と

言ってきている」


すげぇタイミングだよな...


「“遊べ” という合図だな」と

シェムハザが笑って ワイン空けると

「そう。聖霊の導きだ」と、ジェイドが

シェムハザのグラスにワインを注いだ。



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