大学では、とりあえずアフロに跳び蹴りし

翌週、ホテルで聞いた話では

ヒポナは あのホテルのオーナーだという。


「回りくどいことしてないで すぐ出て来いよ」と、言うと

「あの時は違う場所にいた」とか なんとか。

まあ、いいけどさぁ····


で、自然の声を聞くとかいうのが

ほとんど瞑想だったんだよな。


何かが語りかけてくるはずだ とかってさ。

座って寝てたから 一向に来ねぇし。


でも、四週目くらいで 寝てても来た。


コヨーテだった。


煙が作るシルバーグレーの毛皮のコヨーテは

オオカミに似た顔で、狐のような太いしっぽを揺らし、オレの周りをくるくると何周も歩き回る。


そして、何も語ることはなく消えた。


ヒポナは、コヨーテのことを

「トリックスターだ」と言う。


「それって、トラブルメイカーだよな?

いたずら好きで、騙したり

話を引っ掻き回したりするやつ」


「だが、トラブルの後

最終的には良い方向へ落ち着くことが多い。

愚者は賢者でもある」


ヒポナは オレのバングルを指差す。


バングルの模様のひとつ

狼と思っていたのは、コヨーテらしい。


この週以降も最後まで、オレの前にはコヨーテしか来なかった。

ただ、周囲を歩き回って消えるだけ。



このホテルに来る最後の週は、ヒポナが

オレのホストファミリーも一緒に、ホテルに二泊招待してくれた。


日帰りで自宅から来れる距離にしても、片道何時間もかかる。

チビ達が生まれてからは、泊まりの旅行なんかもしたことがなかったから、家族はとても喜んで、チビ達は ヒポナになついていた。


オレがここで修行していたと ヒポナから聞くと、おじさんもおばさんも「グレート!」と

喜んで、オレを抱き締める。


ホテルでこっそり描いていたホストファミリーの家族の絵を渡すと、おじさんとおばさんは泣いた。


大学での最終日は、授業が終わると

安いダイナーに繰り出し

仲良くなったヤツらと騒いで飲み食いした。


そこには 何故かアフロもいて、なんと

小さい地球儀をくれた。


おまえじゃない...


でも地球儀は、今もオレの部屋にある。



帰国する日


空港には、ホストファミリーとヒポナ、アフロを筆頭に、仲良くなったヤツらが見送りに来てくれた。


チビ達がそれぞれ描いたオレの絵をもらった時は、泣くのを堪えるのが大変だったし

ヒポナに、煙にまかれたヒポナの絵を描いた

絵ハガキを渡すと、日焼けした顔をしわくちゃにして笑い「フォーメンだ。覚えておけ」と

謎の言葉をオレに残した。


それぞれとハグし

「また会おうぜ」って、手を振って

ゲートを通過し、飛行機に乗り込む。


濃密なこの半年を、ホストファミリーに

ヒポナに、大学のヤツらに

そして、父さんと母さんに感謝した。


世界はうつくしいと、チビ達を見ながら想ったことは、一生 忘れないだろう。


眼下に春のアリゾナの赤い大地を望み

すっかり感動していた時

機内の通路を白い煙が移動していった。


コヨーテだ。

あいつ、ついてきたのか...


コヨーテは、ホテルでオレの周囲を歩き回ったように、機内の通路を歩き回っている。


歩き回ることに飽きたのか、しばらくは丸まって寝ていたが、起きるとまた歩き回り

寝ている乗客の靴を脱がせて遠くへ投げたり

カツラの乗客の分厚い髪を ずらしたりして遊んでいる。


何が楽しいのか、キャビンアテンダントのケツを嗅ぎ回りながら尾けて歩きだし

とうとうオレは『やめろ』と、強く想った。


すると、コヨーテは耳を立て

オレを振り向く。


通路を近くまで移動してくると

窓際に座るオレの、隣の乗客の膝に乗り

じっとオレを見た。


『いいか、着くまで大人しくしてろよ』


コヨーテは ピスピス鼻を鳴らし

嬉しそうにしていた。


結果を言えば、このコヨーテは

今もオレといる。


普段は、どこか そこら辺で遊んでて

呼べば来る、来たい時も来るって感じだ。


オレはこいつに、オレのル... 琉加の琉と

大地を走るヤツってことで、地を合わせて

ルチ... 琉地と名付けた。


相変わらずイタズラ好きで、冷々するけど

この7年で 良き相棒になりつつもある。



「ニイ、これにする!」


リンが選んだのは

ベージュの革の、小振りのトランクだった。


「おまえ、これじゃ

いくらも荷物入らねーだろ」


けど、リンは譲らない。


「だって、かわいいし

私ひとりで持ち運び出来るもん」


ま、いいか。

大半の荷物はどうせ送ることになるしな。


トランクの会計を済ませ、その配達を店に頼むと

リンにヘルメットを被せて、実家に帰った。

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