第10章 兄妹の結末(2)

「正解だよ。あの二人を殺害したのは、ソルのお父さんだよ」

「…………え」


 その明るい声にソルは目を見張った。

 エルカの声は笑っている。しかし、その目には光がない。


「私は、あの人が二人を殴っている現場を見ていたの。あの二人の殺害現場をね」

「…………」


 エルカの張り付けたような笑みに影が差し込む。その時の状況がどのようなものだったのか、ソルは想像しか出来なかった。


 ソルが見ていたのは、全てが終わった後の状況。

 遺体と、飛び散った血痕を思い出すだけで吐き気を感じ、手で口を覆っていた。だけど、エルカが見たのは、そこに至るまでの光景。


「二人を消すことはね。それは私がやりたいことだったよ。だけど、絶対に出来ないことだった。殺意はあっても、実行に移すことなんて出来なかった。私は子供だし、運動音痴だから、大人をどうにかする力なんてないもの。悪いことだってことも理解していたから思い切ることが出来ないの」


「俺もやりたかったな。でも俺にも出来ないことだ。俺は肝心なときに臆病になって足がすくんでしまう。殺意はあっても、勇気がなかった」


「あの人は二人を殴ることに夢中だった。私が見ていることに気付いていなかった。だから、現場を目撃した後、一度地下に戻ったの。そして、家の中が完全に静かになるのを待っていたの。あの人が立ち去るまで」


 やることを終える。

 やること……とは二人の殺害のこと。


「……その間に、親父はあの二人を………」

「うん」


 エルカは目を伏せた。

 現場の光景が蘇る。一気に気持ちが悪くなる。生暖かい空気、生温い異臭、怒号、何かをしている音、動かない二人。


 その時のエルカは油断していたのかもしれない。彼の、で終わると思ってしまった。


「完全な静寂が訪れたの。それは二人が絶命したことと犯人が現場から去った証だと、私は考えていた。遺体だけが残された状況で私がすべきことを考えたの……そして、私が彼らを殺したような状況を作ることに決めた」

「どうして?」

「私はね……これでも私を産んだ両親を心の底では嫌っていないの。私が惨劇を起こせばコレットが私を気にしてくれる……そう思っていたの」


 エルカは明るい声のまま自虐的な笑みを浮かべる。

 自分を捨てたという母親の気を引くために、罪を犯そうとした。だけど自分では罪を犯せない。だから、誰かの罪を自分の罪に差し替えようとした。あの男の行動は、エルカにとっては願ってもない出来事だったのだ。


「………私は、ように見せる為……彼らにナイフを刺そうとしたけど、刺すことが出来なかった……私の考えは甘かった」

「………あいつがいたのか」


 エルカは震える目で頷く。

 あの男の目的は魔法使いの血を引くエルカだった。エルカが自分を警戒することは知っていただろう。だから、音を殺して歩いていたのだろう。もしかすると、地下書庫から出てくる彼女を何処かに隠れて待っていたのかもしれない。


「……そう、あの人………ソルのお父さんがまだ屋敷内に居た。それに気付けなかった。私が彼らを刺す直前に、あの人が声をかけてきたの。それでナイフを血だまりの中に落としてしまったの。これで血塗れのナイフは出来た」


 ソルは目を細めて彼女の言葉に耳を傾ける。現場で発見されたという血濡れのナイフ。凶器の可能性が高いと言われていたそれの真相は、彼女が現場に落としただけのナイフだった。


「それが凶器であると見られているそうだ。血塗れのナイフは、血だまりに落としたってだけだったのかよ」


「そうだよ。あの人は怪我をしていた。足を引きずっていた。それでも、私が子供で、相手が大人であることは変わらないよね? 正面で戦うなんて自殺行為はできない。かと言って、逃げるなんて選択肢もなかった」


「それで……」


「あの二人にナイフを突き立てるのは後回し。だって私にとって、あの人は邪魔な存在だったから。邪魔者をどうにかすることが先決だと判断した。私の手ではどうすることも出来ないけど、地下書庫に突き落として閉じ込めてしまえば、時間が彼を殺してくれる。そう思ったの。幸い、父さんが放ってくれた炎もあるしね」


 ソルはゾッとするものを感じた。

 先ほどからエルカは嬉々としていて楽しそうに話している。幼い頃、物語の内容をソルに告げていたときのような無邪気な笑顔で。


「そ、そして………お前は」


 確認することが怖い、そう思いながらソルは彼女に確認する。


「俺の父さんを地下書庫に閉じ込めたのか」


 その言葉に、エルカの笑みが深まる。誇らしげな表情を見た瞬間ソルの背中に寒気が走った。


「そうだよ。あれはソルが来る直前だったね。私は地下に突き落として鍵をかけた。そこで、ソルと再会した」


「これが、お前しか知らない真相だな」


「そうだよ……これを全部まとめて、一言にすると……


 …………全員、私が殺したのよ」



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